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第2話

「何これ、なんか入ってた。」 「卵の殻じゃねえの?」 「いや、なんか、糸…、、ヴッ、ヴエエエ!!」 小さな髪の毛の塊。 それは俺の世界を容易に変えた。 それからよく噛むようになった。 噛みきれない物があると吐き気がするようになった。 母親が作った物しか食べなくなったのは、すぐだった。 でも、その頃はまだ良かったんだ。 外食出来ていたから。 けど、一人暮らしを始めて、ファミレスで店員が注文してないものまで持ってくるようになった時、ザワリと身の毛がよだった。 何かで見た不衛生な工場。 据え置きの調味料に何かをする迷惑でイタズラな客。 口紅の残ったお冷のグラス。 外食も、買い食いも、気持ち悪くなった。 それだけじゃ無い。 目の前の女の体から匂う、メンチカツみたいな匂い。 そうして20歳にして、俺は女に勃たなくなった。 だが、性欲はさすが三大欲求のひとつだ。 俺の行き場を失った性欲は、自慰という方面に発散を求めた。 ーーーーーーーーーーーー 鍋は最高に旨かった。 日本酒が飲みたいと思ってたら、貰ったのがあるよと、出してくれた。 「最高旨いっす!!」 「そう?良かったね。」 素っ気なくしてるらしいけど、鼻の穴が膨らんでる。 「自分で作るんすね。すごいっす。」 「俺、人が作ったの食えねえんだ。」 「え?なんで?」 「昔、手作りのなんかの中に髪の毛の塊入っててさ。そっから。」 「うわあ、マサさんカッコいいから、そういうのいっぱいありそうっすもんね。」 「かなりね。」 「外食すれば?」 「外食も無理。」 「ええ?ラーメンとかも?」 「汚ねえとこで作ってんの見てから無理。それと、なんか調味料とか悪さする奴いるし、食器だってちゃんと洗ってねえかも。」 「ああ、成程ね、潔癖なんすね。」 「け、潔癖とか、そ、そういう、訳じゃ…。」 「え?別に良くないっすか?誰にも迷惑かけてねえし、清潔だし。俺は好きっすよ?」 「………、あ、ありがとう。」 「この鳥肉ウマ!!骨付きで最高ワイルドっすね!酒進むっす!いっつもこんなの食ってんすか?」 「ま、まあな。ほ、骨から出汁が出んだよ。鶏肉は絶対骨付きに限る!」 「この絶妙な、なんだろ、とにかく、旨いっす!」 「まあ、たまになら、食いに来てもいいぜ。その代わり、絶対誰にも言うなよ!」 「マジっすか!うわ、最高っすね!言いませんって。」 「良く食うな、なんか運動してんの?もっと食う?」 「柔道っす!食いたいっす!」 「どおりでデカいし、ったく、ホント良く食うな、待ってろ!」 「旨いっす!」 奴の手放しの賛辞に、気を許した俺が、馬鹿だった。 酒は段々と嵩を減らし、奴が熱いと言って脱ぎ出した。 上着を着てても分かる程の筋肉は、インナーしか着て無かったら更に見事に見えた。 「すげぇ筋肉!何食ってんだよ。ちょっとボディビルやってみろよ。」 「俺、筋肉しか自慢無いんで!女には引かれますけど…。」 「まあまあ、いいじゃねえの。女なんて臭えし、めんどくせぇし、俺は断然オナニーだね!」 そんな話になって、 「お前ソッチもデカそうだな!ディルドとどっちがデカいか勃ててみろよ。」 と言ったのが不味かったのかもしれない。 「ええー、と、その、多分、デカいっす…。あっ、ダメっすよ、ダメだったら…。」 モジモジする奴を揶揄いたくなったのも悪かった。 金曜日だからと、食ったらすぐにオナニーできるようにシャワーでちゃんと中も洗って、潤滑剤も入れておいたのも悪かった。 「仲間内で誰が一番デカいかとか、むけてるとかむけてないとか、AV女優は誰が好きとか、よくやるだろ?ほら、出せよ!」 飲み過ぎたんだ。 飲み過ぎて、一夜の過ちをおかしたんだ。 途中から奴の目の色が変わった事には、気が付かなかった。 ーーーーーーーーー 朝起きると、男前な顔が目の前にあった。 ………ああ、俺…。 マサさん、、ごめんなさい。 あんな事や、こんな事をしてしまった…。 ああ……でも、 ハァ……… スッゴイ良かった…、、。 目を閉じて、昨夜のアレコレを思い出す。 朝の生理現象と相まって、勃つのは仕方がない。 ああ………、、もっかい、したい…。 そんな事を考えていると、隣で目覚める気配がした。 俺は寝たふりをする。 「……あうっ、、ってえ…、、ハァ…、、、。」 マサさんは大きな溜め息を吐いて、どこかへ行った。 じっとしていると、カタコト、トントン…と音がしてきた。 いい匂いがする。 「……、……、、。」 でも、どんな顔で会えば…。 グウウウ…。 体は、とても正直だ。 「あ、あの、お、おはよう、ございます…。と、トイレ、お借りします。」 「お、おはよ。ど、どうぞ…。」 グウウウ…、、。 「あの、メシ、つ、作ったから…、く、食う時、食えば…?」 「い、頂き、ます。」 キッチンにはギクシャクな空気と、いい匂いが充満していた。 「何か、手伝うっすか?」 グウウウ…。 「もう、出来るよ。い、いっぱい作ったから、、あの、食べる時、いっぱい食べていいよ。」 「うわあ、まともな朝飯、久しぶりっす!イタダキマス!!」 味噌汁を飲んで、目玉焼きを食い、白い飯を頬張る。 ウィンナーをバクリと食い、緑の何かの何かあえらしいものを食って、白い飯を食べて、味噌汁を飲んで…。 「ハァ、、ほんと、よく食うなあ。二日酔いとか無いの?」 「ああ、なんかちょっとだるいっす。でも、腹減ったんで。」 「ハァ…、、味噌汁ウマ…。しみる…。」 マサさんはちょっぴりのご飯と、味噌汁をゆっくり食べている。 少し恥ずかしくなって、取り敢えず、口の中の物を飲み込んだ。 「そんなに旨い?」 「旨いっす!マジ旨いっす!」 「卵、あと3個あるけど、食う?」 「食いたいっす!!」 「ったく、、仕方ねえなぁ。」 マサさんは、ツンデレだ。 でも昨日は素直で可愛いかった。 ーーーーーーーーー 飯を食ってする事も無ければ、帰るのは当たり前だ。 「き、昨日、ご、ごめん…、な、なんか、飲み過ぎたんだ、ほんと、ごめん。でも、俺、ホント、そっちじゃないから…。」 「いえ、自分こそ、すいません。酔っちゃって…ま、間違いました、すいませんでした!」 奴に謝られた。 なんだか、惨めな気分になった。 あんなに何度も何度も中出しした癖に、間違いましただと?! と詰め寄りたいのを、我慢する。 「あの、体、大丈夫っすか?自分、この上なんで、何か、あったら、あの、これ、携帯とLIME…。 あと、飯とか、余ったら…、自分、なんでも食うんで、あの…。」 「余ったらって、犬じゃねえんだから。食いたい時、連絡寄越せばいいだろ。」 「っ…、、食いたい時って、大体いっつも食いたいっす。」 「成長期か!」 「いや、食わないと、勝てないんで。」 ああ、成程…。 コイツの『食う』事は、『勝つ』事なんだ。 逆光もあったからだろうけど、急に奴が眩しく見えた。 きっと、柔道ばっかりやって来たんだろう。 真っ直ぐな、いい奴なのかもしれない。 「いいか、勝ちてえならあんまし中身ねえもん食うなよ。鶏胸肉とか、卵とか、豆腐とか魚とかそういうのちゃんと食うんだぞ?」 「ちゃんと、コンビニで唐揚げとかオムライスとか麻婆豆腐とか白身魚フライバーガーも食ってます!」 「ああ??馬鹿か!ったく、そんなもん…、ったく…、、いいぜ、飯くらい。たまにだぞ、たまに!!」 「いいんすか?マジ嬉しいっす!!」 あんまり嬉しそうな顔にこちらまで口元が緩んで、それを隠す為に意地悪な顔をした。 「買い出しの荷物持ち、やってくれんだろ?」 「そんな事ぐらい、なんでも無いっす!あ、時間、後でいいっすか?練習行ってきます!」 「お、おう、練習頑張れよ!」 「あんな飯わせて貰って、負ける気しねえっす!」 奴はそう言って走って行った。 ああ、くそう!! 昨日は確かに飲み過ぎたし、やり過ぎた。 思ったよりもデカいブツを見て、悪戯心を湧かせた俺が扱いたりしなけりゃ、こんな事には…。 ああ、くそう……、、  良かった…。 オナニーより、ずっと良かった……。 変な匂いもしねえし、いや、シャワーとかよく浴びんだろうな、石鹸のいい匂いだった。 ああ…、、いい奴だったし…。 俺、この先、どうすりゃいいんだよ…。

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