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逆愛Ⅳ《ルイside》5
私はハッと我に帰り、ぐったりとしている洸弍くんの体をタオルで拭き、服を着せた。
幸い洸弍くんは科学準備室に鞄を持ってきていたので、その中から鍵を取り出し、部屋へと運ぶことが出来た。
「シャワー浴びま…」
「触んな…出てけ」
あまり意識がないのに、随分と冷たい目で私を見る。
まぁ、嫌われて当然なことをしたから仕方がない。
「洸弍くんは…嵐が好きなのですか?」
「別に…ただの後輩」
「そうですか」
さっきの反応を見て、好きじゃないという方がおかしい。
なのに強がる洸弍くんに追い討ちをかけた。
「洸弍くんが嵐を好きというのなら、私は嵐を追放させるつもりだったのですが…大丈夫そうですね」
「追放…」
生徒会会計を担当している嵐は、この学園の会計に関わる全てを受け持っている。
会計の仕事を成し得ない場合、『追放』をさせることが出来る。
『追放』はその生徒の資産全てを学園に納めること。
「大空はちゃんと生徒会の仕事してる」
「ええ。ですが生徒会会計の担当をしている顧問教師は私ですから。判断基準は私です」
『追放』申請の権限があるのは、学園会長と生徒会会計の顧問教師のみ。
つまり、私ならいつでも嵐を『追放』させるのは可能ということだ。
理由はどうあれ、会計を狂わすのは容易い。
生徒会副会長を務めるぐらいだから、洸弍くんも追放の怖さは知っているはずだ。
「恋でもして会計が狂ったらいずれ追放になりますので、会計に専念していただかないと…前始末です」
「大空はただの後輩だ…恋愛感情なんてない」
「嵐を好きではないのなら安心しました。私も自分の受け持つ生徒を追放したくないですから。では、帰ります」
そう言って、部屋を出た。
もうあの時の切なさを思い出したくないから、
そんな理由で生徒を傷付けてしまった。
ただ、それすら楽しいと思ってしまう自分がいる。
自己満足の為に、権利を使って生徒を脅して。
優位に立っている自分の行動が嬉しくてたまらない、なんて最低な人間なんだ。
憐れみよりも、愉しさが勝つ。
今の自分は、どんな顔をして笑っているのだろうか。
「ルイちゃん、どうしたの?」
「雅鷹さん」
前方から廊下を歩いてきた雅鷹さんに声をかけられた。
彼は笑いながら私に一言告げた。
「今、一瞬だけ悲しい顔してたよ」
そう言って去っていった。
悲しい顔…か。
いくら隠しても、彼にだけは見抜かれてしまうのだろう。
外を見ると、雨は止んでいた。
止んでいるのに、
それでも雨が止まない。
心の中でいつも雨が降っているような感覚がする。
晴れることの無い空。
いつまで降り続くのだろうか。
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