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プロローグ

身体があまりにも熱くて目が覚めた。 ひどい風邪でも引いてしまったのだろうか。昨晩はそんな予兆は全くなかった。頭はくらくらを通り越してぐらぐらするし、身体中が火照っている。 うつ伏せに寝ていたので、起きあがろうと両手に力をこめるが、うまくいかない。心に浮かんだいくつかの悪態も、言葉にすることができなかった。 身体にも力が入らない。 あまりに熱いせいか、身体の中心も持ってしっかり起き上がっている。 こんな風邪は初めてだ。 どうすることもできない自分の無力さが情けなくて、目がじんわりと熱くなる。 いつもは体調不良ぐらいで泣いたりなんかしない。感情の起伏はどちらかというと平坦な方だ。熱で情緖もおかしくなっているのかもしれない。 ふいに、頭の中に「明けない夜はない」という古の名言が浮かんだ。 そうだ、熱だっていつかは下がる。 それまでなんとかやり過ごそうとぎゅっと目を瞑った瞬間、耳元で誰かが囁いた。 「一人にしてごめんね。遅くなった」 その途端、身体中の細胞が歓喜する。やっと助けてもらえると。 目からも涙が溢れ出す。 上から覆いかぶさっていた声の主に横抱きにされ、背後から抱きしめられた。 それだけで何もかもから守られたような安心感に包まれる。ずっとこのままでいたいくらいに心地良い。 「つらかったよね? ごめんね。もう大丈夫だよ。いまラクにしてあげる」 早くしてくれ、頼む。答えたいのに、口からハァハァと荒い息を漏らすことしかできない。 なんとか思いを伝えたくて、震える手を必死の思いで動かして、腹の前に回された引き締まったたくましい腕にそっと添える。 「……可愛いことするなあ」 大きな白い手が顎にかけられる。首だけ後ろを向かされると、唇に軽いキスを落とされた。 「ひぁっ」 それだけなのに、ビクビクと震えが走り、下着の中が温かくなる。 「もうイっちゃったの? はぁ~……。ほんっと可愛い。たまんない」 男は小さく笑うと、器用にスウェットと下着を一気に脚から抜き取った。 そのまま床に放り投げてしまう。 「あっ……やぁ……」 やめてくれと言いたいのに、言葉が出てこない。男からは甘くていい匂いが強烈に漂っていて、それが頭を麻痺させる。 大好きなジョーマローンのブラックベリー&ベイのような匂いが充満している。 もっと匂いを嗅ぎたくて、檻のように身体を囲う腕の中でなんとか身体を反転させて男の胸板に縋りついた。 「大丈夫。僕がついてるからね」 男はゆっくりと後頭部を撫でてくれる。 それすらあまりに心地よくて、ゆるゆると腰を前後に動かしてしまう。 「随分と誘ってくるね。……エッチで可愛いけど、まさか僕がいない間に他の男を覚えたんじゃないよね?」 男は低い声で問いただすと、尻を掴んで自分の腰へ引き寄せた。 驚くほど大きくて硬いものが下腹部に押し当てられる。 ああ、早くこれが欲しい。 気持ちよくなりたい。 自分だって男なのに、なぜかそんなことが頭に浮かぶ。 「あぅ…」 モノを当てられただけで、また欲を吐き出してしまいそうだ。 「ねえ、どうなの? ちゃんと言って」 無理やりに至近距離で目を合わせられる。抱きしめる腕に力が込められて苦しいのに、海を閉じ込めたような色の二つの眼に見つめられると、それだけで身体が快感を拾い、肌が粟立った。 違う、そんなことはないと言いたいのに言葉を発することができない。弱々しく頭を左右に振って見せるのが限界だ。 「そうだよね。よかった……もし浮気なんかしてたら相手のこと探し出して、思い知らせなきゃいけないからさ」 男は猫のように目を細め、僕の首筋を優しく撫でた。 そこに何が刻まれているのか、なぜか知っている。 「心配になるんだ、僕たちは会える期間が短いから。こんなに可愛い子を一人にさせておくなんて、気が狂いそう。本当はずっと、ここに閉じ込めておきたいくらいなんだよ? 誰にも見せたくないし、触らせたくない……でも、そんなことしなくても、ずっと僕だけのものでいてくれるよね?」 髪の毛に高い鼻を埋め、切なげに囁かれる。髪に感じる息は火傷しそうなほどに熱を持っている。男も自分と同じくらい興奮しているのかもしれない。それが天にも昇るほど嬉しくて、涙がこぼれそうになる。 震えながら頷くと、容赦なく貪ろうとする口づけに襲われる。まるで食べられてしまいそうなキスだと頭の片隅でぼんやりと思った。 「んっ……ふぁっ……んんんっ……」 「可愛いね……声、もっと聞かせて。誰にも聞かせない。僕の、僕だけのものだ……」 強い力で唇をこじ開けて、熱い舌が腔内に侵入してくる。 舌はまるで意思を持っているかのように自由に動き回り、上顎や歯列、頬の内側など一分の隙もなく舐めまわしていく。 息をするのも許さないとばかりに激しい口づけに、自分が誰のものか思い知らされる。キスだけで、もう下半身はどろどろに溶かされてしまった。 男はゆっくり唇を離すと、鼻先をすり合わせて囁く。 「今日から1週間は、この部屋の中で僕だけを見て、感じて……ね?」 美しい青を見つめながらゆっくりと頷くと、男は花のように笑った。

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