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第36話 雨のコンビニ②

まるで嵐だよ……。 「友樹、アメリカンドッグ食わない?」 「え? いいんですかねえ」 友樹はチラリとバックルームの入口に目をやる。 「いいだろ。誰もいねえし。店長、当分出てこねえよ」 「ですよねえ」 「Suicaな。オゴるわ」とオレがスマホを渡すと「ごちそうさまで~す」と友樹がレジに消える。電子決済って便利だよな。 「はい、マスタードありです」 「おう」 オレの好みを覚えてくれてる友樹がアメリカンドッグを差し出す。 「ボクは辛いのちょっと苦手で」なんてカワイイこと言う友樹はケチャップだけだ。 二人並んでつかの間のモグモグタイム。 やっぱうちの店のより、家の近所のコンビニのほうが格段にうめえんだよな。 なんでだ?なんて思いつつ何気なく友樹を見れば、小さい口元に赤いケチャップでお化粧している。 子供か! 「口元、ついてんぞ」 「え?」 「ケチャップ」と教えてやったら「ああ」と少しテレたような顔して友樹は親指で口元をぬぐう。 「いや、そっちじゃなくて反対」 「ああ。へへ」 人差し指で反対の口元を拭うと指についたケチャップをピンク色の小さな舌でペロリとなめとった。 う~ん。小動物的。 見る人が見れば「カワイイ~友樹く~ん」とか言いそう。 「店長、幸せタイムですね」 「そだな」 オレはアメリカンドッグを口にくわえ、防犯カメラに向かって大きく手を振ってみた。 まあ、見てないだろうけど……。 店長は新しく入った〈高校一年女子・アルバイト未経験〉の研修中だった。 新人の世話なんて、オレか灰谷に丸投げしてきそうなものなのに、実際友樹の時はそうだったし。それなのに今回は手取り足取り。 「続きますかねえ」 「つうかあんだけ親切・丁寧・熱烈指導してれば大丈夫じゃね?」 「いや、逆に」 「ああ。逆に」 うちの店、募集をかければわりと、というかかなり集まる方なんだけど、おもに女子が。 「大半は灰谷くんもしくは真島ツインズ目当てだから、どんなに条件が良くてもあえてボクは選ばない」と店長は断言していた。 にもかかわらず採用したということは、つまり……。 「店長、カワイイ子に弱いですよねえ」 そう。ただしカワイイじゃなくて、かな~りカワイイってのがポイントだ。 まあ本気で狙ってるのか、生活の潤いなのか、三十代のおっさんである店長の本音はわからない。 「犯罪ギリギリだな」 「いや、手を出したら犯罪です。まあだから、ようするに同意。究極バレなきゃいいんです」 友樹は妙にキッパリと言う。 「あ~そうなのかなあ」 「そういうもんです」 「ふぅん」 友樹はケチャップつけてるかと思うと、こんな風に悟りきったことを言う事がある。 幼いのか大人びているのか。いやそのどっちもなのか。 面白いヤツだ。

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