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逆愛Ⅵ《嵐side》4
暫くは二人でソファーの上でぐったりしたままだった。
そして竜が目隠しを取り、苦笑いして言った。
「ごめん嵐」
竜は俺の腹の上に出した自分の精液をハンカチで拭き取り出した。
「いや、竜…俺の方こそ悪い…」
親友を洸弍先輩だと思い込んだ上に中出しって…友達として失格だよな。
「どうして謝るの?満足してくれたのなら俺は嬉しいよ」
竜は上目使いで俺を見てそう言った後、再び精液を拭き取り始めた。
「俺はもうすぐ好きな人に会えなくなるから、嵐には頑張って欲しい」
「会えないって…何で…」
竜はまた俺を見つめて、一瞬だけ哀しい顔をして言った。
「どうあがいたって、死んだ人には会えないから…」
雨月先輩のことだと直ぐさま分かった。
竜は昔から兄ちゃん子だったから。
竜はそんな雨月先輩が重病だと最近教えてくれた。
「竜、ごめん…」
「大丈夫だよ。嵐といると楽しくて、俺の辛さが紛れるんだ。感謝してる。だから嵐には幸せになって欲しい」
「幸せになんてなれない。俺は先輩に嫌われてるし、もう終わったことだから」
そう、もう終わったことなんだ。
洸弍先輩に飽きられて、嫌いだと言われて。
俺には頑張る術が無い。
「寺伝さん、素直に好きって言えないだけじゃないの?本当は嵐のこと好きかもしれないのに」
竜はハンカチをごみ箱に捨て、自分の身なりを整えながら言った。
「好きって言えない理由があるとかさ…」
慰めのつもりか、竜は優しい言葉をかける。
洸弍先輩が俺を好きだなんて、そんな訳あるはず無いのに。
「サンキュー、竜」
竜はソファーから起き上がろうとした俺の両手を押さえ、俺の首すじを吸った。
「!?」
「キスマークつけちゃった♪」
「なっ!?俺、短髪なんだからこんな所につけたら隠しようねぇじゃん!」
「さーて行かないと!授業、授業」
「竜っ!」
笑いながら逃げる竜を追い掛けて捕まえて、後ろから抱きしめた。
「そんなことするなら俺だってするからな!」
「ははは。ごめんごめん。でも嵐、元気になってよかった。またいつでも妄想相手してあげるから」
俺は洸弍先輩を忘れなきゃいけないんだから、
だからもう何があっても竜とするつもりは無い。
「キスマークつけられるから嫌だ」
「ははっ。なにそれ。おかしい」
この髪色とこの香り。
それだけで洸弍先輩の記憶が甦る。
忘れなきゃいけないのに、
思い出しても辛くなるだけなのに。
先輩の幻影に囚われて、先に進めない自分がいる。
忘れようとする度に、どうしようもなく愛しくなる。
俺の中から洸弍先輩を消すことなんて、出来ないんだ。
「行こう嵐」
「そうだな」
この髪色とこの香り。
ああ、
こんなに近くに居るのに
洸弍先輩じゃなきゃ、意味が無い。
先輩だけが、俺の―…
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