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逆愛Ⅴ《洸弍side》5
「洸弍先輩」
「…何だよ」
息を切らしてぐったりしている俺に大空が話しかける。
「最後に一緒に寝てもらってもいいですか?」
そんな犬みたいな顔で頼まれたら、断ることなんて出来ない。
甘いな、俺も。
大空を突き放さなきゃいけないのに。
「…分かった。俺は疲れてるからすぐ寝るからな」
「ありがとうございます」
そんな切ない顔で礼を言うなよ。
お前らしくない顔。
そうさせたのは俺だから、
だから余計に苦しくなる。
「取り敢えずシャワー浴びる」
シャワーを浴びながら、涙も流せるだけ流した。
大空の前で泣かないように、
大空に気付かれないように、
バスルームを出たら、弱い俺を見せないようにしないと。
バスルームを出て、大空の顔を見ずにベッドに潜り込んだ。
10分ぐらいして大空もシャワーを浴びて俺の隣に入ってきた。
「起きてますか?」
「…もう寝る」
いつも抱き合って、寝て、朝は一緒にランチルームに行って、
そんな日々の繰り返しだったのに。
明日からはそれもない。
ただの先輩と後輩なんだ。
「本気で好きでした」
過去形なのが切なかった。
もう何も聞きたくない。
どうせ俺の恋は実らない運命なんだから。
「うるせぇ…寝かせろ」
「すいません」
大空は俺の傍に居ちゃいけない。
お前が大切だから、
お前に苦しんで欲しくないから、
だから追放なんてさせない。
俺だけが事実を知ってれば、お前が負い目を感じる必要もない。
「もう好きだなんて困らせるようなこと言わないんで安心してください」
―…バカ、
その発言が余計に俺を困らせるんだ。
大空、
俺は嬉しかったよ。
大空が帝真じゃなくて俺を好きだという事実が、凄く嬉しかった。
ありがとう。
大空は俺の髪を撫でながら言った。
「今までありがとうございました」
目を閉じているのに、涙が溢れそうになった。
これで本当に俺達は終わり。
明日からは、ただの先輩と後輩に戻る。
これでいいはずなのに、
突き放しても、
好きでいても、
結局は苦しいだけだ。
朝起きると、大空の姿はなかった。
昨日の出来事は夢なのかと思い辺りを見回すと、テーブルの上に大空の書き置きがあった。
「夢じゃなかったのか…」
夢だったら良かったのに。
そう思って書き置きを読んだ。
洸弍先輩へ
最後までうざい後輩ですいませんでした。
明日からは普通の先輩と後輩になりましょう。
俺の言葉は忘れて下さい。
俺も先輩との出来事は忘れます。
本当にありがとうございました。
さよなら。
「さよならって…また生徒会で会うだろバカ」
嫌だ。
最後になんてしたくない。
忘れて欲しくなんかないのに。
「相変わらず…下手な字だな」
涙が止まらない。
大空の下手な字でさえ愛しい。
こんなに大空が好きで、
好きで好きで、ずっと傍に居たいのに…
俺のせいで大空が苦しむことになるから、だから突き放したのに。
最後に焼き付いたお前の顔は、悲しい顔だった。
笑顔が取り柄のお前を傷付けたのは俺。
俺の恋は実らない運命だと割り切ったはずなのに、
お前への想いが強すぎて、苦しいだけだ。
俺達は好き合ってるのに、
こんなに愛しいのに、
上手くいかない。
「好きだよ…大空…」
気付くと大空の書き置きに涙が零れて、文字が黒く滲んでいた。
届かない愛だと知っているのに、俺は何度も大空の名前を呼び続けた。
「大、空…大空ぁ…」
大空のいないこの部屋で、大空の温もりを思い出しながら、
溢れる涙が止まるまで泣き続けた。
ごめんな、大空。
お前を好きになってごめん。
分かってるのに涙は止まらない。
直接言えなかったけど、
好きだよ大空。
―…だから、さよなら。
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