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第11話 スモーキー・ロビンソンとマコトモ
「友樹、どんどん食えよ」
「いただきま~す」
「唐揚げ、ほれ唐揚げ食べろ。うまいから。そんでポテサラな」
真島は友樹の皿にポテトサラダを盛りつけた。
「うんま~い!」唐揚げを口に入れた友樹が声をあげる。
「マコ先輩のお母さん、料理お上手ですね」
「だろだろ~って、なんだよ友樹、急に。マコやめろって」
「いや、マコってなんかカワイイなと思って。あっポテトサラダも美味しい」
「だろだろ。っていやいやカワイイもやめろよ。かわいくねえし。なあ灰谷」
真島の向いに座った灰谷はスマホの画面を見ながらオムライスをモリモリ頬張っている。
「今日のオムライスどうよ」
「ウマい」
「食事中に行儀悪いなあ。さっきから何見てんのそれ」
「ジョジョ」
「ジョジョか。第なん部……」
「あのあのマコ先輩」友樹が真島の肘を遠慮気味に引っ張った。
「さっきから流れてる曲。これ、誰ですか?」
スピーカーからは男性ボーカルの甘いファルセットが流れていた。
「これ?スモーキーロビンソンアンドミラクルズ」
「ミラクルズ?はじめて聞きました」
「あ~そうかもね。オールディーズだから」
「なんか……甘くて綿菓子みたいですね。ふわふわしてて甘くて、食べるとジュッて口の中で溶けちゃいそうな感じ」友樹は目を細めて言った。
「夢の中で夢見てるみたいな感じだろ?」真島が嬉しそうに返す。
「はい!」
「いいね友樹!わかるね~」
「ボク、好きです」
「そうか~友樹も好きか。なんか嬉しいな」
「マコ先輩、音楽のセンスもいいんですね」
「そんなことねえよ~」真島がテレた。
夏休みに家をあけ、一人で数日暮らした例のアパートで聞いていたという音楽だった。
二人の会話を聞くともなしに聞きながら灰谷は唐揚げを二個いっぺんに口に入れた。
「たまたまだよ、たまたま。な~灰谷」
「かい*のおふぉめ**」
「あ?なんだって?」
口いっぱいにほうばっていた唐揚げを飲み下すと「懐古趣味の乙女趣味」と灰谷はつぶやいた。
「なんだとコラ。つうか灰谷、さっきから見てれば唐揚げ食べんの早えよ」
「腹減ってんだよ」
言うなり灰谷はまた唐揚げを二個いっぺんに口の中に入れた。
「あ、また二個食い。出せ戻せ」
「(モグモグ)ムリ言うな」
「友樹の分がなくなっちゃうだろ」
「マコ先輩、ボクなら大丈夫です」
言っているそばから灰谷はさらに二個、口に放りこむ。
「だから二個食いやめろって」
「(モグモグ)まだこんなに(モグモグ)あるだろうが~~」
「友樹はオマエと違って食べるのが早くねえんだから」
「弱肉(モグ)強食だ」
「なんだそれ。ここはサバンナか」
スッと友樹の腕が二人の間に伸びてきた。
「これこれ二人とも。ケンカしないで」と女の子声で言うと腕組みしてほっぺたをふくらませる。
「おっ、もしかしてミルハニ?ミルハニじゃん?やってやってお決まりのやつ」
さっきやっていたゲームキャラのものまねを真島がアオる。
「『そんな事言うと天国の門にキスさせちゃうぞ~』」
友樹はカラダをくねらせ人差し指をくるくるさせた。
「うお~してして~って…バカ!」
真島のノリツッコミ……。
灰谷は心の中でつぶやく。
「友樹、カワイイ。オマエカワイイわ」
褒め称える真島の鼻の頭を「そうですか?マコ先輩もカワイイぞ」と、友樹は人差し指でちょんとつついた。
「やめろ。それとマコやめろ。トモ言うぞ。トーモちゃん」
「はーい。じゃあミルハニみたいにマコトモで行きましょう」
「やだって」
「なんでですか~」
マコトモ……。
つうかヘンなノリ。
サトナカマジハイではないノリだな。
なんつうの、先輩後輩ノリ?女子ノリ?
ちがうか。
灰谷は心の中でその日、何度目かのツッコミを入れると今度はポテトサラダをモリモリと口につめこんだ。
「そうだマコ先輩、灰谷先輩がマダムキラーって話、さっきしてたでしょ?」
「ああ。女キラーの女たらしね」
「たらしてねえわ」
「それで思い出したんですけどね。夏休みにも来てましたよ、お店に。他校の女子たち」
「店に?すげえな灰谷」
灰谷に負けるかとばかりに唐揚げを口いっぱい頬張って真島が目を輝かせた。
「ねえ~灰谷先輩」と友樹はその隣で静かに微笑んだ。
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