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第二章 駆け引き(5)

 耳元で話す月城の抑揚のない声に、西田の顔色が変わる。 「わ、分かった話すから……前に話した条件が今も有効なら、家族を助けてほしい。それと俺の手術を成功させてくれと頼んだことは、もういい……。脳底動脈分岐部にあるだけならともかく、俺の血管は奇形で難しいと聞いた。死ぬんだったら、せめて家族だけでも……」    苦痛に歪む西田の表情からは、先程の自演するような余裕は感じられなかった。医師として聞き逃すことができず、上条は口を挟んだ。 「諦めるのは待ってください! 確かに簡単な手術ではありませんが、バイパス手術の必要性があるのかもわからないのに。一番に大切なことは、あなた自身の生きたいという気持ちですよ」 「上条医師(せんせい)は脳外科医として腕のある医師だ。西田さん、彼を信じて手術を受けてはどうですか? 受けるのなら早いほうがいい。未破裂だが動脈瘤は大きくなっている。いつ破裂してもおかしくはない。それに今の状況を考えると、奴等は西田さんの情報が欲しいわけだから、手術が終り病状が安定するまでは手を出してこないはず。その間に逃る算段をしましょう。それは僕が……いえ、月城様の部下の方たちと共にお引き受けしますよ」  背後からの視線に汗が噴出しそうになるが、いったことは間違ってもないだろうと伊集院は平静を装う。腕組みをして西田を捉えた月城の眼光は、殺しかねない鋭いものだった。 「奴等と手を組めば家族は殺されずにすむ。どうして私と手を組みたがる?」 「俺はあんたを知っている。俺も戦闘兵として養成された過去がある。あんたは、必ず約束を守る男だ。俺の友人はあんたに救われた。――それに、を、あんたなら奴等のように使わないだろうからな」  月城の過去に戦闘兵がどう結びつくのか、二人の医師は全く理解できない情報だったが、西田との接点があったことに驚きを隠せなかった。西田の返答は月城の心を動かしたようで彼に耳打ちし、二人以外に聞こえない会話が続いた。  突然、伊集院の白衣のポケットにあるスマートフォンが鳴り、二人の会話は途切れた。伊集院も二言三言話しをして通話を終えた。

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