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第5話 条件付きの原付バイク

「さ、カラダも暖まったところで、もう一回戦いくぞ~」真島が腕をブンブン振り回す。 「負けませんよ~」 真島にワシャワシャ撫でられてクシャクシャになってしまった髪を整えながら友樹がゲームのコントローラーを手にした。 ♪~ ♪~ 『ファイト!!』 二人がプレイし始めたのはキャラクター同士が技を出しながら対戦する格闘ゲームだった。 真島がここのところハマっており、部屋に遊びに来たものは誰かれ構わず相手をさせられている。 「灰谷、オマエもこの後やろうぜ」 「ああ、オレいいわ」 灰谷はポケットからスマホを取り出し、ベッドにゴロリと横になる。 「なんでだよ~!」 少しふくれたような真島の声に「労働して疲れてんだよ」と返せば、「おう!そいつはワリぃ。おつとめご苦労さんしたっ。あざあ~っす」と真島はすぐにオチャラけた。 二人のゲームを横目に灰谷は『schott 革ジャン』でネット検索をはじめた。 「行け! サンダーボルトローリングサンダー~~」 真島が声を張り上げる。 ずらりと並ぶ革ジャンの画像を眺めていた灰谷は画面からチラリと顔を上げる。 ガラガラドシャーン。 真島のキャラ(サンダーボルトジンジャー)が必殺技の雷を落とし、友樹のキャラが黒焦げになっていた。 「ぃやった!!」 ガッツポーズをして立ち上がった真島は得意げな顔で灰谷に向かって右手を上げる。 しょうがねなあと思いながら灰谷はその手をパチリと叩き返してやった。 「あ~~」友樹がうなだれる。 「友樹、弱いねえ~」 「弱いっす~」 「いいねいいね~」 上機嫌の真島は友樹の頭をまたグリグリと撫で回した。 「やめてくださいよ~」 「カワイイカワイイ」 「んも~」 ハイハイ。子犬のジャレ合いジャレ合い。 灰谷は大きくあくびをするとメシまだかなあと思いながら二人に背を向けスマホ画面を見つめた。 「――――――灰谷って!」 真島に名前を呼ばれ、灰谷はハッとしてカラダを起こした。 いつの間にか検索に集中していたらしい。 「何?」 「メシまだみたいだから菓子食うかって」 キュルルーとお腹が鳴った。 「くれ」 真島は立ち上がってベッドの脇に腰をおろし、ポテチの袋を差し出した。 「バイクで来たの」 「おう」 「いいな~オレも乗りてえなあ」真島はため息をつく。 「乗ればいいじゃん」 「ムリじゃん」 少しムスっとした顔で真島は返し、ポチ地をバリバリと噛み砕いた。 「早いとこカネ貯めて親に返すんだな」 「だ~~。だよな。でも貯まんねえ~」 「お菓子ばっか食うからだろ」 「あ~菓子だけ食って生きて~」 「小学生か」 「ほれ、友樹も食え」 「ありがとうございます。バイクってなんですか?」と友樹が首をかしげる。 「あ、友樹知らないっけ。あるじゃん玄関脇にバイク」 「あ~……黒い原付?カッコイイっすよね」 「だろ?でもさ、オレ一人じゃ好きに乗れねえの」 「なんでですか?」 バイクについての諸々はこうだった。 バイクは危険だから高校卒業するまではダメ、と公言していた母・節子がそう簡単に許すはずもなく……。 バイク代を返し終わるまではとにかく自由に乗ることは許さない。 ただし〈真島のバイクのカギは灰谷が責任持って管理する〉のであれば、灰谷と二人の時に限り、超超超安全運転でならば乗ってもいい。 「だから~、カネを返し終わるまではオレのものであってオレのものではないわけよ」真島がふくれっ面をする。 「スペアキー作っちゃえばいいんじゃないですか」あっさりと友樹が言った。 「……ああ!その手があったか」ポン!と手を打つ真島に「やめろ、オレへの信頼がなくなる」と灰谷は速攻ツッコんだ。 つまり、一蓮托生、今回のことは共同責任ってことなのだ。 「だよな~」と真島。 「ですね~」と友樹。 はあ~とため息を付きながら肩を落とす真島を少し可哀想だなとは思ったが、「バレたら二度と乗れなくなるぞ」と灰谷は釘を差した。 「だよな~。返し終わるまで我慢するか~」 「真島先輩、元気出して。ゲームやりましょ!」 「おう。そうだな」 「ボク、キャラ変します」 「何にすんの? あ、ミルハニ? ミルクとハニー、双子のエロ美少女キャラ」 「はい! 好きなんですボク」 「二人あやつんのムズくね? まあ、オレのジンジャーの方が強いけどな。カッカッカッ」 珍しく連勝して余裕のある真島は高笑いした。

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