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第1話
時は1656年、江戸に住む人々が海に流されるかと思うほどの暴風雨が吹き荒れた翌朝のことだった。わずかに残っていた銀と、青のかすかな色合いを帯びた暗雲は、太陽が真東から昇り、穏やかで優しい風が真北から届くと、ゆっくりと消えていった。 北風は山がちな地形を涼しげに吹き抜け、まるでハヤブサが飛んでいるかのようにくねくねと曲がりながら花畑の中を通り抜け、数枚の花びらとともに忍び寄る秋の香りを漂わせている。他の侍達が早足で町に出て被害状況を把握し、商人たちの瓦礫の片付けを手伝っている間、19歳の伊丹右京は、流れ着いた財宝を見物しようとしていた。風は右京の頬をかすめた。砂浜を見渡すと、潮風が右京の顔を撫でるように吹いた。彼の黒髪は一本の太い束となり、彼の背後で渦巻いている。中国風に結んだ右京の髪は、剃髪を喜んで受け入れた主君の奉公人たちの失望と怒りを買っていた。南の方へ流れていく花びらを目で追っていると、小さな石の桟橋のそばに、誰かの死体らしきものが流れ着いているのが見えた。
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