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第2話

意識を取り戻した時には、すでに男は姿を消していた。 ドロドロだったシーツもマットレスも、すべて新しいものに取り換えられて、部屋着も真新しくなっている。 風呂にも入れてくれたのかもしれない。身体も綺麗になっていた。 喉が渇いた。とりあえず水が飲みたい。 身体を起こすとベットサイドにはミネラルウォーターのペットボトルと、メモ書きが置いてあった。 起きたら飲んで。 また3ヶ月後に。 ゆっくりとした動作で起き上がり、ペットボトルを手に取る。 身体中に水分が染み渡るような感覚に、ほっと息を吐いた。 ヒートが終わったことで、ようやく頭の中に正常な思考が戻ってきたようだ。本当によかった。 落ち着いて、自分のことを順序立てて思い出してみる。俺はαでもΩでもない。もちろんβでもない。自分の生きていた世界には第二の性なんてものは存在していなかった。 けれど、今の俺中にはもう一つの記憶がある。それは希少なΩの中でも更に0.1%しか存在しない至高のΩ、別名「シュプリームオメガ」としての記憶だ。 この1週間、部屋から一歩も出ていないので自分の顔は分からない。 けれど身体は30年近く慣れしたんだ安村誠司のそれでないことは明らかだった。 白いTシャツから伸びた腕は、元の自分の腕とは比較にならないほど引き締まっているし、長い。肌も滑らかで白く、吸い付くようだ。視認できる場所には体毛がない。 手は以前より大きいのに綺麗で、爪の先まで綺麗に整えられていた。 たしかこの部屋にも鏡があったはず。 久しぶりのせいか、ゆっくりとしか歩行できない。寝室に作りつけのウォークインクローゼットまで辿り着くと、中に入り、姿見の前で立ち止まった。 「嘘だろ……」 鏡の前で目を見開いているのは、見たこともないほどの美少年、いや美青年だった。 年齢は二十歳前後だろうか。肌のハリや引き締まり方が違う。 くせのない艶やかな黒髪、長めの前髪からは零れ落ちそうに大きなダークブラウンの瞳がこちらを凝視している。 ほどよく高い鼻は小さく、適度な長さの人中の下に、男にしては紅すぎる唇がついている。 瞬きするたびに、濃くて長いまつ毛がバサバサと音を立てそうだ。 真っ白な肌にはシミやシワどころかホクロの一つもない。 身体も見てみたい。俺は上着を脱ぎ捨てる。 「……なんだこれ」 脱いだ身体は確かに一級品だった。適度に広い肩幅からウエストまでが綺麗な逆三角を描いている上に筋肉はつきすぎず、なさすぎずで、いわゆるモテ体型の細マッチョだ。 けれど、その身体のあちこちに紅いキスマークが散らされている上に、とこどころ歯形のようなものまでついている。 まさかと思い恐る恐るボトムスをのぞく。 「見なきゃよかった……」 俺はがっくりと項垂れた。 そこには上半身に負けず劣らずたくさんの所有印が付けられていたからだ。 やっぱり、夢じゃなかった。 俺はヒート中のオメガに転生してこの1週間、番のアルファに犯されまくっていたのだ。 「異世界転生って、本当にあるんだな……」 衝撃のあまり起きたばかりのベッドに戻り、ごろりと横になる。どうせ転生するなら、可愛い爆乳のエルフたちにモテモテのチートな勇者に成り代わりたかった。

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