31 / 43

第30話 佐藤の野生の勘①

「あれ、マジナカいねえな。連れションか?」 結局オゴらされてしまった灰谷とご機嫌の佐藤が教室に戻って来ると、真島と中田の姿はなかった。 佐藤は席につくなり袋をやぶり、メロンパンにムシャムシャとかぶりつく。 灰谷は焼きそばパンの袋を慎重に開け、パンをスライドさせ袋から出すと真ん中にのっていた紅ショウガをつまみ、全体にまんべんなく行き渡らせた。 「ヘンなの。なんか妙なこだわりあるよな灰谷は」 「うっせ」 灰谷は大きく口を開けてかぶりついた。 二人もぐもぐとそれぞれのパンに集中していたが、しばらくして佐藤が言った。 「なあなあ灰谷、あれ、すごくなかった?」 「あれ?」 「真島だよ。真島のあの発言」 __いや、オレはたまたま好きなやつが男だったってだけで。 __そいつ以外別に好きじゃねえもん。        ……あれか。 「あれ、素で言ってるじゃん。真島ってさ、なんかこう~実は天然ちゃんっていうか」 コーヒー牛乳を美味しそうにチューチューストローで吸って佐藤は続けた。 「たま~にこう、びっくりするほど純粋な事、言う時あるよな。自分では気がついてないみたいだけど」 そうなんだよな。 純粋。 なんかピュアなところが、あるっちゃある。 「思わずオレ、グッときちゃってさ。中田と目を合わせちゃったぜ」 灰谷は固まった。 その対象がオレだったとして。 いやそうなんだろうけど。 〈オレ〉の事が好きなだけで、そのオレがたまたま〈男〉だっただけで。 〈男〉が好きというか、〈男〉だからそういう対象だったわけではない……って事だろ? いや、でも〈男同士〉だからこそ、今のオレたちなわけで。 まあとにかく、真島のあの発言はオレに対する熱烈な告白(しかも本人無自覚の)だったとも言えるわけで。 あらためて自分への想いを感じないわけにはいかなかった。 「あれ? あれあれ? つうかそうじゃん」と佐藤が声を上げた。 灰谷はペットボトルのキャップをひねり、ペプシをゴクゴクとのどに流し込む。 「真島、前に好きなヤツに告白したって言ってたじゃん。そいつはもちろん男って事だよな」 ゴホッと灰谷は軽くむせた。 「しかも、あの言い方だとそいつのことが好きで、でも告白できなかったから、結衣ちゃんと付き合ったり、あのオッサンとセフレってたって事だろ? え? そうだよな」 ゴホゴホゴホ。 灰谷はさらにむせた。 「何やってんだよ灰谷。老人か」 「…ちげえわ」 「ハッ! つうか、そいつって近くにいるやつなんじゃね」 そう言うと佐藤は灰谷の顔を見つめた。 え? こいつ気がついちゃった? 灰谷がドキッとしたのも一瞬だった。 「もしかしてオレ?」と佐藤は自身を指さした。 「ちげえだろ」 「だよな。ハッ! もしかして……」 またも佐藤が灰谷の顔を見つめた。 え? やっぱり気がついた? 「……中田?」 「ちげえだろ」 「だよな。でも、『彼女いるし諦めようと思ったけど、ホントは好きだったんだ中田きゅーん』的な?」 「BL読みすぎだろ」 「あ~おもしれえんだぞ。胸キュンなんだから~。灰谷は生理的にムリつってたからないしな~」 佐藤は灰谷を華麗にスルーした。 「……あ!もしかして!……コンビニの店長?」 この件は佐藤、大丈夫だな。 一番最後にわかって、え~!! つって驚きまくるタイプだ。 心から安心して灰谷は焼きそばパンを食べた。 いや、何を安心してんだかオレ。 ん~まあ、ハッキリするまではなあ~。 ハッキリ……どういう状態をハッキリというんだろう。 ……。 ……。 ……。 灰谷がまた地蔵化しそうになった時、「あ、あいつ!なんだあれ」と佐藤が不機嫌な声をあげた。 佐藤の視線の先をたどると教室の入口に友樹が立っていた。

ともだちにシェアしよう!