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第73話

先生はきっと絵が好きでこの世界に入っただろうにそれを趣味だと言われてしまえばきっといい気分ではないだろう。 「その気持ちで構わないよ。僕もね最初はそんな感じだったから」 「え?そうだったんですか?」 「そうだよ?才能が開花されちゃっただけで好きでこの世界にいるわけじゃないよ。それは今だってね?たまたま絵の才能があった。それだけだよ」 たまたま……か。 そうだよね。仕事に就いてる人達はみんな色々な事情を抱えて仕事をしている。 好きなことを仕事に変えている人もいれば、したくもない仕事をしている人だっている。 それを続けれるかが大事で……僕にはそれができなくて。 「僕は……今マネージャーをしてまして……マネージャーの仕事の方で叶えなきゃならない目標があって……そ、その……」 「絵だけに集中は出来ないって話でしょ?別にいいじゃん。ただキミは絵の才能がある。本気を出せば世界にだっていける。その才能をなくしてしまうのはもったいないと思うんだ。描ける時でいいから僕と一緒に描いてみない?キミが夢中になれるものを」 僕が夢中になれるもの…… 「あ、あの……!見てほしい絵があるんですが見てもらってもよろしいでしょうか……?」 持ってきていたリュックからスケッチブックを取り出して、もう何年前の絵だから少し色褪せているけれど劇場で踊っていた時の莉羽の絵を先生に見せた。 「こ、これなんですが……」 「これは……?莉羽くん……?」 先生は驚いた顔で僕と僕が描いた莉羽を交互に見つめていて、 「はい……LieNの莉羽なんですが僕が夢中になれたものは莉羽なんです。莉羽を見た時『描かなきゃ』と思って……」 「……コレだよ!コレコレ!」 「え……?これとは……?」 「すごく魂がこもってる!莉羽くんを描き続ければいい!しかも人気アイドルだ!僕はこういう絵をすごく見たかった!コンテストの優勝者でも正直、満足いかないものが多くてね。やはりキミは必要な人材だ!マネージャーをしながらでいいから僕に絵を見せ続けてくれ」 なんだろう、すごくホワホワする気持ち。 自分の夢中になれるものを描いた絵をこんなに褒められるのはすごく気持ちがいい。 「マネージャーの仕事もあるのでガッツリは難しいですが……先生がよろしければぜひお願い致します」 「うん、よろしくね。ちなみに僕もキミと同じ気持ちなんだ」 「同じ気持ち……?」 「ああ、僕もこの時代だからこそ絵の魅力を伝えたいそう思ってるんだ。一緒に頑張ろう」 莉羽が僕に絵の世界に行ってほしいなんて言ってくれていなかったらこんな素晴らしいことはなかったのかもしれない。

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