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王子の真実

 どのくらい眠っていたのだろう。目を覚ますと、八千代たちが居た。僕はまだ、朔に抱えられたままだ。 「結人、生きてるか? 大丈夫か? 朔にヤり殺されてねぇか心配だったんだぞ」 「なっ····殺すわけないだろ。俺をなんだと思ってんだ」 「女殺しの巨チン」  啓吾がボソッと呟いた。僕たちは、聞き流せずに吹き出した。 「チンコで女殺したことなんかないぞ。て言うか、女を抱いた事すらねぇけどな」 「「「「えっ!!!?」」」」  思わず、全員が驚愕した。 「え、待って待って。それじゃ、ゆいぴ抱いた時、童貞だったってこと?」 「あぁ、そうだ。結人が初めてだ。だから、思うように加減ができなくて、悪かったと思ってる」  朔は恥ずかしげもなく、至って真面目な顔で言った。 「マジかー····結人、知らない間に筆下ろしちゃったんだ。ウケる〜····」  啓吾の表情は、言葉とは裏腹にウケてなどいない。むしろ、若干引き気味だ。しかし、知らなかったとはいえ、人様の初めてを頂いたのかと思うと、途端に顔も身体も熱くなった。 「お前、彼女とか今までいなかったもんな。噂では色々言われてたみてぇだけど。どうせ、俺みてぇなもんだろ」 「おお、百人殺しの組長だな。それなら、俺も知ってるぞ」 「あ~、あるある。場野だって、隠し子が何人もいるって噂あったな。実際、そんなバケモンとかじゃねぇのにな。お前ら、普通に良い奴だし」  啓吾はニカッと笑い、朔と八千代の顔を見た。2人は、はにかんで笑ったが、八千代はどこか暗い表情を隠しているようだった。 「ね、そろそろ戻らない? 暑いし、かき氷食べたいな」  空気を変えようと思い提案したのだが、僕の身体に問題が起きていた。  立てない。脚に力が入らず、生まれたての仔鹿のようにカクカクしてしまう。 「結人、どしたん? ····え? マジで立てねぇの?」 「あ、そうだ。奥、入っちまったんだった」 「はぁっ!? お前、マジか!? そこはゆっくり開発していこうと思って····莉久にもこないだ説教したのに····クソ童貞上がりがっ! ····じゃねぇ。結人、大丈夫か? どっか痛くねぇか?」 「あはは。八千代もやるつもりだったんだ····。どこも痛くないから大丈夫だよ。でも、ちょっと立てそうにないかな。イキすぎて、相当脚にキてるみたい」  りっくんはバツが悪そうだが、啓吾は呆れ顔で朔を見て、大きくて深い溜め息をついた。八千代はいつものように、僕をお姫様抱っこをしてくれる。朔は、申し訳なさそうにしゅんとしてしまった。しゅんとした仔犬っぽい朔は、どうにも放っておけない。 「朔、僕なら大丈夫だよ。だからね、あんまりヘコまないで」 「おぉ。····お前、天使だったんだな」 「「ブッフォ」」  りっくんと啓吾が吹き出した。真顔で目を丸くして呟く天然王子には、まったく困ったものだ。 「ははっ。確かにこいつは天使だわ。しっかし、お前マジでぽやっとした事ばっか言ってっと、本気で馬鹿だと思われんぞ」 「ん? 俺は、天使だと思ったから言っただけだぞ。俺、何かおかしな事言ったか?」 「はははっ。マジかお前。そこまでボケた奴だったか?」 (八千代が本気で笑ってる。珍しいな。なんだろ····。八千代が楽しそうだと、僕も嬉しくなるな。へへっ) 「お前、何ニヤけてんだよ」  八千代が、僕を覗き込むように見つめる。少し怒ったようでいて、その実照れたような顔に心臓が高鳴る。 「珍しく八千代が笑ってたからさ、なんか嬉しくなっただけだよ」  恥ずかしい事を言ってしまったと気づき、えへへと誤魔化し笑うと、擦り寄るようにキスをされた。八千代は少し塩気を帯びた唇を、首筋から頬へ、頬から僕の唇へと這わす。 「んあっ、八千代、落ちちゃうよぉ」 「落とさねぇよ」 「はーい、そこイチャイチャしないで進んでくださーい」  りっくんが誘導を始める。それに続き、啓吾も『はいはーい、こちらでーす』と先導を切る。  そして案の定、ビーチに戻ると、良くも悪くも注目の的だった。当然だ。イケメンたちに包囲され、再びお姫様抱っこで現れたのだから。  チラッと聞こえたのだが、僕の性別を問う声があった。何処からどう見ても男だと思うのだが、それはもうイケメンマジックが起こさせた錯覚である。 「僕····男なのに····」 「はは。こんな可愛い男そうそう居ねぇわ。ま、俺らの姫なんは間違いじゃねぇしな」 「八千代がこんな抱え方するからでしょ····」 「結人よ、男でも女でも抱えられてたら注目されるのだよ」 「啓吾ウザい。けど正論だね。ゆいぴ可愛いし、注目されんのも仕方ないよ」 「何言ってんのさ····皆がイケメン過ぎるからでしょ!?」 「俺、この顔に生まれたこと、俺史上最高に感謝してる。ゆいぴが、俺の事イケメンと思ってくれてたなんて····」  感激のあまり涙目になっている、りっくんの情緒が心配だ。他はみんな、さも当然と言わん顔でしれっとしている。言われ慣れているのだろう。 「結人、降ろすぞ」 「あ、うん。ありがとう」  いつの間にか我らが陣に戻っていて、それはそれは慎重に丁寧に降ろされた。僕は、ボトルシップにでもなったのだろうか。些か、過保護すぎるように思う。 「俺、かき氷買ってくる。結人の分は、さっきの詫びに奢らせてくれ。何味がいい?」  朔が、物凄く気を遣ってくれている。ここは、変に遠慮しない方がいいのだろうか。 「それじゃ、イチゴでお願いします」 「わかった」 「俺らは?」 「ん」  朔は手を出して、金を渡せと合図した。僕以外はお金を渡し、朔に注文をした。そこで、ハッと気づいた啓吾が名乗り出た。 「俺、一緒に行くわ! 持ちきれねぇだろ」 「ああ、そうだな。頼む」  啓吾のこういう気の利くところは、凄く素敵な長所だと思う。それに伴った行動力や発言力もある。啓吾の無邪気さ故とも言える魅力だ。  2人が買いに行って数分、八千代が立ち上がった。 「俺、飲みもん買ってくるわ。金集めんの面倒いから、後でいいわ。全員コーラでいいだろ。莉久、結人の事ちゃんと見とけよ。あと、消えんなよ」  ビシッと指を差して言った。その男前たるや····。 「お、おう。わかってるよ」 「僕、コーラ苦手なんだけど····」 「お前はカルピスだな。悪ぃ」 「なんで知ってんの····? 言った事ないよね?」 「ゆいぴ、もうそこは気にしない方がいいよ」  八千代は僕たちに構わず、さっさと行ってしまった。 「八千代の情報は、いつもドコからなんだろうね」 「俺も気になって聞いたことあるけど、はぐらかされたんだよね。まぁ、害はなさそうだし、スルーしとくのが得策だよ」 「あはは。だね。聞くだけ無駄そうだもんね」  僕も以前、聞いてみたが誤魔化されたのを思い出した。 「····ねぇ、ゆいぴ」 「ん? え、どうしたの? そんな深刻な顔して····」 「俺がゆいぴの事、初めて好きって言った時、俺の事気持ち悪いとか思わなかったの?」  何を言い出すのかと思えば、りっくんは僕に関わると途端に弱気になる。可愛いところでもあるし、放っておけないところでもある。 「····びっくりはしたけど、気持ち悪いだなんて思わなかったよ。あの時は、あまりの急展開についていけなかったけど、ちょっと嬉しかったくらいだよ」 「そうなの? 俺、てっきりちょっと嫌がられてるのかと思ってた」 「もう、そんな泣きそうな顔しないでよ。大丈夫だよ。僕が、りっくんにそんな事思うわけないでしょ」 「ゆいぴ····」  りっくんに、こんな繊細な一面があるなんて、付き合うまで知らなかった。17年間も近くに居たのに、知らない事の方が多かった。 「僕、りっくんの事ホントに上辺しか知らなかったんだね」 「そりゃ、俺は必死に隠してカッコ良いトコだけ見せてたつもりだし? こんなカッコ悪いトコなんて、見せるつもり無かったんだけどな····」 「えへへ。僕はね、りっくんの知らなかったトコ見れて嬉しいよ。上辺だけじゃない、本当のりっくんだもんね」 「やば、俺泣きそう」 「僕の胸で泣く?」 「····そんな可愛い胸で泣けない。ムラッちゃう」 「ムラッちゃうって何? 初めて聞いたよ····」 「そういや俺まださ、ゆいぴと2人でヤッた事ないんだよね。場野と朔、狡いよねぇ」 「そんな事····言われても──」  僕がおどおどしていると、りっくんが頬を寄せ耳元で囁いた。周囲には聞こえないように、低くとびきり甘い声で····。 「今度、俺と2人きりでヤろうね、結人」 「ひあぅっ」  変な声が出てしまった。突然、“結人”だなんて、あまりにも卑怯だ。僕は、思わず囁かれた方の耳を手で覆い隠し、飛び退いてしまった。 「あははっ。ゆいぴ、耳弱すぎ」  そう言ったりっくんは、目を細めて薄らと笑い、見た事のないヤラシイ表情を見せた。それに僕の身体は素直に反応してしまう。 「あ、今ちょっとキュンてしたでしょ? お尻のア・ナ」 「し、してないっ!」 「ふーん····。ゆいぴ、さっきから顔真っ赤だよ。大丈夫?」 「誰の所為だと思ってんの!?」 「えー、誰の所為?」 「りっくんでしょ! もうっ」 「ゆいぴが俺で一喜一憂してくれんの、本気で嬉しいしヤバいんだけど。マジでクるわ····」 「本当にりっくんて変態じみてるよね。僕にはわかんない」 「それだけ、ゆいぴの事が好きなんだよ。ねっ?」  ニコッと優しい笑顔を見せてくれたりっくんは、いつもの甘さを取り戻していた。八千代は、りっくんが話せるように2人きりにしてくれたのだろう。ふと、そんな気がした。  僕には朔だけじゃなくて、他の3人だって王子に思えて仕方ない。いや、だからって僕は姫じゃないんだけどね。  思わぬ形でりっくんの胸の内を聞いて、啓吾の事も知りたいと思った。普段はお調子者だけど、まだ知らない一面があるんじゃないかと思う。一応、僕は恋人なのだから、もう少しみんなの事を深く知りたい。それは我侭な事だろうか。  なんて考えていたら、3人が一緒に帰ってきた。 「おまたせ〜。これ食ったら、もうひと泳ぎして帰ろうぜ。さっきから場野が、結人の身体が心配だ〜つってうるせぇの」 「てんめぇ、マジで余計な事ばっか言ってんじゃねぇよ!」 「痛ってぇ! 背中真っ赤になってない!?」 「お、綺麗な紅葉ができてるぞ。秋になったら紅葉狩りに行きてぇな」 「紅葉狩りなんかどうでもいいわ! 誰か、朔の天然と場野の暴力止めてぇ! 結人ぉ!」 「なんか僕ね、朔見てると和んじゃうんだよね」 「和んでないで助けて〜」 「いつまでもうるっせぇな。さっさと食えよ」 「お前の所為だろぉ!?」  啓吾は僕らのムードメーカーだ。啓吾が居るだけで、どんなに深刻な状況でも明るくなる。少し煩いのが難点だけど。  この後、僕たちは啓吾の提案通り、ひと泳ぎして帰路についた。これ以上、八千代に心配をかけないためにも。なんて言うと、また怒られそうだ。  こうして友達と海に来るのは初めてだった。ハプニングも色々あったけれど、物凄く楽しい思い出ができた。  夏休みは残り少ないけど、もっと楽しい思い出ができれば嬉しいな。

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