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第二章 駆け引き(6)

「オペ室の準備が整ったそうです。上条文医師(せんせい)、執刀をお願いできますか? 明日の午前中を予定していたのですが、状況がよろしくないので」    上条は伊集院の意図を汲み取り頷いた。西田の動脈瘤は既に手術を必要としている大きさ以上に膨れ上がり、いつ破裂してもおかしくない状況を踏まえれば緊急手術もやむ得ない。しかも西田は緊張を強いられている、なおさらストレスから病状が悪化しやすく、最悪の場合も想定できた。  ストレッチャーに乗せた西田を伴いオペ室へ運ぶため、HCU(高度治療室)のドアを開けた。廊下はすっかり異様な空気に包まれていた。  月城の部下等と武装集団、その手下である大隈組の暴力団等が睨み合っていたのだ。 「そこを通してください! 予断ならない状況なので直ぐに手術を開始します」  伊集院は大袈裟にいってみせたが、あながち外れてはいない。 「悪いが、それはできん!――たった今西田(そいつ)を殺すように命令がきた」  武装集団を率いる強面の男鬼龍(きりゅう)は、総帥から可愛がられている存在で、戦闘の腕もあるがライフル狙撃の名手でもあった。その鬼龍が荒い声を発した。鬼龍の部下や大隈組からも騒ぐ声が起こる。 「西田から情報を聞き出せてないのに?」 「みすみす10億の宝を捨てるのか」  様々な疑問の声が飛び交う中、有無を言わせない怒号が再び鬼龍の口から放たれた。 「やかましい! 俺の指示に従えない奴は前にでろ!」  壁にもたれかかり、腕組みをした月城の瞼が開いた。視界の片隅で注視していた鬼龍にも、緊張が走る。少し前までボスであった月城の下で働いていたのだから、月城が無駄な動きをしないことは熟知していた。部下が瀕死の状態に追いやられたというのに、鬼龍の中で何かが燻り続ける。――結果、月城を相手に戦闘することへ気後れしてしまう要因でもあった。 「月城(あなた)とこんな対面をする日が来るとは思ってもなかった。なぜ、月城家を捨てたのですか?――応えてもらっても今更ですがね。裏切ったのは、あなただ」  戦闘するだけの理由を述べたところで、状況は変わりはしない。分かってはいたが何も言わずには居れなかった。鬼龍の視線は月城から上条へと移り、増悪の含んだ目を隠すことなく見据えた。鬼龍の想いを知る藤堂と柳澤は、上条と鬼龍の間に立ちはだかる。 「そこをどけ!――元凶がここにいるじゃないか? 上条(あんた)は何も知らないだろ? なんで俺たちが敵対しているかってこと……」 「そこまでだ!」  月城の静かだが怒気を孕んだ声に、場が静まり返った。 「部下(俺等)よりも上条(情人)をとったということですか? あなたもただの男だったというわけだ。――けど、俺はあなたを殺したくはない。西田を諦めるか上条(情人)を取るか選んでください。どちらにしても総帥からのお叱りは免れないでしょうがね。俺の譲歩できるのはここまでです」  

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