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場野と莉久

 場野と莉久は、ものの数分で結人と部屋を綺麗に片付けた。そして、結人を起こすまでの間、くだらない話を始めた。 「アンタさ、ゆいぴの事本気なの?」 「あぁ? 当たり前だろうが。俺はお前と違って、女遊びもしてねぇ」 「女遊びじゃねーよ。ゆいぴに気持ちがバレたら、嫌われたらって、そんな事ばっか考えて怖かったんだよ。それをアンタがあっさりと····」 「やっぱただのヘタレかよ」 「はぁ!? ····まぁ、確かにヘタレだったけどさ、ずっと一緒に居たんだよ。何より大切なもん失くす怖さ、アンタにはわかんないよ」 「ふーん······。お前、ヘタレだけど嫌いじゃねぇわ」 「え、俺に惚れたの? やめてね。俺、男色なわけじゃないから」 「アホかてめぇ。誰がお前に惚れんだよ。結人を大切に想ってんだろ? まぁ、恋敵だけど、敵じゃねぇって事だ」 「はぁ····恋敵って敵じゃないの?」 「違ぇわバーカ」 「ところで、このヤリ比べの結果、ゆいぴがどっち選んでも恨みっこ無しだかんな。俺が勝っても、チンピラ集めて襲ってくんなよ!」 「は? 俺が選ばれるに決まってんだろ。てめぇこそ、ぴーぴー泣くんじゃねぇぞ」 「はぁぁ!? ゆいぴは俺を選ぶに決まってんだろ!? あんなに気持ち良さそうに──」 「僕はえっちで恋人を選んだりしないからね」  聞くに耐えなくなって、つい割って入ってしまった。 「「うおっ!!?」」 「起きたんか。ビビったわ····」 「起こしちゃった? ごめんね」 「で、選ばねぇって何? この勝負、お前が選ばねぇと決まんねぇんだけど」  場野くんからの圧が物凄い。壁まで追い込まれ、まるで子兎のようにプルってしまう。 「だ、だって僕、場野くんともお試し中だよ。それなのに、りっくんまで入ってきて····。そもそも、男相手なんて想像もしてなかったし。僕だって女の子としてみたい····」  ダァァァン──  場野くんの、脅威的な壁ドン····とは思えぬ威力の壁ダァァァンを喰らった。 「で? 俺と莉久、どっちが気持ち良かった? どっちでいっぱいイッた?」 「えーっと、だから····そうじゃなくて····」 「どっち?」 「どっちって····」 「なぁ結人、俺のが良かっただろ?」  場野くんは、僕の頬を優しく包み、耳に言葉を流し込むように甘く囁いた。 「場野、それはズルいだろ」 「あん? ····そうか」  りっくんの制止に応じ、場野くんはりっくんの隣に座った。2人は正座で僕と向き合う。 「ねぇ、選ばなきゃダメ? 僕、どっちかなんて選べないよぉ····」 「選べ。お前を共有するとか有り得ねぇからな」 「俺も、選んでほしいな。ゆいぴを独り占めしたい····」 「わぁ····2人ともホント勝手だよねぇ······」 (なんて····僕も大概、我儘なんだけどね)  でも、本当に選べない。りっくんは大切な幼馴染だし、場野くんだってもっと仲良くなりたいと思っている。度は越しているとは言えせっかく仲良くなれたのに、これでどちらかと関係が悪くなるなんて嫌だ。 「なぁ。ぶっちゃけよぉ、どっちが気持ち良かったん?」 「えー······どっち····も?」 「ナメてんのか····」 「だって、ホントにどっちも気持ち良かったんだもん! でも、どっちか選ぶのにカラダの相性で決めるなんて····僕····どっちとも──」 「待って! ゆいぴが····ゆいぴがどうしても選べないなら、2人でゆいぴを愛でてもいいんじゃない?」 「はぁ? はぁぁ!? お前、自分が何言ってんのかわかってんのか。俺は嫌だかんな」 「でも、もし選ばれなかったら? ゆいぴに選択を迫って、選ばれなかったのが自分だったら? 想像してみなよ」 「······やべぇな。でもよぉ──」 「アンタが100%選ばれる保証なんて何処にあるのさ。俺だって、ゆいぴにとっては失いたくない存在なはずだよ」 「ぐぅっ····」  りっくんの指摘が余程堪えたのか、漫画以外で『ぐぅっ····』なんて、聞く日が来るなんて思わなかった。 「あはは。2人とも、ちょっと落ち着いてよ」  2人が興奮し始めて、ようやく自分が落ち着くことができた。 「僕、やっぱりどっちかを選ぶなんてできないよ。でも、このまま選ばないなんて都合のいい事も言えないでしょ? だから、2人ともと距離を置いたほうが──」 「待て! 言うな。わかった。都合のいい方でいい。お前と離れるのだけは耐えらんねぇ」 「場野····。うん、俺も。ゆいぴと離れるのだけはごめんだね」 「え、でも····」 「ぁんだ? 俺ら2人じゃ満足できねぇか?」 「違····そうじゃなくて····そんなのダメだよ」 「仕方ねぇだろ。お前が選べなくて離れるくらいだったら、俺が折れてやるしかねぇだろ」 「俺だって、ゆいぴと離れるくらいなら、場野くらい我慢する····」 「てめっ、俺が我慢してやんだよ!」 「突然現れた奴が何言ってんのさ!」 「あぁ····えっと····喧嘩しないで!」 「「ご、ごめん」」 「いや、あの、ごめんなさい! 僕が優柔不断だから、だから、2人を苦しめるような結果になって····やっぱり····」 「だーかーらー、ゆいぴは悪くないの! 俺たちこそ、勝手な事ばっか言ってごめんね。そりゃ、突然カラダの相性で選べなんて、滅茶苦茶な事言ったよね····」 「うん、凄く滅茶苦茶言われたと思う」 「あははっ。ゆいぴは素直だねぇ」 「で、どうすんの? 俺らと付き合うって事でいいんか?」 「ぅあー····そう、なるんだよね。改めて言われると、なんだか照れるな····」 「照れてるゆいぴ可愛い」 「お前、そんな顔、俺ら以外の前ですんじゃねぇぞ」  ····どんな顔だよ。見えないんだから、わかるわけないじゃないか。やっぱり場野くんは、少しアホなんだなと思った。 「そうだ! ゆいぴ、そろそろ帰らなくて大丈夫?」 「あっ! ホントだ。帰らなくちゃ」 「俺が送ってく。後ろ、乗ってくだろ?」 「俺は?」 「アホかてめぇ。3ケツなんかするかよ。勝手に歩いて帰れ」 「えー、ケチ!」 「りっくん、3人乗りは危ないでしょ」 「ゆいぴまで····。わかったよぅ。ゆいぴ、気をつけてね。場野! 安全運転で確実に送り届けろよな」 「ざっけんな。てめぇよか結人の事、大事にしてんだよ」 「ゆいぴ、バイバイ。また明日ね」  そう言って、りっくんは僕のおデコにキスをした。 「うぁっ、びっくりするでしょ! もう····また明日ね」  なんだか、気分がスッキリしている。僕の我儘を聞いてくれた事も、2人と離れずにいられる事も、こんなに嬉しいなんてどうかしてると思う。けれど、やっぱり嬉しいんだ。  家まで送ってもらい、場野くんには口にキスをされて『また明日な』と言われた。周りに人が居ないか確認してほしかったけど、場野くんの笑った顔にトキメいて何も言えずに手を振った。 「ただいまー」 「おかえり。結人、あんたバイクで帰ったの? お友達?」 「う、うん。新しく出来た友達だよ」 (キス、見られたのかな······) 「そう。でも気をつけなさいね。バイクなんて、事故でもしたら大変よ」 「うん。心配かけてごめんね。気をつけるよ」 (見られてなかったのかな。良かったぁ······) 「あ、今日の夕飯はオムレツよ。お湯沸かしちゃったから、先にお風呂入ってね」 「うん。わかった」  今日は調子が良いみたいだ。遅くなったから心配してたんだけど、何も無くて良かった。それと、相手が場野くんだってバレなくて良かった。母さんに知られたら、また心配かけちゃうし、腰抜かしそうだもんな。 (そうだ。りっくんに、帰ったよって連絡····あれ?)  画面が開いていて、通話履歴がある。1時間以上も通話していたようだ。相手は、大畠くん。 (これは····マズいんじゃ······)  心臓が、ドクンッと強く鳴る。どうすればいいのか、頭が真っ白になってしまい、考えがまとまらない。とにかく、場野くんに連絡する事にした。  そして、事の経緯を話した。場野くんがりっくんに連絡してくれて、明日直接聞いてみることになった。  ***  同日、17時28分。  大畠のスマホが鳴る。試験前で、自室にこもり勉強をしていた。 (お、電話だ。武居からだ。珍しいな) 「ほーい、武居? どしたの····ん?」  通話口から聞こえてきたのは、結人の嬌声と肌を打ち付ける音。時折、ぐちゅぐちゅと水音も入り混じる。 「ちょっ、武居!? 大丈夫か!?」  何かの事件に巻き込まれたのかと心配になったが、場野と莉久の声が聞こえ、ある程度の事情を把握した。大畠は、空気を読む事に長けていた。  莉久が結人に近寄る際、結人のスマホを踏んでいたようで、大畠に電話をかけてしまっていたのだ。  すぐに電話を切ろうと思った大畠だったが、結人の喘ぎ声から耳を離せず、そのまま聞き入っていた。 (まぁ、無料通話だしいっか)  途中、相手が場野から莉久に変わり、驚きはしたが同時に興奮した。 (嘘だろ····武居ってそんな感じなの? え、無理矢理とか····? いや、嫌がってる様子はないよな。にしても、アイツの声マジで可愛いな〜。女の子みたいじゃん)  大畠は、結人の喘ぎ声を聴きながら、自分のモノを扱き始めた。結人が莉久にイカされる時、大畠も共に達していた。そこで、言い知れぬ罪悪感に苛まれ、無気力に通話を切ったのだった。

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