25 / 61
第四話、美青年陰陽師に異界を憑れ回された挙げ句に扱かれています……(1)
三人目の番を迎えてから一ヶ月が経とうとしていた。
朝陽といえば、また実家に帰ってきている。
体力の限界だった。
そして少し思い悩んでいたりもする。
「またお前は家出してきたんか」
呆れ口調の博嗣に言われ、朝陽は唸りながら横向きに頭を傾け、座卓に頬を預けた。
「……俺は悪くない」
「家出する奴は皆んなそう言うんじゃ」
一度家出した朝陽は、それ以来家出癖がついていた。
博嗣の家の中と神社には、最近また強化した朝陽渾身の力作とも言える結界を張っているので、番達も入って来れない。
朝陽からすれば事ある毎に強制発情させられ、当たり前のように4Pへと発展させられるので耐えきれなかった。
それでも3対1という交わりに、少しずつ慣れてはきているが体力が追いついてこない。
週末ならまだしも平日だと仕事に支障が出るので困り物だ。
断りきれずについ流されてしまう己にも非があるのは分かってはいる。
それに今の生活に慣れてしまうのも嫌だった。
「電話をする度に楽しそうにしているじゃろう。何が不満なんだ?」
「不満て言うか……。確かに楽しい……けど」
「なら、良かろうに」
楽しいのは楽しいのだ。
今までかつてない程に楽しい。
何だかんだ言いつつ皆優しいし、労わってくれる時も多い。
しかし、このままだと何かがあった時に一人の空間で一人で居るのに耐えきれなくなりそうで、朝陽は不安を感じ始めていた。
本当にこのままで良いのか疑問にも思う。
なんせ相手は人外だ。
朝陽とは違う。
人間には老いが有り寿命があるが、彼らにはない。
生きている世界が違い過ぎる事が、こんなにも寂しく感じてしまうだなんて、幼少期の頃以来だった。
それにもし仮に自分が死んで居なくなったとしても、次の華守人が生まれればそっちと番うのだろうと考えてしまい、何故か心臓のあたりが重くなる。
「何でだろうな……。自分でも良く分かんねえんだ」
生まれて初めて抱く感情が手に余り、朝陽は今どうしていいのか分からなかった。
それくらい今の番たちに依存していて、また生活を侵食されている。
暗い思考を追いやる様に朝陽は頭を上げて、博嗣に視線を向けた。
「あ、そうだじいさん。うちの家系にスサノオって居るのか?」
「なんじゃ突然、藪から棒に」
突然話の方向が変わり、博嗣がため息をつく。
お茶のおかわりを注ごうとした所で朝陽が告げた。
「三人目の番が八岐大蛇だった。初めて会った時に俺の事をスサノオって呼んでたから気になってな」
博嗣の傾けた急須からお茶がドバドバと溢れる。
「じいさんっ、お茶溢れてる!」
そのまま固まってる博嗣の手から慌てて急須を取り上げ、朝陽は雑巾を取り出してきて拭いた。
博嗣自身には掛かっていなかったから安心する。
「お前は本当に変わり種ばかり番にしてくるな」
額に手を当て、頭痛に耐えるように目を瞑った博嗣を見ていると、何だか申し訳ない気持ちになってくる。
気絶しなくなっただけマシかも知れないが。
「俺が選んでる訳じゃねーからな」
「分かっておるわ。スサノオノミコトか……。確かコノハナノサクヤヒメの家系を辿ればおったような気もするが、定かではないな」
博嗣は何かを逡巡するように目を細めて俯いていたが、何拍か置いた後に顔を上げた。
「どうかしたのか?」
「いや、考えすぎかもしれん。と思い直したとこじゃ。お前を含めて国家転覆させそうな奴らばかり集うのが気になってな」
言われてみれば確かにそうだな、と思えた。
彼らが暴れれば、アパート周辺が更地になるだけじゃなく、日本の半分くらいは海に沈んでしまいそうだ。
「結界てそんなにヤバくなってきてるんか?」
「まあ確かに依頼は増えとるな。そんな訳で、朝陽、明日ちと付き合えよ」
そう言った博嗣に、ため息をこぼす。
「修復作業か?」
「そうじゃ。週末はどうせ暇じゃろ? 家出してきとるし」
家出の部分を強調して声に出した博嗣に頭が上がらない。今後の事も考えて先行投資しておこうと朝陽は考える。
「はい……喜んでお供させて頂きます」
首を垂れた。
ともだちにシェアしよう!