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第三話、子どもを助けて連れ帰ったら八岐大蛇でした

 約束の土曜になった。  朝陽はいそいそと準備を初めて、ショルダーバッグの中にエコバッグと財布とスマホを放り込む。 「キュウ、将門。俺ちょっと買い物行ってくるわ」 「は~い、いってらっしゃい朝陽」  玄関先まで朝陽を見送りにきたキュウが、少し腰を屈めて触れるだけの口付けを落とす。  だがその唇は将門によって無理やり引き剥がされた。 「ったく、油断も隙もねえな」 「いってらっしゃいのチューくらい良くない?」 「なら俺もする」  キスというよりも、ガプリと将門に唇を食べられた。舌が入り込んできそうになった所で体を突き放す。 「お前らな……」  まるで新婚生活でもしているような錯覚を覚えて眩暈がした。 「今までずっと朝陽を独り占めしてたんだから遠慮したら?」 「何で俺が?」  キュウが朝陽の家に来た初日よりも声量は落とされているし、五日も経てば軽い諍いくらいならもう気にもならなくなっている。  朝陽は二人を無視して外に出た。  言われた通りに東にあるスーパーへと行き、数日分の食料を買って店を出る。彼らは霊力補給しかしないので、人間の食は摂らない。己の分だけなら、日用品も含めても中くらいの大きさのエコバッグ二つ程度で済んだ。  ——あの二人ちゃんと大人しくしてるかな。  昼夜問わずずっと家にいてテレビを見ている将門とは違って……否、将門はそれなりに出掛けてはいるが朝陽は知らないだけである。  キュウは昼夜問わずフラリと何処かへ出かけては、何事も無かったかのように帰ってくる。制限なく出掛けられるようになって、外の世界が余程楽しいらしい。  キュウは世間話が大好きだ。「今日は○○まで行ってきた」「××な会話を聞いていた」など、帰ってきては朝陽によく話して聞かせた。話し上手でもあるので、朝陽としても苦にならずに楽しめている。  これまでずっと一人だったのもあり、将門を始めキュウとの共同生活も中々良い物だった。  お陰で気持ちが明るくなって、仕事へのモチベーションも上がる。ただ困った事もあった。  現在将門は朝陽以外の事へは我関せずスタイルなので、そこまで好奇心旺盛というわけではないがキュウは違う。現代機器や性に関することが大好き過ぎる。 『ねえ朝陽。大人の玩具って何?』  そう聞かれた時には、朝陽は飲んでいたコーヒーを吹き出して盛大に咽せた。知ってはいるものの実際使った試しもないし、勿論購入した事もない。将門につきつけて即行で燃やされた避妊具くらいだ。  生きてきた年齢イコール彼女が居なかった朝陽にはハードルが高過ぎる。適当に聞き流して別の話題へとすり替えたが、キュウは納得したのかしていないのか良く分からない様子だった。  朝陽が回想していたその時だった。通り道の脇にある空き地から、着流し姿の三歳くらいの男の子が飛び出してきた。 「わ!」 「うわ、あぶなっ!」  ぶつかった衝撃で、バッグを一つ落としてしまったものの、ぶつかった男の子を抱きかかえられたのでホッと胸を撫で下ろす。男の子が転ばなくて良かった。  しかし、全身黒尽くめの大人が三人も追ってきて、男の子ごと朝陽も囲まれた。  ——何だ、コイツら。  雲行きが怪しい。誘拐の線も考えたが、子どもも合わせて全員人外である。思わず周りに視線を走らせて、誰も居ないのを確認してから朝陽は言った。 「いい年した大人が集まって、こんな小さな子を追いかけ回してんのかよ」 「え、ボクのこと視えるの? ていうか、あれ? 触れる? 何で?」 「視えてるよ。その話は後でな。俺の後ろに隠れててくれるか?」 「え、でも……」 「大丈夫だから」 「うん」  男の子の頭にポンッと手を乗せる。朝陽のズボンを小さな手でギュッと掴み、不安気に瞳を揺らしていた。 「ソイツを渡せ」  問答無用で男の子の腕を掴んで、物凄い力で引き摺ろうとした男の腹に、朝陽が容赦なく霊力の塊をぶつける。男の体が背後に飛び、やがて消滅した。 「触るな。連れて行かせないって言っただろ」  全身に霊力を漲らせ、残りの二人に向けて掌を翳す。一箇所に集束していく霊力の質を感じて、男たちは敵わないと判断したのか小さく悲鳴を上げて逃げていった。  周りの気配を探ってみるが、他に怪しい気配は感じない。安全を確保出来てから、朝陽は男の子に視線を合わせるように屈んだ。 「お待たせ。もう行っても大丈夫だぞ」  小さな頭を撫でる。やたらキラキラした瞳で見られているのに気がついて朝陽は首を傾げた。

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