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第1話
僕の名前は嵯峨朔良。何処にでもいる売れない俳優だ。
最近、七瀬巴と言う超売れっ子俳優と一緒に共演する機会が増え、安定した仕事と安定した収入が貰える様になって来た。
と言っても、僕はまだ十五歳。自活はまだしていない。親元暮らしだ。世間一般から言っても自活はまだ子供過ぎている。だが、僕は早く親元を離れ、自活がしたかった。
「ハア、今日もイイ物件見付からなかった。そう贅沢言ってないのに、何でだろう?」
最安値のアパート物件が載っているチラシを見ながら、そうボヤくと、
「お前、ホント、馬鹿だよな?親の脛をかじってられる時期は素直にかじっとけよ」
自活って言うもんはそう簡単に出来るもんじゃねぇよ?と、自活の先輩で、親友でもある冴木悦人はそう言うが、僕にも都合って言うモノがあるのだ。
「あのね!今週惨敗だったらって、そう言う風に八つ当たりして来るの止めてくれる?」
「何処が八つ当たりだ。正論を言ったまでだろうが?」
中途半端な気持ちで、両立出来るわけねぇって言ってんの?と今月も来月も生活ギリギリな彼の言葉は、何処までもずっしりと来る。いい加減な気持ちで言っているわけじゃないが、あくせくしている彼の姿を見ていると、僕は押し黙る事しか出来なかった。
すると、しぼくれた僕の頭を彼はポンポンと撫でながら、
「そう慌てんな。時期が来ればそうなるようになるって」
そう言って優しく慰めてくれた。こう言う気遣いが自然と出来るから誰よりも先に自立し、今尚自活が出来てんだと思う。大人だよなと僕は溜め息を漏らし、納得も割り切れてもいないがそうだねと頷いた。
確かに、親離れをしようとする僕に両親は友好的である。物件探しも許してくれていた。何か切っ掛けさえあればそうなる方に動くんだとは思うが、そう易々と出て来て動いてくれるモノではない。辛抱ばかりだ。
「朔良、そんなに家を出たいんなら、シェアするって言う手もあるんだぞ?」
そう言って、彼はルームシェアを募集している欄を指差すが、「俺としないか?」と言わないのは彼の中のケジメなんだろう。兄弟子よりも先に自立した手前、自らルームシェアを求めるのは礼儀に反していると。コレが恋人との同棲だったら、兄弟子の反感もないだろうが。
「こう言うの、無理。相手がえっちゃんならまたしも…」
他人様はねと僕が苦笑いをしたら、彼も「だよな」と言って、お互いにこの話はなかった事にした。
そうこうしている内に月日は流れ、僕に取って大きなチャンスが転がって来た。ソレは、僕の自活を陰ながら応援してくれていた父親に訪れた転機だ。本部長から取締役への大昇進した彼は、韓国本社への配属になったのだ。
そして、僕に理解がある両親はこう言った。
「この機会に、一人暮らしを初めてみる気はないかい?」
と。
母親が特に乗り気だったのは、結婚して直ぐに僕が産まれたから、新婚気分を味わえなかったからだろう。あっさりと子離れが出来るよい母親で良かったと思った。ソレに、彼女は韓国アイドルの大ファンだ。そんな彼女がこんな美味しい機会を逃す筈は絶対になかった。
僕はそんな両親に有り難うとお礼を言って、喜んだ。だが、問題が一つあって、長期、両親が家を離れる事になると、未成年の僕に保護者代理を付ける必要があるらしいのだ。だから、父親は、遠くの親戚に頼るよりも近くにいる他人に頼った方が困った時に力になってくれると言う理由で、彼の友人である田村淳史先生に保護者役をお願いしたと言う。
だが、コレがとんでもない方向に転がってしまうのだ。満場一致で可決された僕の一人暮らしが、この先生の導入で可決されなくなってしまったのだ。彼は心配性な上、お節介な性格。精神科医なだけあって、何事も親身に受け取る真人間であった。ソレは、彼の長所で、短所でもあった。
彼はこう言う。「一人暮らしをさせるのはまだ早過ぎる。俺との共同生活でなければと許可出来ない」と。また、こうも言った。「何かがあってからでは遅過ぎる」と。
彼の主張は正しい。だが、そう言う事を言い出したら自立なんか何時までも出来ない。両親と僕はそんな先生を今や遅しとくどくどと説得したが、彼は首を縦に振らなかった。彼に根負けしたのは、両親の方だった。母親なんかは綺麗に丸め込まれ、結婚するなら先生が一番だと言う始末。父親に関しては、今回は諦めなさいと僕を慰めに入った。
何を諦めなさいなのか解らないが、母親は「結婚するのは朔良だから、同棲して先生が一番かを見極めなさい」と言う。彼女のこう言うお気楽な物の計り方は止めて欲しいと思った。
兎に角、そんなこんなで僕は先生と共同生活をする事になってしまったのだ。
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