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第12話 あおり

「夏休みにも来てましたよ、お店に。他校の女子たち。ねえ~灰谷先輩」 静かに微笑み灰谷を見つめる友樹。 「そうだっけ」と返した灰谷に、「来てたじゃないですか女の子たち。ボク、休憩中に店の前で捕まって取り囲まれてあれこれ聞かれたんですよ」と友樹が澄ました顔で言う。 先程のやり取りを知らない真島は「ほほう~。相変わらずモテるな灰谷~」とオムライスを頬張りながらちょっと誇らしげな様子だった。 「覚えてねえな」そう返すと灰谷は友樹に鋭い視線を投げかけた。 それをさらりと受け流して友樹がさらに明るい声で続ける。 「ホントに覚えてないんですか?灰谷先輩」 「ああ」ぶっきらぼうに灰谷は返す。 「灰谷、オマエ、肉ばっか食ってないで生野菜も食えよ」 二人の様子などまったく気がついていない真島は灰谷の皿に野菜をこんもり盛り上げた。 「そういうオマエこそ食ってねえだろ」 「ポテサラ食べたいオレ。んで女子達なんだって?」 「うーんと~灰谷先輩が彼女と別れたのはホントか?とか~」 「おおセンシティブ……センシティブってなんだっけ」 「敏感・感じやすい・神経質」灰谷は即座に返した。 「お~。センシティブなとこ踏みこんで来るね女子」 「ええと~あとはなんだったっけなあ……」 友樹は声のボリュームを少しだけあげてつぶやくと、思い出そうとでもするようにこめかみを人差し指でトントンと叩く。 こいつ、もしかしてさっきからオレの事あおってんのか? 灰谷が友樹を見つめたその時、目が合った。 友樹の瞳の奥にいたずらを仕掛けるような光が一瞬浮かんだように見えた。 「うーんとたしか~うーんと~……」 まさかこいつ、真島本人に言ったりしねえよな。 『マコ先輩がゲイだとか、それが原因で灰谷先輩は彼女と別れたとか、女の子妊娠させて捨てたとか』 先ほどの友樹の言葉を灰谷は思い返した。 顔では平静を装いながら、灰谷の胸が少し波立つ。 「う~んと…… どんな女の子が好きなのか?とかでしたね」 そう言うと友樹は「言いませんよ」とでも言うように灰谷に小さく笑いかけた。 ホッとすると同時に、気にくわねえと思いながら灰谷はその気持ちをぶつけるように山盛りの生野菜を次々と口に入れバリバリと噛んだ。 「おっ、灰谷いいねえ。いい食べっぷり。それなら肉も食ってよし」と真島が唐揚げを皿にのせた。 「マコ先輩、ボクにもくださ~い」 「おっいいぞ。友樹もジャンジャン食え食え」真島は今度は友樹の皿に唐揚げを盛り上げた。 「しかし情報早え~な女子。別れたとかなんでわかんの。夏休み中じゃん」 「あ~SNSとかいろいろありますしね」 「え~怖~」 「なんかあったらボクがマコ先輩たちを守りますよ。ボクそっち系わりと得意なんで」 「頼もしいな。おっ、そうだ友樹、これ、やるよ」 真島が机の上からミラクルズのCDを取り、友樹にポンッと放った。 「え?いいんですか」 「いいよ。オレもうPCに取りこんだから」 「うわぁ~ありがとうございます」CDを手にした友樹は嬉しそうに礼を言った。 その時、『(まこと)~。(まこと)~ちょっと来てー』と階下から節子が真島を呼ぶ声がした。 「なんだよ母ちゃんは~」真島は立ち上がり出て行った。

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