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第2話 オニツカタイガー 肉まん 青ジャージ

「灰谷くんいらっしゃい。お疲れ様」 真島の母、節子が玄関先で迎えてくれた。 お陽さまみたいないつもの笑顔だ。 「チイッス。これ」 「あら、何?」差し出されたコンビニの袋を受け取り、節子が中をのぞきこむ。 「新商品のチョコレートまんとカスタードまんっす。おじさんとどうぞ」 「あら~いつもありがとう」とさらにニコニコしながら「そうそう友樹くんも来てるのよ」と節子は付け加えた。 ……だろうな。 玄関に二足、仲良く並んだオニツカタイガー。 真島が履いているのを見て友樹も欲しがり、二人おそろいになった白いスニーカー。 バイトの後輩である友樹を、真島が可愛がっているのもこの一ヶ月半の小さな変化の一つだった。 「いま、唐揚げとオムライス作ってるからね」 「ごちそうさまで~す」 プ~ンと漂う油の匂いに刺激され、灰谷の腹がグーグーと鳴った。 なだめるように腹をさすりながら二階への階段を上がると、トントンとカタチばかりにノックして返事も待たずにドアを開けた。 いつもの事だった。 小気味の良いゲーム音楽が耳に飛びこんで来る。 青いジャージを肩から羽織り、テレビの前にちょこんと正座して、ひとりゲームに熱中している真島の後ろ姿が目に入った。 「オマエ、肉まんとピザまんどっちにする?一個ずつしか残ってなく……て…さ」 あれ?なんか……。 灰谷が違和感を感じた瞬間、ゲームを止め、クルリとふり返ったのは……。 ――――友樹だった。 「あ、灰谷先輩、こんばんは。お疲れ様で~す」友樹は人懐っこい顔で微笑んだ。 一瞬、見間違えたのもムリはない。 真島のお気に入り、いつも着ているアディダスの青ジャージ(『ジャージじゃねえよ。トラックジャケット!!!』と真島に返される)のせいもあるが、長めだった髪は少し短くなり黒かった髪の色は薄茶色になっていた。 つまり、真島の髪型髪色とまるっきりソックリになっていたからだ。 「お!おぉ、お疲れ……真島は?」 「あ、いま下。トイレです」 「おう……」 友樹はニコニコしながら灰谷の次の言葉を待っている。 これって……なんかコメント……まあ、とりあえずいいか。 「あ、いや、ワリぃ。続けて」と促すと「あ、はい。すいません」と、なぜだか謝り友樹はゲームを再開した。 とっさにとはいえ、『真島は?』なんて。 マヌケな返しだよなと思いながら灰谷は友樹の後ろ姿をあらためて見つめた。 もともと真島と友樹は背格好がよく似ている。 バイト先では二人があまりに似ているので『真島ブラザーズ』というあだ名がついているほどだ。 夏休み開けに真島がバイトに復帰すると友樹はあっという間に真島になつき、今ではこうやって家にも頻繁に遊びに来るようになっていた。 それにしても……なんだかな……。 「ご苦労、灰谷」 「うおっ」 急に耳元でボソボソと声が聞こえ、灰谷はカラダを引いた。 見れば、濡れた手をパタパタさせながら真島がすっとぼけた顔でそばに立っていた。

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