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逆愛Ⅵ 0.5《洸弍side》

特に意識したことは無かった。 『ただの先輩と後輩』 これ以下でもこれ以上でも無い関係 ――だった そう、数カ月前までは。 今の俺は、大空を意識し過ぎてる。 うぜぇな、とか 笑ってるな、とか 仕事してるな、とか 大空が近くに居るだけで安心してる自分がいた。 素直になれない。 俺に『好き』と言う言葉を吐いた大空に対して、俺は気持ちを大空に伝えることは許されない。 ――苦しい 好きなのに、 大空のことしか考えてないのに 追放という壁が、俺の気持ちを遮る。 「洸弍先輩」 静寂した生徒会室に二人きり。 大空は俺の机まで来て、俺に問いかけをした。 「これって『普通の先輩と後輩』ですか?」 大空の顔をきちんと見て話をするのは久しぶりだ。 お前を見上げる俺、どんな顔してる――? 「なにが…」 「『普通の先輩と後輩』は、もっと会話をすると思うんですけど」 大空に犯されて、 体だけの関係になって、 好き合ってるのに離れて ――…好き過ぎて、気まずい 前みたいに上手く笑えない。 前みたいに大空をいじれない。 だってお前は今、帝真が好きなんだろ――…? なのにどうして… 「…先輩?」 大空のことを考えるだけで胸が苦しくなるのに、どうして目の前で俺の心を締め付ける? そう思うと、涙が溢れそうになった。 慌てて俯き、大空に顔を見られないようにした。 「すいません。今の忘れてください。じゃあ俺、部屋戻ります。お疲れ様でした。また明日」 特に意識したことは無かった。 『ただの先輩と後輩』 これ以下でもこれ以上でも無い関係 ――だった そう、数カ月前までは。 今ではそれが、『ただの先輩と後輩』以下だ。 前みたいに戻れるなら、戻りたい。 近くで大空の笑顔を見て、安心してたあの頃に戻りたい。 ――…でもそれは無理に等しい もう、『普通』にすら戻れない俺達。 ある日の昼休み終了後、 図書室の個室の隣にある準備室で寝ていた俺は、個室に誰かが入ってきたのに気づいた。 「誰だよ授業サボってるやつは…」 まぁ俺も人のこと言えた立場じゃねぇけど。 窓から個室を覗き込むと、そこには個室のソファーへ押し倒された大空と、馬乗りになった帝真竜がいた。 二人が親友だっていうのは知ってる。 仲が良いのも事実だ。 ―まさか、そんな関係であるはずがない… そう思っている間、二人はキスを始めた。 何を言ってるかは全く聞こえないけれど、大空はシャツを脱がされ、肌を吸われ、行為が続く… それからは、見れなかった。 帝真の喘ぐ声がたまに聞こえ、俺は両耳をふさいだ。 ―…俺の大空を、取らないで。 しゃがみこんで震えている自分がいた。 大空は俺を好きだと言ってくれた。 でも俺は大空を嫌いだと言った。 本当は好きなのに、嫌いだと言った。 真実を言えば、大空が追放されてしまうから。 だから、離れたのに。 帝真は確かに男からもウケがいい。 狙ってるやつは多々いる。 もう大空は、俺のことなんて諦めたんだ。 だいぶ時間が経ったあと、もう一度個室を覗き込むと、帝真が大空にキスマークをつけていた。 そして大空は笑いながら逃げる帝真を追い掛けて捕まえて、後ろから抱きしめて、しばらくして図書室から出ていった。 楽しそうに笑って、ふたりで。 嫌いだと言ったのは俺。 大空から離れたのも俺。 なのにどうして、こんなに胸が痛むんだろう。 しかも次の授業は2年6組と合同でドッヂボールをすることになっている。 大空のクラス。 しかも、足利槞唯もいる。 見たくないのに、なんでまたこんな・・・ サボりたかったけど、さすがに2時間サボるのは生徒会役員としてダメだと思い、嫌々ながら参加することにした。 定刻になりジャージに着替え体育館へ行くと、山田雅鷹が張り切っていた。 「今から学年対決ねー!あ、でも嵐くんだけは体育館の隅っこで竹馬ね♪」 「ちょっ、マサやん!何で!?」 見たくないのに、目立ちやがる。 帝真がすかさず大空を慰める。 その姿が、痛い。 みんな笑ってるってのに、笑えてないのは俺だけだ。 早くこの時間が過ぎればいいのに。 俺は担任である山田雅鷹に寄り、見学したいと申し出た。 「見学?ダメだよ一応授業なんだから。外野やりなよ!外野!」 「外野…」 外野で動かず何もしないでいればいいか、と思った。 でも外野になって気づいたことがある。 「嵐!当てろ当てろ!」 外野の方が大空に近いってこと。 大空が動く度に見えるキスマークが痛い。 もう早く終わればいいのに、 つうか、吐きそ―… 「洸弍くん?体調悪い?」 審判をしてた山田雅鷹が俺に駆け寄る。 気持ち悪いのと胸が苦しいのもあって、思わず山田雅鷹にしがみついた。 「気持ち悪い?横になる?」 山田の問いかけに頷くことしか出来なかった。 この場から早く去りたい。 大空を見てると苦しくなるから。 「ルイちゃーん。俺、洸弍くん連れてくからあとヨロシクー」 あとの記憶は無い。 目を覚ますと、俺は保健室のベッドに寝ていて、山田雅鷹が携帯をいじっていた。 俺が体を起こすと、山田が俺に気づいた。 「あ、気分はどーお?ちゃんと食べて寝てるの?貧血だと思うってさ」 「大丈夫…です」 「洸弍くん最近元気ないけどどうしたの?俺には言えないこと?一応、担任なんだけどなー」 「……」 山田は黙る俺を抱き寄せて髪と背中を撫でながら言った。 「無理に言わなくていいよ。あ、今週の金曜日ね、愁ちゃんとアヤちゃんと飲みに行くんだ。一緒に行く?元気になるんじゃない?」 たまにこうやって山田から誘われたりする。 俺はいつも決まって「嫌だ」と答えるのに、今回はなかなか断れない。 一人でいたって大空のことしか考えられないから。 だったら誰かと一緒にいて、時間が早く過ぎるほうがいい。 「行く」 「OK。じゃあ俺は体育館に戻るから、もう少し寝てなね」 山田が出て行ったあと、俺は再び眠りについた。 大空と帝真のあの光景を思い出しながら――…

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