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本気見せたるわ

 衝撃の告白から一夜明けて、今日は朝礼の日。なんだか、周囲がザワついている。  どよめきの先には、金髪じゃない場野くんが居た。僕を見つけて、ツカツカと歩み寄ってくる。 「おう。おはよ、結人」  昨日の一件もあり、僕と場野くんの親密な関係は、学校中の噂になっていた。 「場野くん、その頭どうしたの?」  昨日までの金髪が嘘みたいに、赤みがかった茶色で落ち着いた色だった。髪も少し切ったらしく、長めのツーブロでカッコイイ。僕には、絶対似合わない。 「お前が金髪嫌だつったんだろうが」 (結局染めてたら校則違反なんだけど、これはこれでカッコよくて腹立つな····) 「ん? えっ? 僕の所為?」 「違ぇよ。お前の所為じゃなくて、お前の為に····ん? お前に嫌われないように····だったら、俺の為か。まぁ、何でもいいわ」  ナチュラルに僕の為とか言われると、照れてしまうじゃないか。と、文句のひとつでも言ってやりたかったが、僕の後ろからにゅっと現れたりっくんに言葉を奪われた。 「おい、俺のゆいぴに挨拶すんなよ」 「あぁ? ガキかてめぇは」 「ガキで結構。アンタからゆいぴを護れるなら、何でもいいよ」 「お前、昨日までただの幼馴染だったんだろ? いきなりヤンデレストーカーかよ。お前の大事なゆいぴが困ってんだろ」  2人はジリジリと詰め寄り、額がくっつくくらい近づくと、威嚇しあったまま膠着した。 「ね、ねぇ! こんな所でやめてよ····」  僕は顔面の紅潮を抑えられず、泣く寸前でようやく頼んだ。 「おぉ、悪かったな」 「わぁぁ····ゆいぴ、ごめんね。泣かないでぇ」 「泣かないよ····。もういいから。朝礼もうすぐ始まるよ。静かにしてて」  進行役の先生の咳払いから、静かに朝礼が始まった。周囲からの痛い視線に耐え、終始俯きっぱなしで首がおかしくなってしまった。  その騒動以外は、案外静かに1日を終えることができた。と、思っていたが放課後、場野くんに捕まりお家に招待された。  家はヤクザ屋さんだって聞いていたけど、場野くんは高校入学を機に一人暮らしを始めたらしい。という事は、予想外の2人きり。  それを知ったからとて、家に入るのを拒めるわけでもなく、当たり前のようにベッドに座らされている。初めて見るキングサイズのベッドだ。 「何か飲む? 麦茶とココアならあるけど」 「じゃ、ココアお願いします」 「あいよ。······何緊張してんだよ」 「いや、2人きりだなぁと思って····」 「お? 何か期待してんの?」 「してないよ! まだ怖いの!」 「マジかぁ······」 「ブフォッ! だから、裏声やめてって······」 「だってお前、これだったら笑うだろ。ほい、ココア」 「あぁ······ありがと」  なんだ、場野くんて思ってたより怖い人じゃないんだ。僕はそう直感した。  が、それは勘違いだった。  ココアも冷めないうちに、ベッドに押し倒された。なんで? 僕が聞きたいよ。 「なぁ、ちょっとだけ触っていいか?」 「いや、これ絶対断れない雰囲気でしょ!?」  僕は思わず声を荒らげた。ムッとした表情で、僕の許しも得ず首筋に喰むようなキスを繰り返す。  服を捲って、腹や胸にもそういうキスを何度も何度も。時折、強く吸い付く。 「やぁっ····んっ······はぁんっ」 「お前、すげぇ敏感だな。その顔、めっちゃ可愛い。やべぇ····唆るわ」 「なっ、敏感じゃないし、可愛くもない!」 「ははは。そんな涙目で凄まれてもなぁ····煽るだけだわ」 「煽ってないぃぃ····」  ぐすぐすと、鼻をすする程度に泣けてきた。怖いやら情けないやら、僕は男としての尊厳を失くしたくなかった。  場野くんが、お構いなしに再び僕に吸いつこうとしたその時、僕のスマホが鳴った。 「待って、お母さんかもしれない」 「は? ······あぁ、早く出ろよ」  僕の焦った表情を見て、場野くんは退いてくれたようだった。  そして、電話はやはり母さんだった。 「──もしもし、どうしたの? ──うん、大丈夫だよ。すぐに帰るね」 「どしたん?」 「お母さんが調子悪くて。早く帰らなくちゃ」 「おい、お前大丈夫か?」 「うん。····大丈夫」  何度あっても、母さんからの呼び出しは慣れない。いつも慌ててしまう。最近は落ち着いていたから、余計に焦ってしまう。  そんな僕を見て、心配そうに腕を引いて立たせてくれた。 「送ってやるよ」  僕は、場野くんのバイクで家まで送ってもらった。 「ありがとう····えっと······」 「いいから。早く行ってやれよ。心配なんだろ?」 「····っ。本当にありがとう。また明日ね!」 「おう」  **  場野は、結人の安心して零れてしまった笑みを見て、かつてないほどのときめきを感じていた。 「アンタ、何してんの? バイクに跨って胸ぐら握りしめて、不審者なんだけど」 「うわ。お前、やっぱストーカーかよ」 「あのね、俺ん家すぐそこなの。アンタこそ何? 家まで探りに来たの?」 「違ぇよ。あいつの母さん、調子悪いって電話あったから送ってきたんだよ」  莉久は、隠しもせず不機嫌な表情を見せた。 「ゆいぴのお母さん病気で、ゆいぴの呼び出しなんてしょっちゅうだよ」 「知ってるよ」 「······なんで?」 「知ってるから」 「こっわ····」 「お前より結人に本気なんだよ。長ぇ間、影から見てるだけの意気地無しは黙って引っ込んでろ」 「はぁ!? 誰が意気地無しだって?」 「意気地無しなうえに、女で誤魔化すような奴が、結人に手ぇ出すんじゃねぇよ」 「どの口が言ってんだよ。アンタだって──」  2人が歩きながら揉めていると、結人のクラスメイトの大畠に出くわした。 「あっれー? 場野と莉久じゃん。珍しい組み合わせだなぁ。お前ら仲良かったっけ?」 「「良くねーよ!」」 「見事にハモってんな。やっぱ仲良いじゃん」 「つーか、お前誰だよ」 「「えー······」」 「同じクラスの大畠だよ。大畠啓吾(けいご)。割かし武居と仲良いほうだぜ」 「あぁ、そういや居たな」 「ひっでぇ····。で、お前ら何してんの? 武居ん家の帰り?」 「俺はな」 「俺は家に帰る途中。コイツに会っただけ」 「で、武居の事で言い争ってた····ってトコか」 「まぁ、そんな感じだな。このストーカーしつこくって」 「誰がストーカーだよ。お前こそ、ゆいぴへの執着が、キモイを通り越して怖いんだよ」 「はいはい、喧嘩はやめなさいって。2人がそんなだと、渦中の武居が困るでしょ?」 「「まぁ····」」 「よし。ここは····ゆいぴの為と思って、停戦だ」 「勝手にやってろ。俺はお前と戦ってるつもりはねぇよ。結人は俺のだしな。じゃぁな」  場野はバイクに跨ると、颯爽と走り去ってしまった。 「場野····、てかお前らよ。マジで武居とデキてんの?」 「ん? まぁ、俺はずっと片想いだよ。女の子はカモフラージュってやつね。場野は····お試し恋人ごっこ中みたいだね」 「聞いといてなんだけどさ、それそんなサラッと俺に言って良かったの?」 「いいんじゃない? 啓吾バカだし····あ、だからマズイのか」 「おいおい。しれっとディスってんじゃねぇよ」  莉久と大畠は、そのままくだらないやり取りをしながら、それぞれの帰路についたのだった。

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