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第3話
鳥胸肉が安かった。
安かったからって、こんなに買って…。
もし奴が来なかったらどうすんだよ、俺。
鶏ハム作って、サラダにも入れて、チーズと焼いてもいいか。
俺は肉が旨いスーパーで、水炊き用のブツ切りと、安売りの胸肉、豚のコマとこれまた割引されてた豚モモの塊を買った。
鳥チャーシューと、豚チャーシューは置けるから。
あとは、豚汁…、いや、若い奴は生姜焼きの方が好きかな。
ああ、くそう…。
俺は乙女か!!
昨夜のアレコレで甘怠い腹の奥に思いを馳せながら、俺は買い出しに来ている。
ハア…、、やばいな。
あの目が飛び出るような快感。
結腸まで突かれて、命のありがたみさえ感じた。
もう一回、やりてえ…。
そこで俺は考えた。
餌付けだ。
まずは、胃袋を掴むのだ。
そして、少しずつ、セフレという関係を構築して行くしかない!
だが、平日の買い物は怠い。
あれだけの食料を保管するには…。
うちには、上に電子レンジが乗る1人用の冷蔵庫しかない。
週末は食料が乏しくなって、買い足しに行く事もしばしば。
ただでさえ少ない食料なのに、昨日の口止めか何か分からなくなったただの飲み会と、朝からよく食べる馬鹿のお陰で、冷蔵庫の中身がほぼ無い。
乾物はあるが、平日のピンチに取って起きたい。
冷蔵庫、デカくするか?
俺の3倍は食うしな。
明日は卵安売りだ…、アイツ、何個食うかな。
おひとり様ひとパックだから朝と昼に行って、卵ふたパック買って。
しめに雑炊にすりゃ卵は少なくてすむか。
アイツが来なかったら、今頃うどんか雑炊かして食べてたのに…。
一滴残さず食うんだもんな。
まあ、それだけの対価は…、ん?俺はやられた方だ、いや、でも元はと言えば、俺が…、
そんな事を悶々と考えて買い物を終えると、
「あ、マサさん!何してんの?買い物一緒に行くって言ってたじゃん!」
スーパーを出た途端に会うとか、なんなんだよ!
「あ、ああ、ほら、おお前いっぱい食うから、タイムセール…。」
俺は馬鹿か。
なんで顔赤くしてんだ。
「マジ?感動!!持ちますよ、後は何買うの?」
「は、白菜と、ネギと、鱈か何かと、キムチ…。」
袋を渡しながら、その太い指に目がいく。
ああ、昨日はその指が…、、
散々弄られた胸と腹の奥がムズムズする。
「え?ここで売ってないんすか?」
「…ここは、肉だけ。野菜と魚はあっちで買う。」
「……?」
「ここは肉しか旨くないから。」
へー、と言って後ろを着いてくる奴は、ニコニコだ。
「どうだった?練習。」
「今日は負けなしでした!監督からもいいって言われて、次の試合、個人戦にも出るんすけど、クラス下げないでこのまま行くかって言われて、スッゴイ嬉しかったっす!」
「ところで、お前、学生?」
「あ、はい、そこの。」
「あ、そうなんだ。いくつ?」
「19っす!」
10代かよ、、元気な訳だ。
「マサさんは?」
「俺はリーマン、24歳。」
「へえ、ちゃんと仕事して、自分で飯作って、部屋も綺麗で、ちゃんとしてて、すごいっすね。」
ちゃんとしてる奴がディルドなんか買わねえっつうの。
「すごくねえよ。柔道って分かんねえけど、お前いい奴だし警察とか向いてんじゃねえ?」
「そうなんすよ、いいなっては思ってますけど、もっと強くなんないと、まだ先は長いっす。」
「ま、なら尚更ちゃんと飯食って、体作んねえとな!」
「はい!自分、生卵毎日飲んでます!」
「料理しろよ…。」
「いや、電子レンジしか無いんで…。」
「ああ?マジで?」
「そ、そのうち、買います。」
それから1時間後。
…大量の買い出しになってしまった。
「困ったな、冷蔵庫入んねえな、どうすっかな。」
「うちの冷蔵庫、飲み物しか入ってないんで、良かったら…。」
「…良いのか?」
そういう訳で、俺は奴の部屋に来ている。
奴の部屋を覗いて驚いた。
布団とテレビとパソコン。
キッチンスペースにはうちと同じくらいの冷蔵庫とレンジ。
「食器は?はあ?フライパンぐらいあるだろ?無いの?マジで?箸もスプーンも…、ハァ。ホンット、コンビニねえと生きていけねえな、お前。」
「いや、料理できねえし、片付けまでなんて、ちょっと無理っす。」
買って、食って、ゴミ袋に入れて、ゴミを出す。
確かに、人間それだけでも、それなりに生きていける。
「寮は?」
「抽選落ち。まあ、学校とバイトと練習で、どうせあんまりいねえんで。」
「…ああ、まあ、そうだよな。学校行って、4時間も練習して、バイト行ったら、な…。バイトって何してんの?」
「配送の倉庫っす。」
「うわー、、更に肉体を酷使する訳か…。ハァ、ったく、仕方ねえな、ど、どうせ俺は、毎日自炊だ。う、ううちで食いたきゃ、食ってけよ。」
くそう…、、性欲のバカヤロウ!!
「あ、ありがとうございます!マサさん、マジ神っす!」
「きょ、今日バイト休み?」
さりげなく、だ。
自然に、さりげなく、予定を…。
「バイトは平日が多いんで、土日は午前中練習して、午後から自主トレっすね。」
「留守ん時、冷蔵庫どうすっかな。」
ああ、鍵を強請ってるみてえじゃねえか!
「鍵、これどうぞ。どうせ取られるもんも無いんで。」
くそう!合鍵…、くそう!!
我慢できなくなったら、行けちまうじゃねえか!!
「…、、じゃあ、冷蔵庫の中だけ、借りる。」
「いつでもどうぞ、部屋にいてもどうせ筋トレか寝てるだけなんで。」
「ね、寝るのも大事だからな!うん、いっぱい食って、いっぱい寝るといい!」
グウウウ……。
その音に2人で笑って、荷物持ちの奴と一緒に部屋へ戻った。
「昼飯は?」
「ま、まだっす。でででも、買って来たんで、大丈夫っす。」
「何買った。」
「麻婆豆腐と白米とツナマヨサラダと唐揚げです。」
「アホか!白米はいいとして、まあ、なんでもいいとして、バランス…、野菜食えよ。ったく。どうせ俺も食うから。ったく、焼きそばな。」
俺の3食分が1日で…。
「自分、焼きそば大好きっす!」
なんでも好きって言いそうだと思ったが、俺はそのまだ見慣れたとは言えない顔に、言わずにおいた。
「さてと、、…これ、破いてここに入れて。並べたら動かすなよ。」
「ハイっす!」
俺はまず、麺を平たいフライパンに入れさせた。
両面焼き目を付けて、少しずつほぐすのが俺流だ。
1番大きなフライパンに、サッと下味を付けた肉を入れる。
キャベツともやしと玉ねぎを一人の時の倍の量入れれば、もうフライパンはパンパン。
麺が少ないから、エノキでカサ増しした。
味が薄くなったら、ウスターソースで誤魔化せばいい。
奴はそれを物珍しそうに後ろから見ている。
「あ、あんまり見んなよ…。」
「あ、す、すいません、つい…。」
耳が赤いのが自分でも分かる。
麺が焼ける良い匂いがしてきた。
「いい匂いっす。」
奴の腹がグウグウと催促してくる。
「先に、それ食っとけば?これ、食えなかったら夜でもいいし。」
「これだけじゃ、どっちにしろ足りないっす。」
「まあ、あんまし中身のねえ食いもんだからな。夜は鶏胸肉のなんかと、豚汁だ。」
「豪華っす!!」
奴は、その言葉通り、全部平らげた。
「あの、ご馳走様でした。俺、寝て、走って、んで、シャワー浴びて、ここくんの、大体17:00ぐらいでどうっすか?」
シャワー…、
「あ、ああ、いいぜ。気を付けてな。」
「はい、行ってきます!」
「い、いって、らっしゃい、、」
行ってきますって…。
俺は家族かよ!
ああ、もう、仕方ねえな!!
よし、まず、下味付けねえと。
アイツ、今日も酒飲むか?いや、この際飲ませるか。
酒は買ってある、よし、2本あるな。
17:00か。
それまでに、下味と、下茹でと、下準備…。
早めに飯食って飲んで…、いやいや、昨日の今日じゃ…、いや、でも一応な。
気合いを入れて、胸肉に紹興酒と塩で下味を付ける。
お湯を沸かしている間に野菜を刻む。
ニンニクをいつもより多めに刻む自分に、顔が赤らむのを無視して、唐辛子とニンニクとネギをごま油に入れて香りを出す。
醤油にそれを突っ込んで酢を少しだけ入れて…。
うん、旨い。
野菜は水を良く切って、冷蔵庫へ。
胸肉を茹でたスープに切った根菜を入れて煮込み、ネギと豆腐を切っておいて、豚コマをこの際多めに入れてやるか、と全部入れた。
ヤバい…、多すぎるか?
鳥の中華風ソテーと茹で鶏のサラダ。
煮干しと昆布と鳥出汁の豚汁。
そこにもここにも鶏胸…。
そうだ、こっちは辛めにしようと、ソテーに豆板醤を足した。
買ってきた物の下拵えをしておいて、平日のメニューを組み立てる。
麻婆豆腐が好きらしい。
挽肉は冷凍のがまだあるな、豆腐は沢山買ってきた。
それと、まだ寒いから汁もんは必須だ。
出来ればタンパク質は朝に取らせたいが、だと、納豆に鳥そぼろ、豆腐の味噌汁、高野豆腐も良いな。
魚もそぼろにしてやるか。
ああ、もう16:00、シャワーだ、急げ…。
いや、俺、別にアイツの事好きな訳じゃねえし!
オナニーの延長線、そうだ、それだ!!
そう思いながらいつもより綺麗に洗って、良くほぐしておく。
昨日の今日だ。
そこはもうすんなりとほぐれた。
歯を磨いて、口臭をチェックした。
ああ、マジで拒まれたらどうすりゃいいんだ。
酒に酔った振りしてなんかすりゃ、またいけっかな。
ああ、待てねえ!!
ーーーーーーーーー
いい匂いが漏れて来る部屋をノックする。
出迎えてくれた人は、更にいい匂いをさせていた。
「まだできねえから、そこらで懸垂でもしてな。」
「見てたいです。」
何かを作っている後ろ姿が、バックでガンガン突いた時の姿と重なるのだ。
焼そばを焼いてる時も、少し勃ってしまっていた。
あれから俺は瞑想して、ランニングして、シャワーを入念に浴びて、17:00キッカリにマサさんの部屋のドアを叩いた。
マサさんは仕上げだ、と言って豚汁に味噌を入れていた。
「あ?あんまり面白くもねえだろ?」
「て、手伝いますよ。」
「じゃ、これにこれ付けて、そこで焼いてくれる?」
「じ、自分、できますかね。」
こうやって、こう付けて、フライパンに…、、
俺の目の前で、シャンプーと旨そうな匂いをさせて…。
ああ、ヤバい。
「分かった?」
「は、はい!」
全く頭に入りませんでした。
取り敢えず、これを付けて焼けばいいらしい。
いい匂い…。
グウウウ…、、。
「ホンット、お前、素直だな!ハハハ!」
「腹減ったんすよ。もう我慢できません。」
色々と、我慢出来ません…。
「じゃ、味見な?」
鍋にいっぱいのタンパク豚汁に豆腐とネギを入れていたマサさんが、こっちをチラリと見て、笑った。
ああ…、もう、ホント、我慢出来ません…。
「熱いからな?」
少しだけスープを注がれた小皿は、さっきマサさんが味見した物だ。
俺は手が塞がっていてるのを見て、マサさんは少し困った顔をして、そして、唇に小皿が当てられた。
瞬間。
「旨いっす!!」
食欲が、性欲を凌駕した。
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