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第二章 駆け引き(4)

伊集院は固く口を閉ざして藤堂を睨んだ。それ以上の情報は漏らさない姿勢を貫いた。伊集院も裏社会と関わり長く生きてきた人間なだけに、命が惜しいというだけでなく、暗黙のルールを守りたいのもあった。   「た、大変だ!――西田が倒れた! おい医師を呼べ!」    2階の奥で男が叫び、慌ただしく行き来する足音と怒鳴り声が、夜の静まり返ったフロアーに響き渡った。その騒ぎに1階にいた月城等も駆けつけてきた。伊集院は長い廊下の先にある、HCU(高度治療室)へとへ駆け出して、その背中を皆が追った。上条の足も自然と向かう。 「どいてくれ!――医療関係者以外は出てくれ!」    伊集院が声張り上げHCU(高度治療室)のドアを開いた。武装集団の仲間で(いか)つい顔をした強面の連中3名が占拠し、西田のベッド周辺を緊張した看護師等がバイタルを取ったりと慌ただしく動いていた。  白衣の背後から現れた月城と武装集団等との間に、一瞬張り詰めた空気が流れる。だが月城の傍に立つ上条に気づいた男たちは、西田の手術を執刀する医師だと了解したのか、暴れることはなかった。月城以外の関係のない者は室内から出された。男たちも例外ではなく、西田のいる病室から離れることに戸惑いをみせたものの、結局は従って廊下へと出た。  西田はベッドの上で白目をむいて口から泡を吹いている状態だった。聴診器を胸に当てながら西田の名を呼ぶ。診察を途中で中断した伊集院は、上条へ意味深な視線を向けた。 「これは上条医師(せんせい)に診てもらうべき分野ですね。(みさき)、オペ室へ連絡をして! 直ぐに手術になるかもしれないと、他の看護師も準備を手伝って!」  室内にいた大学を出たばかりの若い青年の岬看護師と他3名がオペ室へと出ていって、伊集院と上条の2人の医師と月城が残った。上条が西田の診察を始めて数分と経たないうちに目を微かに細める。そして、いきなり西田の乳頭を摘み上げたとたん、西田は小さな呻き声を漏らし顔を顰めた。 「西田さん、その状態をキープするには困難でしょう。伊集院医師(せんせい)も人が悪い」  西田はバツが悪いのか、しきりに頭を搔いた。脈も呼吸も安定しており、瞳孔不同も見られず、不審に思ったが意識レベルを調べるべく乳頭刺激を行ったのだ。  月城は驚いた様子もなく、ベッドに横たわる西田の顔へ近づいた。 「死にたいのか? 私は何もおまえの情報が必ずしも欲しいわけではない。おまえの口を封じれば目的は達成する。吐くか、死ぬか決めろ! 5分だけ待ってやる」

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