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第1話
「♪〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜」
「♪〜〜〜〜♪~~~..................」
携帯のアラームが朝を伝える。
俺は先程まで固く閉じていた瞼を薄く開け、液晶に表示される時間を確認する。
「12時.......」
今日は11時に起きる予定だった。
まぁ、仕方ない。
久しぶりの睡眠だったから仕方ない。
そう理由をつけ、3日ぶりに休んだこの重い身体を起こす。
くずれた甚平を緩く締め直し、玄関へ足を進める。
「ガチャ」
玄関のドアを開けるとそこには雲ひとつない空。
「...................青天の霹靂」
自分にしか聞こえない程度の声で呟いた俺は、うんざりするくらい眩しい太陽に向かって、今日も挨拶をする。
「おはよう。」
*
俺は棗桔梗。
名前を名乗ると必ず、夏目漱石のなつめ?と聞かれるが俺のなつめは棗。
お間違えなきよう。
職業は小説家。
ペンネームは夏目桔梗。
間違われすぎるので自ら付けた夏目という漢字が俺の中では、もう普通となっていた。
淡い恋愛から官能まで手がける俺は、この職だけで暮らしていけるくらいには稼いでいる。
歳は28。
毎日腰が悲鳴をあげている。
もう歳だな、、。
俺はつい昨日、最新作を脱稿したばかりだ。
棗桔梗として最初で最後の作品。
そこのお嬢さん?もしくは少年?
もし良かったら俺の昔話を少し聞いてはくれないだろうか。
少し長くなるけどそれでも良かったら。
*
「......................はぁ」
静まり返った部屋に消えるため息と、何度書き直したか分からないぐちゃぐちゃに丸められた原稿用紙が床に転がる。
いつから寝ていないのだろう。
いつから食べ物を口にしていないのだろう。
「俺、このまま死んじゃうのかなぁ......」
不謹慎なことをぼやく俺は、現在進行形で大変行き詰まっている。
疲れきった脳みそをフル回転させても何も思い浮かばない。
しかし、手を動かさずには文は仕上げられない。
そう思い、また原稿用紙に手を伸ばそうとした。
「ピンポーン♪」
永遠のときを静寂に包まれていた身体が、その音に反応しビクッと揺れる。
「え、誰?」
来客者なんてくる予定が無いはずの俺の家の玄関の前には誰かがいる。
恐る恐る、玄関の覗き穴から向こうの景色を見る。
そこには、恐れるという単語とは程遠い太陽のように満面の笑みを浮かべているモテるだろうなという顔をした少年がいた。
「ガチャ.....」
少し、玄関のドアを開け、立っている少年を見ると、バチりと目が合う。
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