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第28話 屋上で聞いたこと②
『高橋が言ってたんだよ。やらしいことできるって』
やらしいこと……高校生男子にとってはパワーワードだぞ。
オレはこみ上げるあくびを手で押さえて耳を澄ました。
『だよな。昼休みに屋上に行けばこの子とやらしいことできるって』
ここは下からは見えないから寝てても問題ないと思うけど。
みつかったらめんどくさそうな感じがする。
それにしてもこの穴場を知ってるヤツが他にもいるとは…ムムム……。
「つうか相手男だろ。キモっ」
「カワイイんだって。ミルハニにそっくりなんだって」
「ミルハニ? 格ゲーの? 無理だろ。二次元じゃん」
「マジそっくりなんだって。動画見てみろよ」
下の会話もなんか気になる……。
オレは耳を澄ます。
『****~』
『****~』
『****~』
男三人でスマホ囲んで動画見てるっぽいんだけど……。
さすがに音声はきちんと聞き取れない。
「な~この子。カワイくねえ?」
「つかスタイルいい。足メッチャキレイ」
「いやでも男だろ。キモッ」
「いや、そこらのブスより全然カワイイじゃん」
「つうか叶姉妹みたいなデカサングラスで顔わかんねえ」
何なに?
男で足がキレイなミルハニのコスプレイヤーって事?
オレはさらに耳を澄ます。
『××××、×××××××××~』
あ、これ『野郎ども、天国の門にキッスしな』じゃね?
『×××××××××~~~』
ミルク~ハニー~ヘブンズキーッスだな。
ミルハニの決めセリフだ。
うお~と男子達がどよめく。
「見た?ケツ見た?」
「赤Tバックのケツ~」
「キレイじゃね?」
「いや、でも男だろ。前ついてんだぞ」
「いや、でもエロいだろ」
「エロは正義」
――――。
会話から察するに、動画サイトでミルハニのコスをしてるコスプレイヤー(男)がいて、そいつがお昼休みにこの屋上でやらしいことしてあげるって言ってるってことっぽい。
オレのこの聴力と理解力!
壁に耳あり屋上に真島あり!
「あ~チクショ。せっかく楽しめると思ったのに。いねえじゃん」
ガイーンと鉄のドアを蹴った音(たぶん)が響いた。
「どうせ高橋にだまされたんだって」
「チクショウ高橋、殺す」
「*****」
「ファック!」
またガイーンと音。
一人、ちょい言動が暴力寄りのやつがいんな。
「高橋あのドM野郎。殴りて~」
「それ逆にヤツにはご褒美じゃん」
「つうかもう戻ろうぜ」
ヘタに見つかってもめんどくさいんでオレは気配を殺してじっと身を潜めていた。
「マコちゃーん。今度は絶対にいてね~」
一人が叫んだ。
「オマエ、ウケる」
「ヤリマンちゃ~ん」
「殴りてぇ~」
ガチャーン。
ドアの閉まる音がして静かになった。
念のためにしばらく待ってからカラダを起こし、そっと下をのぞいて見る。
いない。
マコちゃーんだって。まるでオレのことみてえだな。ハハハハ。
ハッ。
あいつらと顔合わせてたらオレがそいつだと思われたりして。
いやいや……。
怖~。
どこの誰だか知らないけどコスプレマコちゃんや。
そういう事は学校以外でおやりなさい。
いや、やらない方が……いや、やってみないとわからないこともあるからな。
城島さんを思い出し、オレの胸がチクッとした。
もう一人のマコちゃんに幸多かれ。
ってスマホを見れば昼休み終了まであと20分。ダッシュすれば教室まで10分? いや7分か。
よし、タイマー掛けてちょっとだけ眠ろう。
おやすミンティアっと。
ねむーい。
ねむねむね……zzzzz……zzzz……!
ガッシャーンドーン。
鉄のドアがまた乱暴に開く音。
またか!
今度はなんだよ。
さっきのヤツらが戻ってきたのか?
それとも本当にマコちゃんか?
それにしてもオレの貴重な睡眠時間を~~~。
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