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第26話 成熟 ーENDー

フゥ―――ッ…  トイレから出ると、倦怠感(けんたいかん)を感じ廊下の白い壁にもたれ、ヒロキは大きなため息をついた。  オフィスに戻り、上司の義兄に渡された大量の仕事に没頭していると、あっという間に昼休憩の時間となる。 「今日は和食弁当を頼んだけど、ヒロキはそれで良かったか?」 「ええ、ありがとうございますカイリさん、最近は和食を好んで食べているので、嬉しいです」  毎日、義兄は気を利かせて昼食を用意してくれるため、ヒロキ的には何でも有難い。 「らしいね… この間センリが、君が作った筑前煮が最高に美味いと自慢していたからね」  少々お行儀が悪いが、カイリは(はし)の先をクルクル回し、面白そうにウンウンと、うなずく。 「いえ、もう… センリは何でも盛り気味で話しますから、美味しいと言ってもネットのレシピ通りに料理しただけで、美味しくて当然なんですから」  お弁当に付いて来たみそ汁を一口飲んで、ヒロキは苦笑した。  ヒロキは几帳面にゆで時間や、食材の切り方微妙な調味料の調節まで、理科の実験のように、レシピを見ながらきっちりと順番を守り調理するが…  センリの場合、最初に一通りレシピに目を通しただけで、後は適当に目分量で調理するため、ゆで過ぎてデロデロに柔らかくなったり、順番を守らず先に調味料を入れて鍋を焦がしてしまったりと、失敗が多いのだ。 「君は本当に、センリの性格を良く見極めて、あいつを上手く扱うから感心するよ!」 「職場での経験がありますし… ああ見えてセンリは仕事が大好きなんですよ? いずれは神田家の家業を守る重要な人材になるはずです」 「それそれ! センリを神田系の会社で修業させようと説得したけど… 結局、私たちに働かされるのが嫌だと、相模系の会社に就職して多忙を極めているのだから」  義兄カイリは、ニヤリと笑う。 「ヒロキ~っ… 食後のデザート持って来たぞ~!」  義父と義長兄、それに義母が一緒に現れ、カイリとヒロキは顔を見合わせて笑った。 「ヒロキ君~っ! 元気にやってる? 今度はセンリ抜きで、私とランチに行きましょうよ、美味しいお店を見つけたのよ~!」 「お義母さん、お久しぶりです」  ニコニコと良く笑う、いまだに少女のような義母が、ヒロキは大好きなのだ。  神田ファミリーに属するようになり、分かったことだが、ヒロキは同じ年のカイリと一番気が合い、そして、センリの大らかな性格は、どうやら義母譲りらしい。  義長兄は冷淡に見えるが、単に人見知りが激しいだけで… 義父は愛妻家だが、一度ハニー・トラップに引っ掛かり、浮気をして義母に捨てられそうになり、玄関で一晩中土下座して許してもらったそうだ。  神田の義理の両親も幼い頃に婚約した、政略結婚だったらしいが…  今現在も、毎晩一緒のベッドで眠るほど、奇跡的に仲の良いおしどり夫婦である。 「あ! もうみんな食べてるのかよ?! オレが最後か?! クソッ!!」  自分で和食弁当とみそ汁を用意して、センリはヒロキの隣りに、ドスンッ… と腰を下ろす。  神田家の息子たちは、全員自立して実家を出ているために、義母が次男の職場で、男家族たちが会っていると聞くと羨ましがり… 今日の昼食は、家族全員で一緒に摂ることにしたのだ。  食後のコーヒーとお茶を飲んだ後… 「あの… 実はですね、先程、わかったのですが… 妊娠しました」  ヒロキは神田ファミリーに報告する。  午前中、病院でもらったオメガ男子用の妊娠検査キットを、トイレで試し発覚した。 「えええええっ―――――――――――?!!」  大声で叫んだのは、もちろん、センリだ。 「まぁ、まぁ、まぁ、まぁ~っ!!」  義母は拍手をして大喜びする。  義父はホッと胸を撫で下ろした様子だったが… 「おめでとうヒロキ!」 「おめでとう! これでセンリも父親かぁ~ ヒロキが頼みの綱だな!」  義兄2人は立ち上がり、ヒロキに握手の手を差し出した。 「嬉しいよヒロキ! 本当に嬉しいよ、オレもガッツリ子育て参加するから、ヒロキはオレにして欲しいことがあったら、遠慮なく言ってくれよ?」  センリは動揺して、最初は口をパクパクしていたが… すぐに気持ちを立て直し、ヒロキをギュッと抱きしめる。 「頼りにしているよ、センリ!」  夫の顔を見あげ、ヒロキは幸せそうに微笑む。  2人が結婚して半年が過ぎていたが、センリの夫としての成長は、目を見張るほどだった。  以前は…  愛しているが、ヒロキはセンリを頼りにはしていなかった。  だが今は、誰よりも心優しく頼れる男へと成長したセンリを、ヒロキは自慢の夫だと誇らしく感じている。 「ヒロキ愛してる!!」  家族の前でもセンリは平気でヒロキにキスを落とし、愛の告白をした。 「僕も愛しているよ! センリと結婚出来て、僕は幸せだよ!」  ヒロキも背伸びをして、センリの唇にキスをした。  本当の恋を知らないアルファには…  オメガの溺愛が不可欠なのだ。 ー E N D ー  あとがき  ○  ○  ○  ○  タイトルを見て、想像と違うと不機嫌になられた方、本当にすみません!  前半がヒロキの溺愛で、後半からセンリの溺愛が加わり… クズ野郎アルファを、年上オメガが育てるお話となりました。 …タブン、ヒロキは上げチンです(笑)。  書けば書くほど、センリのクズ度数が増してしまい… (-_-;)  本気でセンリが恋をしなければ、大切な気付きもなく…  一生クズ野郎のまま、みんなの嫌われキャラで終わったことでしょう。 「アルファの妻にはなれないベータ」 …でヒロキが2度、結婚を断った元婚約者のお話を書いてみました。(このお話も、続けてfujossy様に投稿予定です)  このお話に入れようかなぁ~… と考えていたエピソードでしたが…  結局入れられず、ショートで書き直してみました(・´з`・)  2度も断られて、ヒロキに対して寛容だった理由がわかると思います(笑) ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。  また、どこかでお会い出来れば幸いです☆彡

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