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第14話 隠されていたもの
「しっかし、モノの少ない部屋だな」
一人になった友樹はあらためて部屋をぐるりと眺め、つぶやいた。
ベッド、勉強机、テレビの載ったAVラック、食事ののった折りたたみ机、家具はそれだけで全体にがらんとした印象だった。
ふらりと立ち上がり、クローゼットの扉を躊躇なく開け、中を眺める。
「服、少なっ。ボクの百分の一じゃん。逃亡犯かよ。うわっ、ダサッ」
扉についた鏡に映る自分のジャージ姿を見てつぶやく。
「スポーツブランドを私服にするのってなんかなあ~。趣味じゃないんだよな」
クローゼットの扉をしめるとゲームやマンガが整然と並んだAVラックを眺め、机の引き出しを下から順に開けた。
プリントの入ったファイルや教科書、ノート、文房具などがやはり整然としまわれているだけで興味を惹くモノはみつからない。
一番大きな引き出しを開くとそこは空っぽで……と思ったら緑色のシャープペンが一本、奥から転がってきた。
友樹は手に取り、眺めてみた。
何の変哲のない古ぼけたただのシャープペンだった。
「何これ?なんでこんなん取ってるの?意味不明」
友樹は首をひねるとそれを元に戻し、引き出しを閉めた。
♪~ゴーイントゥアゴーゴー
その時スピーカーから流れるミラクルズがノリのいい曲になった。
友樹は首でリズムを取り、「おっ、いいじゃん」とつぶやくとカラダを揺らし、曲に合わせテーブルの周りを手のひらをひらひらさせながらしなやかに踊った。
♪ベイビカモンナゥ~と歌に合わせて小さく口ずさむ。
曲が終わると先ほど放り出したCDを手に取り曲名を確かめた。
「ゴーイントゥアゴーゴーか」
ふと、テーブルの上に置かれたままの真島のスマホが目に入り手に取った。
さすがにロックかけてるか。んじゃPCは……っとその前に。
ドアを開け階下の気配をうかがった。
まだ帰ってこないと判断するとドアを静かに閉め、机に置いてあったPCの電源を入れた。
起動音がし、立ち上がった画面には真島・灰谷・中田・佐藤の四人が肩からおそろいのタオルを掛け、はじける笑顔で肩を組んでいる壁紙だった。
「ダサっ!!」思わずつぶやくと、まるでマズイものでも食べたように口を左右にモゴモゴと動かした。
友樹はenterキーを叩く。
パスワードを求める画面に切り替わった。
お~意外と用心深いねマコ先輩。
そういうのしないタイプかと思いましたよ~。
ってことは簡単には人に知られたくないものがあるってことですよねえ~。
名前のアナグラム、誕生日、思いつく限りを打ちこんでみたがヒットしなかった。
まあヒントがなさすぎだよな、とあきらめてPCの電源を落とす。
ネタになりそうなモノは何もみつからなかった。
音楽はノリのいい曲から今はまた甘ったるい曲に変わっている。
つまらなそうにボスッとベッドに倒れこんだ友樹はしばらく天井を眺めていたが、何気なく壁とベッドのすき間をのぞいてみた。
「あっ!」
ビニール製の巾着袋がツッコまれていた。
友樹は手を入れてそれを取りだした。
シューズメーカーのロゴが入った、靴を買った時に入れてもらえるビニールの巾着だった。
振ってみた。軽い。
袋の口を開け中身を取り出した。
出てきたのは真島が持つには不似合いなピンク色でリンゴ型のジュエリーケース。
そして、口を結ばれたコンビニのビニール製のレジ袋が入っていた。
友樹はまずジュエリーケースをパカッと開いてみた。
「なんだよ空っぽじゃん」
続いてコンビニのレジ袋を手にする。
手のひらサイズの小さな袋で口を何重にも結んである。
外からさわってみると中には丸くて固く、でも軽いものが入っているようだ。
友樹は固く結ばれていた口を時間をかけて慎重にほどいた。
「え?へえ~」
中には外国製のタバコとライター。ファミレスにあるようなメラミン素材の軽い灰皿。
そしてタバコの吸い殻が二本、入っていた。
「吸うんだタバコ。悪い子ですねえ、マコ先輩」
友樹の目に光が宿り、口の端が持ち上がった。
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