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大畠くんはバカだけど優しい良い奴
今朝、場野くんがバイクで迎えに来てくれた。否応なしに、後ろに乗せられて登校する。
正門前で鳴り響く重低音。校舎の窓から覗く生徒や先生たち。集めてしまった視線に、優等生としての終わりを感じた。結果、当然の事ながら放課後、生徒指導室に来いと担任に凄まれた。
テンションが下がった事も勿論だが、関わるのが面倒になったので、場野くんとりっくんを一日中避け続けた。
優等生の僕が、バイクで登校する日がくるなんて····。もう、優等生と自負するのはやめよう。
そう心に決め生徒指導室から出てきたところを、場野くんに捕まってしまった。そしてまた、理科準備室に連れ込まれてしまった。
やはり僕は、もう悪の道に進みかけているんだ。
場野くんはソファに腰を下ろすと、当たり前のように僕を対面で膝に乗せる。
頬に唇を這わせながら話すのは、内容が頭に入ってこないからやめてほしいのだけど····。
「帰りも送ってやるからな。あー····もう毎日送り迎えするわ」
「んっ····送り迎え? ····って、バイクで?」
「当然だろ」
「あのね、場野くん。当然じゃないんだよ」
「バイクで来たんだから、バイクで帰るに決まってんだろ」
「そういう事じゃないの。昨日送ってくれた事は、本当に感謝してるよ。けどね──」
「おう。お母さん、大丈夫だったんか?」
「なんだか、場野くんにお母さんって呼ばれるの複雑だな····。まぁ、薬飲ませたら、すぐ落ち着いたから大丈夫だったよ。それは、本当にありがとね。けどもうね、朝、その····バイクで迎えに来ないでほしいんだ」
「なんでだよ。バイクで走んの気持ちいいだろ」
「うん。風を切って走るのって、凄く気持ち良いんだね。初めはちょっと怖かったけど、慣れると凄く楽しかった」
(バイク運転してる場野くんがカッコ良かった、なんて言ってあげないけど)
「だろ? 俺、バイクぐらいしか興味なかったから、お前にわかってもらえんのすげぇ嬉しいわ」
(うぅっ····笑顔が眩しい)
「けどね、僕、先生に呼び出されたんだよ。で、1時間もお説教くらったの。僕だけ。理不尽でしょ? だからね、バイクで登校するのは、もうダメだよ」
「なんでお前だけ言われんだよ」
「あー、それは······ねぇ」
「あ? 俺ん家か。よし、シメてくるわ」
僕を優しく膝から下ろすと、勢い良く立ち上がった。そして、無鉄砲に駆け出そうとした場野くんを、必死で抱き止めた。
「そういうトコだよ!」
「うおっ。お前····それヤバイって。可愛すぎんぞ」
「なんでそうなるの!」
「弱っちぃんだよ。これで止めたつもりかよ」
「僕だって鍛えればもっとムキムキになるよ!」
「ははっ。無理だろ。お前は一生このままでいろよ。俺が守ってやるから」
「自分の身くらい自分で守るもん!」
「もんって······無理だな。なぁ、結人····」
振り返ったかと思えば、片腕を掴まれ、グイッと腰を抱き寄せられた。
急に真面目な顔で、真っ直ぐに見つめられると困る。思わず目を逸らしてしまった。
「ふはっ。簡単に真っ赤になんだな。チョロすぎんぞ」
「だって····こんな近くで真っ直ぐに見られたら、誰だって····」
唇が触れるか触れないか、だけど熱を感じる程の距離。おデコとおデコをくっつけて、まつ毛が触れてしまいそうだ。
「誰にでも、こんな真っ赤になんの?」
「な、なるでしょ。こんなの、誰だって真っ赤になるものでしょ····」
「俺はなんねぇけど」
「慣れてるからでしょ? 僕は慣れてないの····」
「お前が慣れてねぇのは嬉しいな」
「ねぇ、とにかく離れてよ。そろそろ帰りたいんだけど······」
掴まれている手を振りほどこうとしたが、ビクともしない。さらに腰を引き寄せられ、下半身が触れ合う。そして、わざわざ耳元に口を寄せ、甘い声で話す。
「俺、慣れてねぇよ? こんなんすんの、お前が初めてだから」
「えっ!? 毎日違う女を侍らせて····」
「お前、ことごとく雰囲気ぶち壊すのな。あー····まぁ、そんな噂もあったな。俺が100対1で勝っただの、人殺した事があるだの、実はもう組長だのって。色々言われてんのは知ってる」
場野くんは、まことしやかに囁かれている噂を並べ立てた。が、どれも現実味がないとは思っていたものだ。
「どれも違うんだよね?」
場野くんと関わるようになって、イメージしていた“悪の権化”みたいな感じの人ではないとはわかっていた。けど、女性関係は別だ。きっと、凄くモテるだろうし····。
「事実無根だ。誰がゴリラだよってな。····俺は本気で好きな奴にしか構わねぇよ」
場野くんの手が僕の頬を包み、優しくキスされた。
「んっ······」
次第に、舌が僕の口内を犯し始める。そう言えば、場野くんのキスの味がタバコ味じゃなくなっている。ミントかな? 少し辛い。
「ふぅっ、んっ、あっ····」
耳を柔らかく弄られて、どこに集中すればいいのかわからない。段々、息が苦しくなって、弱々しく場野くんの胸を押した。
「んんんっ····んー····」
酸欠なのか、ぼーっとしてふわふわする。
「あんっ····やぁっ、そこ気持ちいぃ····」
いつの間にか、シャツに手を突っ込まれていて、指先で乳首を弄ばれていた。
「お前、マジで敏感すぎねぇ?」
「び、敏感じゃないよぉ····」
「これで敏感じゃないわけねぇだろ」
ガタンッ──
僕達は突然の物音に驚き、慌てて隣の理科室を見る。
場野くんが苛立ちを抑え、そっと覗き見るように偵察した。すると、準備室の扉から跳ね退 いたような位置に、赤面して立ち尽くす大畠くんが居た。
場野くんが「チッ····邪魔ばっか入んな。早く犯し潰してぇのに」と呟き、玉がキュンと縮こまった。ツッコむとヤバそうなので、聞こえなかった事にしておこう。
大きなため息をつき、場野くんが扉を開けて声を掛けた。
「何やってんの? てか、見た?」
「忘れ物探しに来たらエロい声が聞こえて····み、見ちゃった。えへっ」
場野くんのこめかみに青筋が走る。
「見てんじゃねぇよ。邪魔してんじゃねぇよ。 つーか、結人の(可愛い)声も顔も忘れろ。無理だとか吐 かしやがったら、俺が手伝ってやんぜ?」
何か含みがあるように聞こえた。で、何をどう手伝うんだろうか。
「わ、忘れました! 今、キレーに忘れた。大丈夫! 武居の····」
青ざめた顔からまた赤面した大畠くんは、股間も熱くしてしまったようだ。慌てて手で押さえ、場野くんの様子を窺った。
「おい、何だよそれ」
「いやー····これはそのー····勃ったみたい?」
「てめぇ····死にてぇの?」
「いや、しょーがないだろ!? あんな可愛いの、もはや女子じゃん! えっちの現場に出くわしたみたいなもんじゃん! 健全な男子高生なら勃つだろ!? 生理現象だよ! ましてや、あんな可愛いの!」
大畠くんは逆ギレしながら、可愛いと2回言った。彼らの目は腐っているのだろうか。もしくは、脳が溶けているのだろうか。
「てめぇの言い分もわかるけどな、アレを知ってていいのは俺だけだ。忘れろ。あと、アイツで抜いたら殺す」
「それって俺の脳内だから、言わなかったらわかんなくね?」
「するんだな?」
「しない! しないから! まだ死にたくないよ〜」
「ならいい。邪魔だ。帰れ」
「いや待てよ。お前ら学校はマズイって。武居泣きそうじゃん? なに、無理矢理なの?」
「合意に決まってんだろ。アイツ、キャパ超えたらああなんだよ」
「何それ可愛い~····」
「······殺す」
「待て待て、お前が勝手に言ったんだかんね? 俺、悪くなくない?」
「まぁ、そうだな。今のはナシだ。今のも忘れろ」
「滅茶苦茶言うねぇ····。もしかしてさ、場野ってアホだろ」
大畠くんはにやっと笑い、したり顔で聞いた。
「バカのお前に言われたかねぇよ」
「ねぇ、僕帰りたいんだけど····」
「お、続きは家でするか」
「しないよ! 僕は自分の家に帰るの!」
「なんでだよ!? もっと気持ち良く····あっ。大畠、今すぐそこから消えろ」
「わーったよ。また明日な。ほどほどにな~」
「ま、またね。ばいばい」
僕は、大畠くんに悪い事をしたなと思い、謝罪の意を込めて手を振った。
ハッとして場野くんを見る。またヤキモチを発動してしまうんじゃないかと焦った。しかし、場野くんは僕を見て、優しく微笑んでいた。
「な、なに?」
「ん? いや、お前って良い子だなぁと思って」
「なんでそんな子供扱いなの!?」
「なぁ、マジで俺ん家来いよ。もっと気持ち良くしてやるから」
僕の肩に腕を乗せ、真剣に縋るように言われ、僕は断ることが出来なかった。流されすぎだと自覚はしている。この後、後悔もする事になる。
「····っ。わ、わかったよ····」
どうせバイクに乗せられて、あれよあれよと連れ込まれるのだろうと覚悟はしていた。
それに、僕だって健全な男子高生だ。気持ち良い事に抗えるわけがない。
「覚悟しとけよ」
雄々しさ剥き出しの顔をして、耳に流し込むように低音で囁かれ、反射的に下半身が疼いた。なんて、絶対に場野くんには言わないけど。
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