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第31話 佐藤の野生の勘②
「わざわざすいません」
灰谷が席をたち、教室の入口に立つと友樹はニコリと微笑み、小さく頭をさげた。
佐藤はといえば灰谷の隣りに立ち、腕組みをし、友樹を上から下まで眺め回していた。
「あの~マコ先輩は?」
「真島、いま席外してる」
佐藤は眉間にシワを寄せ、「マコ…」と口の中で小さくつぶやいた。
不機嫌な佐藤のぶしつけな視線に気がついているだろうに友樹は笑顔だった。
「そうですか。屋上ですかね」
「ああ。どうだろうな」
「屋上って何?」
佐藤が灰谷と友樹の会話に割りこんできた。
「真島が一人になりたいと行くんだよ屋上」
「は?知らねえぞオレ」
「知られたくねえから一人で行くんだろ」
「……」
灰谷の返しにムッツリ黙りこんだ佐藤は(じゃあなんでこいつは知ってんだよ)と言いたげな表情だったが、さすがにそれは言わなかった。
「これ、借りてたマンガ、お返ししようと思って」
尾田雄一郎の名作ワンピースを読んだことがないという友樹に、そんな男子いんのかよと真島は驚愕し、読め読めとずいぶん前に無理矢理押しつけていた。
「渡しといてやるよ」
灰谷が手を出すより早く佐藤は友樹の差し出す紙袋を奪い取るように受け取った。
「ありがとうございます。お願いします」
友樹はニッコリ佐藤に微笑んだ。
「おう」と佐藤が憮然とした表情で返した。
「じゃあ。失礼します。あ、灰谷先輩、次のシフト木曜日ですよね。マコ先輩も」
「ああ」
「じゃあ、また」
「おう」
「失礼しま~す」
友樹を見送り、席に着くやいなや佐藤は声を上げた。
「なんだよあれ!なんであんなに真島に寄せに行ってるんだよ!」
予想通りの反応に灰谷は苦笑いをした。
「髪色、髪型、遠くから見たら真島そっくりじゃねえかよ!スニーカーも同じだったし!」
紙袋をドカッと床に置き、佐藤が吠えた。
「あ~、つうか最新刊入ってんじゃん。なんであいつの方が先なんだよ。いままでオレが一番に借りてたじゃん。おっかしいだろ」
早速手に取りパラパラとめくりながら、「つか、なんでわざわざ学校に持ってくんだよ。入り浸ってるんだろうが真島んちに」とさらにプリプリと怒る。
「まあ、そうだな」
焼きそばパンをほおばりながら灰谷も相槌をうつ。
「しかもマコ先輩ってなんだよ。なんでマコ呼びだよ。真島、マコって呼ばれるの嫌がってたろ」
「なんだかな。リスペクトだってさ」
「はあ~リスペクト? キモッ」
「オマエの好きなBLじゃねえの?」と、灰谷はからかい混じりに返す。
「ええ~? あれはどう見ても引っかき回す小悪魔タイプだよ。当て馬的な」
小悪魔。
この間のやりとりを思えば当たってなくもないかもな。
つうか当て馬ってなんだ?
「う~ん。なんかなあ」
佐藤は腕を組み、渋い顔で宙を見つめた。
「なんだよ」
「あいつ、友樹?オレ、苦手なんだよなあ。初めて会った時から。真島お気に入りだろあいつ」
「だな。嫉妬か
「オレのダーリンにぃ~って。違うわ! 焼きそばパンひと口くれっ」
灰谷が返事をする前に佐藤は焼きそばパンを奪い取った。
「なんかこう~いけすかないっていうか(モグモグ)」
「おい」
「裏ありそうっていうか(モグモグ)」
スゴイ勢いで焼きそばパンが口の中に消えていく。
「オレの野生の勘が告げている!ウッキッキー」
「おい……」
「何?」
「オレの焼きそばパン」
「あっ、ワリイ。食っちった」
「佐藤、オレはオマエの方がいけすかねえよ」
「灰谷きゅん、ごめ~ん」
♪キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴った。
「おおっと、授業授業。ごちそうさまでした!」
佐藤はこれ幸いとばかりに自分の席に戻って行った。
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