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第5話
「え…ちょ……冗談だって」
雲仙に足の間に膝を差し込まれ、正面からぐいっと抱きかかえられてしまった。
姿勢を保つよう、とっさに雲仙の細いがしっかりとした腰に足を絡めたが、これじゃまるで木にすがるコアラだ。
締め切った部屋のムッとする空気すら気にする余裕がない。
「奥に引き戸があるから、あそこがベッドルームですね」
「靴……ミズホくん、靴!」
「脱ぎました。……ああ、大浦さんの靴はベッドの上で脱がせますから」
片手で器用に部屋の電気を手探りし、エアコンをつけ、あっという間にセミダブルのベッドに降ろされた。
「足あげてください」
軽く持ち上げた足を掬い上げられ、パタンとベッドに仰向けに倒れてしまう。
サウナといい、今といい、今日は腹筋の必要性を痛感する日だな。
雲仙に丁寧に靴を脱がされ、靴下を抜き取られる。
「……大浦さん、寝てます?」
「……一瞬、寝てた」
仰向けはいけない。油断をするとすぐに夢の中だ。
「トイレにいきますか?」
「ん……朝、する」
「……そうですか。わかりました」
「着替えはあのクローゼットの中ですか?」
「あ…寝るときに着るのは干しっぱなしで……そのまま……着る…かりゃ……」
………。
「ふっ…ふあ?」
雲仙がネクタイを外して、シャツのボタンを開けてくれている。
「着替えこれでいいんですよね。今夜はもう着替えさせるだけにしますから安心して寝てください。
「ん……わる…ふぃ…」
雲仙は干しっぱなしの洗濯物の中から、しっかり寝るとき用のTシャツとハーフパンツを選んでくれていた。
それだけ確認すると、もう瞼がクローズだ。
「僕も大浦さんのTシャツ借りていいですか?」
「いい…ん……ミズホく…ん寝る……場所…」
隣の部屋のソファベッドを指さそうとしたけど、手がうまく動かずベッドを叩いた。
まぶたの隙間から見える範囲全てが雲仙のスッキリとした顔で埋まっている。
「大浦さん…なんて可愛らしい。ええ、あなたの隣で……」
「ん……」
まあ、広めのベッドだし二人で寝られないこともない。
ほとんど閉じた目には、楽しそうに笑う雲仙の目が霞んで見えるだけだ。
「サウナでも思ってましたけど、かわいらしい乳首ですね」
「……ん……あり…と…?」
まぶたは完全に落ちた。耳に雲仙の優しい声だけが届く。
「後でまた味見させてもらっていいですか?」
「……ん……?」
まぶたの裏に部屋のあかりを感じたまま、現実との境界なく夢の世界へ漂い移る。
ここはさっき雲仙に背負われ歩いた夜道だろうか。
「今夜はそれだけで。続きは朝にさせてもらいますね」
「ふ…ん………」
……ああ、夢の中でも俺は背負われているのか。
雲仙の体の熱が生々しく感じられた。
「おやすみなさい、大浦さん」
「………み……クゥ……」
雲仙の背中から低い塀に降ろし座らされる。
近くにある端正な顔が近付き、顎をそっと持ち上げられた。
……これは……なんて夢だ。
顎に優しくふれる指の感触が妙にリアルで、しかもその手に頬を擦り付けたくなってしまった自分に混乱する。
でも、ま、夢だし、雲仙ならいいか。
……いや、雲仙に申し訳ない気もする。
だからといって……夢でのキスを我慢する必要もないかな。
……いや、こんな夢をみるってどうなんだ俺……。
ごちゃごちゃ考えながらも、俺は雲仙の艶やかな髪をふわりと掴み、意外に男らしい厚みと力強い弾力のある唇に二度三度と唇を合わせ、舌を絡めていた。
「…ん…ンァ……」
……近くで鼻にかかった甘えるような声が聞こえる……気がする。
雲仙が何か言っている……?
『…そんな可愛い声、ダメです。眠らせてあげたいのに、眠かせたくなくなるじゃないですか……』
「…やぁ……ん……ふ…」
何か叱られたような気もするけど…よくわからない。
けど、その声は優しくて……。
雲仙………夢だからいだろ?
なぁ‥‥もっと……キス……。
……ああ……これは……だめだな。
夢でイチャついた相手にしばらくの間淡い恋心を抱いてしまうパターンだ。
しかも……雲仙にか……。
……けど、仕方ない。
夢でキスしているだけなのに、こんなにもあまく胸が疼いてしまうんだから……。
《終》
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