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第3話
ガラガラ蛇の進撃は止まらない。
「はあっはあっ」
漢字の看板が縦横無尽に交差する路地裏、込み入った袋小路を駆け抜けるモグリの売人二人。殺気立った足音が反響する中、瞬くネオンが死相を暴く。
「腹減った」
「薬をくれえ」
「前でも後ろでも安くしとくよ」
「後生ですじゃ、何卒お恵みを」
「邪魔だどけぶっ殺すぞ!」
栄養失調の孤児、死にぞこないのヤク中、全身に赤い瘡ができた売女、老いさらばえた浮浪者。
死んだ目で群がる廃人たちを蹴倒し、次々縋り付く手を薙ぎ払い、複雑怪奇に錯綜した迷宮の奥を目指す。
地面に打ち捨てられた注射器や空き缶を踏み潰し、さらに闇の濃い方へ招かれていく。
「くそったれが、蟲中天の回しもんが!」
「ガラガラ蛇に噛み付かれたらおしまいだ、あっというまに毒が回ってお陀仏だ!」
狭苦しい路地のどん詰まり。
ネオンの逆光を背に仁王立ちした男が、鎌首もたげる蛇のしなやかさで撃鉄を起こす。黒光りするリボルバーの銃把には、鋭い牙を剥いた双頭の蛇が巻き付いていた。
「ひっ……!」
角を曲がり悔やむ。行き止まり。道の先は朱塗りの廟で塞がれている。
足元を撃たれ姿勢を崩す。
隅に積まれた木箱を巻き添えに倒れた相棒を見捨て、独り助からんとした片割れの頭が爆ぜ飛ぶ。
「ダチを見殺しにするたァ薄情なヤツだなおい、長い付き合いじゃねえのかよ」
「|哎呀《アイヤー》!!」
重心を失った死体が廟に突っ込む。香炉に刺さった線香がばら撒かれ、大量の灰と腐ったお供え物が飛び散る。
「ごほごほっ」
「|娘娘《ニャンニャン》廟があったのか。祈る手間省けたじゃん」
あちこちばら撒かれた饅頭や果実を踏み潰し、腐汁が滴る靴裏を地面に擦り付け、ガラガラ蛇がやってくる。
暗闇に慣れた目が捕らえたのは、パイソンのシャツを着崩し、黄色いサングラスを掛けた男。年は二十代後半とまだ若いが、悠揚迫らざる物腰は底知れない胆力を感じさせた。
レンズを淡く透かす琥珀の瞳には、爬虫類特有の縦長の瞳孔が剣呑に輝いていた。
「ガラガラ蛇見参」
不敵に口角を上げる。
「|蟲中天《ウチ》のシマでおいたしたのが運の尽き。追いかけっこは疲れたろ。俺様もお腹ぺこぺこのぺこちゃんなのよ、ここいらでサクッと終わらせようぜ」
鋭い呼気を伴い二股の舌が踊り、指に引っ掛けた銃がくるくる回る。
完全に包囲された。
ネオンの逆光に塗り潰された影の群れが、唯一の出入り口を封鎖している。
「晩飯まだなら店予約しますよ」
「家で食うわ」
「姐さんの手料理がお待ちかねとは羨ましっす。今夜の献立は」
「なんだっけな~。思い出したわ、豚耳の野菜炒めとエビ餅の|湯《タン》と家常豆腐」
「うまそっすね」
「控えめに言って絶品」
「愛情が隠し味ってヤツっすね」
二枚舌のノロケに舎弟が相槌を打ち、砕けた笑いが巻き起こる。死体の隣で晩飯の話をする神経が理解できない。これが|彼等《マフィア》の日常なのか。
自ら撒いた血と脳漿と肉片に沈む相棒を一瞥、正面に向き直った青年が歯の根を鳴らす。
「頼む、助けてくれ。俺は悪くねェ、蟲中天に楯突く気はなかったんだ!なのにいい小遣い稼ぎになるからってコイツが無理矢理……お願いします、命だけは助けてください」
香炉の灰にまみれたチンピラが土下座で命乞いする。
「情けねェ、もらしてやがる」
「どうします哥哥。阿片窟の死ぬまで下働きとしてこき使うか腎臓売らせるか」
「例の製薬会社が治験用の献体さがしてませんでした?」
「御恩は必ず返します、一生忠誠を尽くします。俺も偉大なる呉哥哥の子分に」
皆まで言わせず引鉄を引く。眉間に風穴を穿たれたチンピラがゆっくり倒れていく。
「死体はどうします?」
「通りに晒しとけ」
簡単な仕事だった。
倦むほどに。
「噛みごたえねェ」
車のトランクに死体を詰め込む舎弟たちを眺め、うっそり呟く。
ラトルスネイクはトントン拍子に出世した。万事笑いが止まらないほど順調だった。殺せば殺すほどアンデッドエンド狭しと悪名が轟き、組織内で成り上がっていった。
それと反比例し、当初は円満だった家庭生活に不穏が兆す。
路地に撒かれた赤い線香と灰、脆くも割れ砕けた香炉の残骸や供物を罰当たりに踏み潰し、ネオンが切れかけた看板の下をくぐると、一台の車がとまっていた。
運転席の窓を下ろし、若い舎弟が聞く。
「ご自宅に送りますか」
「気ィ変わった。遊びに行く」
「かしこまりました」
余計な事は聞かず窓を閉める。利口だ、コイツは長生きするかもしれない。手料理を作り待っている夜鈴の顔を思い浮かべ、すぐ打ち消す。行き先は決まっていた。腐れ縁が司るボトムの教会だ。
数時間後、錬鉄の柵に寄せて車を止める。時刻は夜、早寝早起きを旨とする修道女および子供たちは既にベッドに入っていた。こんな時間に起きているのはアイツだけだ。
鮮やかに柵を乗り越え侵入、青々とした芝生を突っ切って寮に接近し、手の甲で窓をノックする。
室内には神父がいた。小さく絞ったランプの明かりのもと、机に向かい読書している。
「また聖書か。よく飽きねーな」
神父が小さく嘆息、閉じた本をテーブルに伏せる。
「彼らは私の名によって悪霊を追い出し、新しい言葉を語る。手で蛇を掴み、毒を飲んでも決して害を受けず、病人に手を置けば治る」
「どーゆー意味?」
「たまにはご自分で考えてください」
静かな足取りで窓辺に歩み寄り、鍵を回す。開いた窓から身を乗り出す呉に対し、侮蔑を含んだ呆れ顔で苦言を呈す。
「今日も来たんですね。奥様に愛想尽かされますよ」
「知るか。ヤらせろ」
「開口一番それですか」
「むしゃくしゃしてんだ」
「もっとロマンチックな誘い文句は用意してないんですか」
「欲しいのかよ?」
「言ってみただけです、最初から期待はしてません。あなたに口説かれるなんて気持ち悪いですしね」
「上等」
招かれざる蛇を密やかに迎え入れる。愉快げな笑いを漏らして窓を跨ぎ、身軽に室内に降り立ち、消灯の暇すら与えず腕を掴んで押し倒す。
「ちょっと」
たまらず迸る抗議の声を片手で封じ、あっさりベッドに組み敷く。
「悪ィ子だなアウル、夜更かしして待ってたんだろ」
カソックの襟元を乱し、はだけ、生白い肌を貪る。
仰け反る首筋に噛み付き、鎖骨のふくらみを吸い立て、痩せた腹筋を舐め回す。軋むベッドの上、激しく淫らな情交が始まる。
「やめてください」
「口だけだな。来るのがわかってんなら鍵開けとけ」
「不用心じゃないですか」
「盗られて困るようなもんねーだろ」
「ありますよ」
「バードバベルから持ち去った聖書?」
「……」
「図星かよ、初恋の女の形見を捨てられねーとか相変わらず甘ちゃんだな」
神父は蛇の訪れを拒まない。
口では窘めるふりをしても、体の相性が抜群なのは否定し難い事実。呉と神父は十数年来の腐れ縁だ。
少年時代に知り合い、成り行きでバディを組み、片方が賞金稼ぎを引退するまで共に活動していた。
ラトルスネイクはナイトアウルの本性を知り抜いている。
彼と暮らす尼僧や子供たちよりも。
「血と硝煙の匂いがしますね。また誰か殺したんですか」
「ウチのシマでやんちゃしてた若ェのを」
「ッは、お気の毒に」
死者を悼む神父を前戯で追い上げ、うざったげに服を脱ぎ捨て、膝の間に怒張をねじ込む。
「~~~~~~~~~~~~~~ッぁあ」
「突っ込んだだけでイッちまったか、都合のいい体だな」
膝を掴んで揺り動かす。
赤く実った乳首を噛んで吸い転がす間も抽送は止めず、前立腺をガンガン突く。
「何、を」
犬歯を突き立て枕カバーを裂き、細い布きれをペニスに巻き付けていく。
「俺様ちゃんより先にイくんじゃねえよ、興ざめだ」
「ラトル」
射精を禁じられ慄く神父を犯す。布を撒かれたペニスがひくひく痙攣し、カウパーの濁流を垂れ流す。
イきたくてもイけない生殺しの苦しみに悶え、呉の動きに合わせてもどかしげに腰を揺すり、艶っぽく喘ぐ。
「ッあ、ンっく、お願い、です、食い込んで痛い、これとって、意地悪しないでください」
「痛てェのが好きなんだろ、乳首もペニスもびんびんじゃねえか」
「もうもたな、ぁっあっ、苦し」
手加減はしない。
する必要がない。
ここに来た目的は憂さ晴らしだ。
直腸の奥の奥まで串刺し、自分の全存在を刻み付けるように出し入れする。
「もうむりです、ぁふ、ぁあ」
「すげー滴ってら」
二重三重に布に締め付けられたペニスはいじらしく尖り、ふるふる震えていた。
「なんでもする、します、許して」
舌足らずに口走り、涙ぐんで縋り付く。凄まじい快感が背筋を駆け抜け、神父の中で射精に至る。
まだ終わらない。
これが始まりだ。
粘膜の収縮と痙攣を味わい尽くしたのちに引き抜き、息も絶え絶えな神父の髪を掴み、持参した極太ディルドを突き付ける。
「ラトル……」
「欲しいだろ?」
物欲しげに生唾を嚥下。
「しゃぶれ」
「遠慮します」
憔悴しきった糸目が薄っすら開き、パープルの双眸に嫌悪が滾る。
「乾いたまんま突っ込んだら裂けるぞ。痔とか言い訳して血染めのシーツを尼僧に洗わせんのか、どんなマニアックなプレイだよ」
全身で拒む神父を優しく脅す。
「立てなくすんぞ」
とうとう折れた。
亀頭がグロテスクに誇張され、無数の突起が表面に付いたディルドに舌を這わす。
「ぁふ」
「いやらしく。気分出せ」
「注文が多い、ですね」
不器用に顔を傾げ、亀頭を頬張り、繰り返しなめあげる。生真面目な聖職者が詰襟のカソックをはだけ、どす黒いディルドにしゃぶり付く眺めはたとえようなく淫靡で、背徳的興奮をもたらす。
全体に唾液をまぶしたのを確認後、アナルにあてがい押し込んでいく。
「あふっ、あうっ、ぁッあッああ゛ッ」
前はキツく塞き止められたまま、自分の唾で湿したディルドを挿入される苦痛に脂汗が浮かぶ。
呉は容赦しない。
人工の亀頭が前立腺をゴリゴリ削り、固い突起が絶えず粘膜を刺激する。
「ラトルっ、これすご、ぁあっ」
ぼたぼた雫が滴る。布は濃く変色していた。
ディルドを三分の二咥え込んだアナルはぱく付き、限界まで張り詰めたペニスは恐ろしく過敏になり、自ら腰を揺すってねだりだす。
「大っ嫌ェな俺様ちゃんに射精管理されて、極太偽チンポで感じまくって、本当にしょうがねえ淫乱神父様だなおい」
「苦、ぁぐ、前とって、後ろキツっ、ィかせ、ぁあっあ」
「自由にしてほしいのは前と後ろどっちだ、はっきりしろ」
「前っ、私の、イかせてください!」
留飲を下げ電源を入れる。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!」
体内に埋まったディルドが激しく暴れだす。前立腺を殴り付けるような衝撃に目を剥き、されど射精はできないまま、ドライオーガズムの強制に喘ぐ。
「あっ、ぁッあ、ふぁっく、許し、ぁっぐ、ぬいてくだ、ぁあっ」
深々尻を刺し貫くディルドが唸るたび、汗と涎と涙に溶け崩れた顔を仰向け狂おしくせがむ神父を見下ろし、柄を掴んだディルドを抜き差しする。
「一番感じるトコ当たってんだろ。どんな感じか言えよ」
「ぁっ、や、ぁ、苦し、ぐちゅぐちゅ、突起が擦れてもッ無理」
「そうかそうか気に入ってくれて良かったぜ、テメェにやっから好きな時使えよ、ベッドの下に放り込んどきゃばれねーだろ」
「少し、ッ、休ませてください」
「生意気」
手首に捻りを加えて回せば、性感帯と化した粘膜が巻き込まれ、射精を伴わない連続絶頂を迎える。
「ぁあ――――――――――――――――――ッ……」
ディルドで栓したメス孔がぶしゅぶしゅしぶく。呉がぶちまけた精液がたまっているのだ。
何もかも受け入れてくれる昔馴染みが相手なら、呉はどこまでも残酷になれた。
「勝手に気持ちよくなってんじゃねえよ、イエス様にするみたくご奉仕しな」
しどけなく散らばる赤毛を掴み、先ほどまで彼の体内を抉っていたペニスを突き付ける。
神父の顔が強張る。
「言うこと聞かねえと教会めちゃくちゃにするぜ」
その一言が決定打になった。
「尼さんとガキども叩き起こして、神父サマの爛れた本性見せ付けてやるのも一興だな。なあよく聞けよアウル、お前は賢い。俺様ちゃんの一声でオンボロ教会の運命が決まるんだ、悪ィ取引じゃねえだろ?地上げて均して阿片窟にしちまえって幹部のジジイどもがうるせーんだ」
経営難の教会が存続を許されているのは、呉が幹部連中に掛け合い、瀬戸際で地上げを食い止めているから。
故に逆らえず、求められたら応じねばならない。
呉に身を捧げる事で大勢の孤児と修道女を守り、教会を維持するのが神父の務めだ。
以前はこうじゃなかった。
ふたりの関係が歪み始めたのは、呉と夜鈴の夫婦仲が悪化した頃と重なる。
ラトルスネイクは当て付けのようにナイトアウルを抱き、ナイトアウルはそんなラトルスネイクを危ぶむ。
「……|ま《・》|た《・》夫婦喧嘩でもされたんですか」
あえて地雷を踏みにいく。
反応は激烈だった。だしぬけに神父のペニスを掴み、布の上から思いきりしごき立てる。
「!ひッ、あうっ」
「またって言った?知ったかぶった?」
「やめっ、ラトルあうっや、強すぎ、あッあッあッあ」
「なんだよアウル、俺様ちゃんのプライベートに興味あんの。だったら俺とアイツが好きな体位当ててみろよ」
「やめ、許し、ッぐ、私が悪かった謝ります、ッぁふ、お願いだからほどいて」
布を巻いた鈴口にカリッと爪を立て、意地悪くほじり、しとどに濡れて糸引く指を捏ね回し、それでまたペニスを擦り、泣いて謝る神父をねちねちいじめぬく。
「夜っきゃ飛べねェ臆病もんのフクロウが。ろくでなしの人殺しが神父ごっこしてられんのは誰のおかげか、肝に銘じとけ」
先端をもてあそぶのに飽き、漸く離れたのに安堵も束の間、ディルドが前と比べ物にならない激しさで暴れだす。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~あぁあっ、あぁ」
「ははっマヌケな格好だなあアウル、ケツでディルド食い締めんのがそんなのにイイのかよ、遠慮せずもっと奥まで食らえよ威力上げてやっからさ!」
ブブブブ、ブブブブとディルドが唸る。呉は爛々と目を輝かせ、出力最大にした極太ディルドを抜き差しする。
奥の奥まで圧して抉り、醜悪な突起でぐりぐり粘膜をこそぎ、前立腺のしこりを押し潰す。
はてしなく続く凌辱に次第に朦朧とし、しっとり汗ばんだ前髪が跳ねる下、虚ろな目と声で繰り返す。
「やる、やります」
「言い方」
「あなたの、ンぁ、太いの、すごい、ふッ、好き、私の中で温めた、たくさんしゃぶらせてください」
這い蹲り、顎を引き、再び突き出す。
「んっ、ぐ」
尻はディルドに貫かれ、前は縛られたまま長いことほったらかされた状態で、他人の陰茎をなめる屈辱とじれったさはどれほどだろうか。
開く。閉じる。
覚悟を決めて頬張り、生臭さと息苦しさに顔をしかめ、えずきを堪えて咥え込む。
「んっ、む」
「美味いか?」
「まずい、です。死ぬほど」
先端から根元にかけ丁寧に浄め、巧みに裏筋をくすぐり、喉まで使って吸い立てる。
絶頂が近い。
「イけ」
限界まで膨らんだ怒張を抜き、酸欠で赤く染まる神父の顔面に、ドロリとした白濁をかける。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
ぬる付く手で布をほどいた神父も同時に達し、塞き止められていたぶん濃縮された、大量の精液を噴いた。
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