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第二章 駆け引き(3)

 伊集院は押し黙り、いつの間にか挑戦的な笑みが消えていた。 「分からない。呂律が回ってないのは自演ではないようだけど、記憶が曖昧になり認知の低下というのは疑問を感じる。このことは奴等には話してない情報ですよ」 「あんたが親切に情報を流すはずがない!――何企んでやがる?」  藤堂は伊集院の利き腕を後ろへねじ上げた。クッと呻くが、伊集院も並みの医師ではない。裏取引きをして大きくした病院なのだから、相当数の修羅場を踏んできたに違いない。苦痛に歪む顔さえも色気があり、藤堂は内心ため息をついた。 「月城様には恩があるんですよ。だから裏切るなんて、できない!――月城家の御曹司の座を捨てたと噂が広まったころ、イタリアマフィアと中国の密輸シンジケートが執拗に追う宝を、西田が握っているという情報が漏れてきた。初めはデマだと思っていたんですが、それから間もなく西田が脳卒中で倒れて都立中央病院に運び込まれた。そこの堂本外科部長は以前から医療機器の癒着が問題視されて、金作が尽きたところへカジノに出入りするようになり多額の借金ができた。カジノは月城様が経営者だ。あの方は必ず金を回収する人だから、ピンときたんですよ。宝は本物なんだと。――それに、今回の西田の手術の執刀するべき医師の情報を出したのは、僕です。なるべくなら、月城様に逢わせたくはなかったんですけどね。――上条()、美人ですから」 「そこまでにしておけ!――ベラベラ喋る人間は長生きできねぇぜ。恩があるというのは信じてもいいが、情報元は誰からだ?」  藤堂はねじ上げた腕の力を緩めることなく、拳銃を伊集院の頬に突き付けた。 「自慢の顔が無残な姿になっていいのか? さっさとゲロしちまえよ」    容姿に自信のあるやつほど、命よりも優先するべきものは知れている。 「セントジョージア(この)病院を建てるのにどれだけの費用がいり、土地の確保だけで名前を憚る人の尽力に縋ったか……藤堂さんが月城様の部下でも話せないこともありますよ。その方々の情報といえば、大方の見当がつくでしょう」 「なるほど、あんたはその野郎等のおもちゃってわけだ。――病院だけでなく、高級男娼の斡旋もしているという噂は、ほんとうのようだな。寝物語に吐いた情報に、どれだけ信用性があるのか疑問だがな。――セントジョージア(この)病院を占拠している奴等のうち大隈組が関わっているということは、ボスの実家の総帥が糸を引いているということなのか?」

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