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第二章 駆け引き(1)

 山を削って建てたセントジョージア病院は、山道を含む全てが私有地であり、病院への目的以外に訪れる者は滅多にない。山道も舗装されているため道幅も広く、病院の敷地までの間も緩やかな斜面が続いており、対向車との行き違いや救急車両を走らせることに問題はなかった。  時刻は夜の10時を回っていた。消灯を過ぎていたが、1階の玄関付近と2階のいくつかの窓から灯りが漏れている。2台の車を病院のエントランスに乗り付け、正面玄関の自動扉を潜ったときだった。玄関先のロビーの柱の影から数人の男が狙撃してきた。チャコールグレーの迷彩柄を上下に着込み、腰には銃や短剣などを装備した武装集団だった。BMWに乗り合わせた黒服の部下2名が、月城の手をかざすしたのを合図に玄関から一階ロビーへと駆け込んだ。待合の長椅子の背もたれや中央に設置された巨大水槽の影に隠れるなどして、暫く銃の応戦が続いた。1人また1人と倒れていく背後を月城等に従い上条はついていくしかない。撃たれて倒れた男を見た瞬間、上条は駆け寄り頸部動脈へ自然に触れていた。脈が打っているのを確認すると息を吐いた。 「何をしている?」 「見ればわかるでしょう! 俺は医師だ。目の前で殺される人を見過ごすわけにはいかない。あなた方がどんな人だろうと俺には関係ない」 「なるほど……いいだろう、それがおまえの矜持というなら。だが、命があってこそだろ」  月城が上条の胸ぐらを掴み引き寄せた瞬間、(たま)が上条の少し長くなった後ろ髪をかすめて(はじ)き飛んだ。胸に上条を抱き込んだまま月城の右手の銃が、3メートル離れた階段の踊り場で待機していた男を打ち返した。右肩と大腿部を連射し、相手の動きを封じるのに確実な部位に命中した。 「おい、死にたいのか?――死にたくないなら妙な動きをするな! おまえの動き一つでボスの命を危うくするんだ。気をつけろ!」

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