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第2話
今どき甚平を身近で見ないのか、少年は少し目を大きくさせ、そして直ぐに挨拶をする。
「こんにちは!俺、今日から隣に越してきました!小鳥遊百合斗です!小さいに鳥に遊ぶで小鳥遊、花の百合に.......斗の斗で百合斗です!よろしくお願いします!」
「........ご丁寧にどうも。棗桔梗で…
「夏目漱石???」
…難しい棗な。それに花の桔梗で桔梗。どうぞよろしく。」
俺も少年と同じように自己紹介をする。
少年は少し考えた振りをして何かブツブツ言っている。
「棗さん、、なっちゃん、、いや違うな、、桔梗さん、、きぃちゃん、、うーん、、夏目漱石、、、漱石さん。」
長い考えタイムがついに終わり少年は満面を笑みを俺に向ける。
なんだか、嫌な予感がする、。
「漱石さん!!!!」
「..............は?」
「漱石さんって呼んでもいいですか!?」
キラキラした丸い目でこちらを見てくる。
断るにも断りきれず、俺は頷く。
「俺のことは百合斗って呼んでください!!漱石さん!!」
余程、漱石呼びがしたかったのか少年は一段と明るい笑顔で俺に言う。
「ははは、、百合斗くんね、、よろしく、、」
少し呆れたように言う俺に気付いていないのか、百合斗くんは元気よくよろしくお願いします!と言い、手土産を渡し、部屋に帰っていく。
ぶんぶん振っているしっぽと耳が見えるのは俺が疲れすぎているからなのだろうか、、。
そう思いながら俺も部屋に引き返す。
嵐かよ....。
突然現れた、軽い足取りで自分の部屋へ帰っていく背中に向けて心の中で呟く。
「はぁ........」
俺は、小さなため息をつき、また静寂に包まれたあの空間へと引き返す。
さっきの息抜き...と言っていいのか分からないが、外の空気を吸ったこともあり、俺の手はあの時と打って変わって動き出す。
ふと、さっきの少年の笑顔を思い出し、心が軽くなる気がした。
「ガキかよ......」
そう呟いた俺の口角が緩く上がっていたことは、誰にも知られることは無かった。
*
頭を抱えながら、ペンを握り、何度も何度も書きなぐる。
そんな作業ももう終わる。
ペンを置く。
最終確認をし、封筒に原稿を入れる。
張り詰めていた糸がプツンと音を立て、切れたかのように俺は後ろに倒れ込む。
「おわったぁぁーーーーーーー。」
今回も長い戦いだった。
よし。寝よう。
今日はなんもしない。絶対に動かない。
そう決めた俺は、倒れ込んだ体制のまま目を瞑る。
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