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第一章 出逢い(6)

 柳澤は七三分けに髪を撫でつけたいかにも律儀を体現したような男で、37歳という年齢よりも高く見える。柳澤がプライバシー・スイートボタンを操作すると、運転席と後部座席の間が仕切られた。透明ガラスだったはずなのに瞬時に白色に切り替る。如何にも遮断された感満載もさることながら、なぜこんなことになっているのかと上条は居た堪れなかった。平然として事を再開する月城は、大胆にもスラックスの上から股間に手を這わせてきた。怒りに満ちた上条は、二度目のビンタを喰らわせようと手を振りあげる。その手をすんなりと掴まれ阻まれただけでなく、掴まれた腕に圧が加わり「うッ……」と呻くしかない。 ――なんだこの馬鹿力は。 「ううッ……ああ……や……」 「もう感じているのか?――随分とはしたないな」 「か……感じてる……と……あなた……に掴まれ……腕が……痛いだ……」    余裕をなくし上条の言葉は乱暴になる。腕を離さず、月城は布越しに股間を揉み始めた。 「は、離せ……」    行為そのものも腹立たしいが、今の状況に陥っている己の不甲斐なさに涙が滲んだ。月城の腕さえも振り解けずに女のように組み敷かれている姿が、己だなんて男としての矜持が許さない。  握られた腕の力が緩んだのを感じて、上条は月城を見上げる。 ――ドクッと心臓の音がした。 ――いつから? 月城の視線とぶつかり、見つけめられていたことに焦った。    月城がフッと微かに笑ったのは気のせいだろうか。手が離れ、安堵した上条が上体を起こしかけたとき、(おもむろ)(おとがい)を掴み濃厚なキスを仕掛けてきた。先刻よりも舌の動きが絶妙で脳髄が溶けそうだ。逃げる舌を追い、絡め取っては強く吸われる。わざと湿った水音を聞かせるように音を立て上条の官能を高めていく。次第に鼻にかかった声が漏れた。堂本に無理やり強要されたキスとは異なり、官能を帯びた甘い口づけに酔ってしまいそうだった。 「あぁ……ん……」  上条は心地良い痺れに、もう僅かで陥落しそうになりながらも内心葛藤し体を若干強ばらせる。その心情を見透かしたように月城は口許を綻ばせて、再び口腔を蹂躙し続けた。

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