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朝起きた時、朝陽には情交時以降の記憶がなかった。
確かに普段の朝陽と比べてみても正気と言えない状態だったのもあり、覚えていないと言われても皆不思議ではなかった。
「そりゃ、孕みたいとは言ったけど、孕んでその日に生まれるわけないだろ。嘘だ」
「動画に撮っておけば良かったか」
将門が額に手をやり気難しい顔をしている。
——お前っ。
オロといい、キュウといい現代に馴染み過ぎだ。
「撮影の準備をしておかなければいけないな」
神妙な顔つきで晴明が告げる。
お前まで乗っからんでいい、と思いながら朝陽はため息をついた。
今聞かされた話が事実だとするのなら、朝陽は五日間連続で毎日神を産む事になる。そう考えだけで頭痛がした。
「朝陽、毎日になるけど頑張ろう」
ニッコリと晴明に微笑まれて唇を喰まれる。考えていた事を読まれたらしい。
「おい、今日は俺の日だろう?」
「その間手を出してはいけないと言う誓約じゃないから問題ないと思うんだけど?」
ニギハヤヒの足の上では、オロが朝陽に買ってもらったボールで遊んでいる。キュウはどこかぼんやりした様に遠くを見つめていたが、突然ハッとした表情で顔を上げると朝陽を見た。
「朝陽っ、ねえ朝陽、仕事から帰る時って階段使う?」
真剣な表情で問われる。
「行く時も帰る時も駅にある階段を使うけど……。どうかしたのか?」
「スーツだったし、外も暗かったから帰りだと思う。階段を使わない選択肢はないの?」
「タクシーを利用すれば使わないけど、金がかかるからさすがに毎日は無理だ」
「朝陽が階段から落ちて救急車って物に乗せられて何処かに連れて行かれるのが視えた。私一種の予知夢みたいなのを白昼夢で視るんだよね。オロの事もそれで分かったし」
成る程、と頷く。キュウに東に行けと言われた理由が分かって納得した。
「俺が救急病院に搬送されるって事か」
だからと言って、タクシーを使い続けるわけには行かずに朝陽は唸った。
「なるべく気をつけるようにはする。いつまでって分かる訳じゃないよな?」
「……うん。分かる時は分かるんだけどね」
浮かない返事をしたキュウに向けて朝陽は微笑んで見せた。
「心配してくれてありがとな。俺なら大丈夫だ、キュウ」
「それなら良いんだけど……。私、ちょっと外へ行ってくる」
出て行こうとしてるキュウの姿を見送って、何事か思案するように朝陽は視線を伏せた。
交代の時間になる頃にはキュウも家に戻っていて、いつもの明るさを取り戻していた。
「はい、将門終わりだよ。今度は私なんだから変わってよね」
朝陽は軽々と持ち上げられて対面向きでキュウの腰の上に乗せられる。
将門の時もだったが、軽々と持ち上げられた事に対して朝陽は少し凹んだ。そして続け様に、横抱きにされたまま寝室のベッドの上まで移動するという羞恥プレイを受けていた。
「キュウ……これは流石に恥ずかしい」
「昨日将門にもされてたのに?」
覚えていない。寧ろ記憶になくて良かった。
「うわ、マジか……」
「ずっと将門の首に擦り寄ったまま、泣きべそかいて離れなかったよ」
「今すぐ俺を殺してくれ」
もう羞恥の域を超えている。墓に埋まりたかった。
「朝陽が死んだら魂ごと拉致しようかな。私と一緒に封印されとく?」
「やめてくれ……俺はまた生まれ変わりたい」
キュウならやりかね無い。
「あは、冗談だよ」
口付けて額を合わせる。
「ねえ、朝陽。今度私がラットに入ったら、私の子も生んでくれる?」
「ん。いいよ。キュウの子も生む」
「ありがとう。大好きだよ、朝陽」
「俺も、多分お前らの事、好きだと思う」
恋愛経験がない朝陽には、己の感情が友人に向けて思う好きなのか、それともそれ以上の感情なのかはまだ上手く説明出来ない。よく喧嘩や言い合いにもなるけど、何だかんだ言いつつ六人一緒にいると落ち着くし、大切に思っている。
「そこは冗談でも好きって言いきるとこでしょ」
「嘘はつきたくない」
手を伸ばしてキュウの頬に触れる。顔にかかっている髪の毛を退けてやり、側頭部を撫でると、キュウが驚いた表情をした後で笑んだ。
きっと倫理観なんてもの、己には始めっからなかったんじゃないかと朝陽は思っている。そうでなければ、人外の番とは言え五対一なんていう関係が成り立つわけも受け入れられる筈もなかった。
己の感情を上手く伝えられないのはもどかしくもあり寂しくもある。
「キュウは、辛い……か?」
「どうだろう? 朝陽を独り占めしたい気持ちもあるんだけど、困った事に最近はこの六人でいるのが好きなんだよね」
「俺と同じだな」
「だから今のままがいい。昔から私は朝陽だけって決めてたけど、それを朝陽に強要もしたくない。ねえ朝陽。今日は抱きしめたまま朝陽が寝るまで一緒にいていい?」
「ヤラないのか?」
「セックスするより、今は朝陽を抱きしめていたい。普段出来ない事をしたいから。あ、禁欲したらラット来るかな? 私早く朝陽を孕ませたい」
「どうだろな。もしキュウに似たら美人になりそうだ」
「えー、私は朝陽に似て欲しい」
お互い笑いながら眠くなるまで会話する事にした。
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