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修学旅行
バレンタインが終わり、2月も下旬。僕たちは修学旅行の真っ最中。大阪と京都を巡る2泊3日の旅だ。
初日は大阪。食べ道楽の街だ。
当然、八千代と啓吾、朔と同じ班なのだが、何故かりっくんも居る。クラスが違うんだけどな····。
「りっくん、自分の班は?」
「俺、はなっからこっちに混じるって言ってたから大丈夫」
「自由行動だからって、いくらなんでも自由過ぎんだろ。自分の班に帰れよ」
「そんな事言うの場野だけだと思ってた。朔に言われんの、なんか寂しくなるんだけど····」
「莉久だけハブられんの面白そうだったのにな。後でめちゃくちゃ揶揄うつもりだったのによぉ」
「八千代、意地悪言わないの。りっくんが可哀想でしょ」
「大丈夫だよ、ゆいぴ。コイツらがなんと言おうが、全行程ゆいぴと回るから。クラスの班の奴らには言ってるから」
「なんて言ったの?」
「ん? ゆいぴと回るって言ったよ」
「なんでって聞かれなかったの?」
「別に····察してくれたんじゃない?」
「それは······マズイんじゃないのか?」
「大丈夫だよ、朔。文化祭の一件で、俺がゆいぴを溺愛してる的な認識されてるみたいだし。幼馴染としてってのがわかんないんだけど····。片想いと思われてないのが意外なんだよね」
「そりゃ、俺と莉久は元々が遊び人だもん。女相手じゃないとそういう話になんないだろ」
「おい、いつまで喋ってんだよ。さっと行くぞ。結人が食いてぇトコ全部回れねぇだろ」
「あっ! 八千代、待ってよぉ」
僕が食べたい物を食べるというコンセプトで回るプランにしてくれたのに、僕を置いて行ってどうするんだ。
午前中はひたすら食べ歩きをして、午後は水族館へ。ちゃんと観光もするんだ。
乗り継ぎで僕が迷子になりかけて、啓吾とりっくんからお説教された。隣に座っていたお爺さんの荷物が大きくて、階段が大変そうだったから手伝っただけなのに。誰か1人は連れて行くようにしろと言われた。
無事、目的地には着いたものの、問題はここからだった。水槽トンネルをくぐると、ほぼ最後まで薄暗いものだから、ずっと誰かが僕に触れている。手を繋いだり肩を抱いたり、腰に手を回すなんて当たり前。他の班が居ないとは言え、人は居るのだから自重してほしい。
途中のカフェで休憩がてら、その件に関して注意した。
「ねぇ、みんな普通に触りすぎじゃない? 外だよ。学校行事だよ。八千代の家じゃないんだよ?」
「えー、見られなかったらいいんじゃねぇの? 今までもさ、なんだかんだ言いつつ外で色々してたじゃん」
「そうそう。ゆいぴが怒るからキスとかはしてないんだし、俺ら頑張って我慢してるよね」
「キス····は、男女でも外では自重するでしょ····。とにかくさ、僕ら制服だよ? イケメン揃いだよ? バカみたいに目立つんだから、もうちょっと節度を持った行動を心掛けてください」
「そうは言うけど、どこまでならアリなんだ? 流石に指一本触れらんねぇのは辛い」
朔がパフェを僕に食べさせながら、真剣に聞いてきた。
「これだよ····。こういうのがダメなんだよ····」
「触れてねぇのに、あーんはダメなのか。線引きが難しいな」
あーんされている僕も僕だが。無駄に抵抗すると、限定のパフェを食べられないのだ。
「ねぇ、誰か朔どうにかしてよ····。僕じゃ無理だよぉ」
結局、腰に手を回すのだけ許可した。じゃないと、皆発狂しそうだったのだから仕方ない。
スキンシップも程々に、お土産コーナーでジンベエザメのキーホルダーを買った。皆でお揃いの物を持てた事に、僕は浮かれて水族館を後にした。
次は、水族館のすぐ近くにある巨大観覧車。乗ってすぐに、皆の拳を見てある事を思い出した。言わずもがな“最初はグー”だ。
「ねぇ、またてっぺんでキスするの? その構えは、そのジャンケンなの?」
「もち。他になんのジャンケンすんだよ」
啓吾が気合いを入れながら言った。
「はぁ····。今日は1人にしてね。遊園地の時に思ったんだけど、他のゴンドラから見えたらどうするの? はたから見たら、皆のキスってえっちしてるようなものなんだからね。てっぺんの、周りから見えない瞬間だけね」
「キスがえっちってしてるようなもの····ってなんだ? どういう意味なんだ? キスはえっちなのか?」
「落ち着けって、朔。えっちと同じくらいエロいって事じゃねぇの? 結人がトロトロになるんだからしょうがねぇじゃん」
「じゃ、そのすんごいえっちなキス、今日は1人だけだね。最初はグーッ──」
間もなくてっぺんに着く。キスをするんだと思って待ち構えていると緊張してしまう。そんな僕たちの向かいには、負けてふてぶてしい3人が座っている。
朔とりっくん、それに八千代は不貞腐れて、こっちを見ないように外の景色を眺めている。勝ち誇った顔の啓吾は僕の隣に座り、僕の緊張を解すように耳を弄っている。
「啓吾、耳もうやだぁ」
「だって結人、めっちゃ緊張してんだもん。もう大丈夫?」
「んっ、大丈夫だよ。あ、もうすぐてっぺんに着くね」
「だね。てかもう見えないから良くね? ほら、目ぇ瞑って?」
僕は目を瞑り、啓吾からの優しい····いや、やらしいキスを受け入れる。唇が触れるだけのキスって約束だったのに、そんなものは容易く反故にされた。
「んっ、ぁ····ふぅっ······んんっ······んぇ゙っ」
「ハァ····舌出して」
「んぅ····ふぁぁっ····ふっ····へぁ······」
「んはぁ······奥するよ。口いっぱい開けて」
「あぃ····」
僕はできるだけ口を大きく開けて、啓吾の舌を受け入れる準備をする。
「あ〜ちっさ」
「んっ、ふぇ゙····んぅ····んぇっ······」
その後も、後ろのゴンドラから見えるギリギリまで、啓吾は僕の口内を犯した。
向かいの席からは、3つの大きな溜め息と舌打ちが漏れまくっている。
「なんなんだよお前ら。舌打ちと溜め息ばっかうぜぇなぁ。あと3回乗る?」
調子に乗った啓吾がそう言うと、八千代にボディーブローを入れられた。庇いようもないほどの自業自得だ。
ホテルに戻るまでまだ時間があったので、近くのハンバーガー屋さんでおやつを食べた。
キスができなくて不満だった朔が、ムードのある所に行きたいと言ったので、海沿いにあったベンチで夕日が沈むのを見た。
そして、人が居ないからとイチャついた結果、集合時間ギリギリでホテルに戻ることになった。
凄く美味しい夕飯を食べ、僕たちのクラスの順番がきたのでお風呂に入ろうとしたら、何故か皆に止められた。
「結人は部屋風呂な」
朔が、僕の頭を撫でて言う。
「えぇ!? なんで!?」
「お前、そこの鏡で背中見てみろ」
朔に言われて見てみると、薄くはなっているが噛み跡とキスマークが沢山ついているではないか。
「ちょっ、ちょっと何これぇ!? あぁっ!! 啓吾でしょ!」
「うはぁ····ごめん」
「一昨日、めちゃめちゃ吸うわ噛むわ、荒れてたもんね」
「りっくん····は、なんで僕たちの部屋に居るの?」
「え? ここで寝るから」
「いや、それは流石に····。ねぇ?」
皆の顔を見回したが、言っても無駄だろうと言わん顔で諦めている。
りっくんのクラスは入浴を終えたらしく、ただ僕に会いに来たらしい。点呼が終わったらまた来ると言って、一旦自分の班の部屋に戻った。
八千代と朔は大浴場に行き、僕と啓吾は部屋で入ることにした。それしか選択肢がないのだ。
「結人、ごめんな?」
「別に····お風呂くらいいいよ。けどこれ、痕つけすぎだよ?」
「んー、ホントごめん。お詫びに、いっぱい気持ち良くしてやるから」
「やん、啓吾····ダメだよ」
話しながら、流れるように僕の服を脱がした啓吾が、抱き締めながらお尻を揉みしだく。
「なんで? ちゃんと洗浄セット持ってきてるよ?」
「え····なんで? 待って。まさか、今日するの!?」
「みんなもそのつもりで準備して来てたよ? だってさぁ····結人と一晩過ごすのに、何もしないとか無理だもん♡」
「二晩あるけど····」
「うん。楽しみだな」
啓吾は、無邪気な笑顔で僕を抱き締める。その楽しそうな顔を見て、僕は何も言えなくなってしまった。
当たり前のように一緒に入るのだが、部屋風呂は八千代の家のお風呂よりも小さい。が、子供のようにはしゃぐ啓吾と、密着しながら入るのも一興だと思うようにした。
結局、啓吾に『とりあえず、一応、ね?』と可愛くお強請りされ、そのあざとさに負けて洗浄された。
そして、いつものように2人で入浴する。こんな所、誰かに見られたら言い訳のしようがないのに。
「そう言えば一昨日さ、啓吾はなんであんなに荒れてたの?」
「あ〜····家で母ちゃんと喧嘩してさ」
「へぇ〜、お母さんと喧嘩とかするんだ」
「しょっちゅうだよ? 修学旅行のお小遣い無いわって言われてさ、俺がキレた」
「啓吾、キレるの?」
「彼氏とデートで使っちゃった〜とか言われたら、そりゃキレるだろ」
「えぇ〜····。それは酷いね」
「んで、俺は貯めてたなけなしのバイト代を持って来たってわけ」
「そうなんだ。そりゃぁ、荒れるよね」
「だからって、結人で発散してたらダメだよなぁ。ごめんな?」
啓吾は僕の頭を撫でながら言った。
「啓吾はそういうの、いつも僕たちには見せないのさ、凄いなって思うんだ。けどね、ちょっと寂しい」
啓吾が時々浮かない顔をしている日があるのを、僕たちはわかっていた。おそらく家庭の事情だろうというのも、それとなく察していた。けれど、啓吾が話さない家の事を、僕たちが聞き出していいものかと迷っていたのだ。
「嫌な事とか辛い事とか、言うだけでも気持ちが楽になったりする事もあるかも知れないしね、僕にできることなら何でもするよ。皆だって、啓吾が辛いなら助けてくれるよ。だからね、もっと僕たちのこと頼ってほしいんだ」
「あはは。そっかそっかぁ。ありがとな」
啓吾は目を伏せて言った。これは絶対に空返事だ。全然頼る気なんてないのだろう。それだと、これまでと変わらないじゃないか。啓吾が辛いままじゃないか。
流石に、少し腹が立った。だから、啓吾のほっぺを両手で挟んで、しっかりと目を見て言ってやる。
「僕たち友達じゃないんだよ。恋人だよ。ずっと一緒に居るって言ったよね? それって家族だよね。大切な人が辛そうにしてるの放っておけるほど、僕ふわふわしてないよっ」
「そ、そんな真っ直ぐ見て言うなよなぁ····。はぁ······んじゃ聞いてくれる?」
啓吾は困った顔で、僕の手を握って下ろした。
「うんっ! 聞くよ」
「俺さぁ、あんま家に居たくないんだよね。母ちゃんテキトーだし、彼氏とは全く気ぃ合わねぇし」
「そうなんだ····。お母さんってどんな人なの?」
「母ちゃんねぇ、ずっと水商売やってんのね。親父が仕事続かないタイプの人間でさ。んで、俺以上に軽いの。この俺が引くくらい。母ちゃんがなんにしてもテキトー過ぎて、親父が嫌んなって出てったわけ」
「へぇ····」
「親父が出てってすぐだぜ? 彼氏できたつって浮かれだしてさ。あんま家に帰んなくなったの。まぁ、俺も自由にできるしラッキ〜って思ってたんだけどね」
「えー····そうなんだ」
「その彼氏もテキトーな奴で、俺に友達みたいに接してくんだよ。初対面でだぜ? 無理だわーって思ってから喋ってねぇんだけど。母ちゃんは俺より彼氏優先なわけよ。んで、気づいたら俺ん家の方に住むようになってて、家に居ても苛々しちゃうから? あんま帰んなくなった····みたいな」
「そうだったんだ······え? 今も帰ってないの?」
「結人と付き合い出してからは帰ってるよ。泊まるとこねぇもん」
それまでは何処に泊まっていたのか、聞かない方が良さそうだ。
「あーっ! 今さ、女んトコ泊まってたと思ってるだろ。口尖ってる〜。違うかんね? 男友達のトコだから。女の子の家なんか泊まれるわけないじゃん」
「そ、そうだよね。別に、そんなの気にしてないもん····」
今度は僕が目を伏せてしまった。
「え〜、気にしてくんないの〜? それはそれで寂しいって言うか〜」
あぁ、面倒臭いやつだ。
「もう····気になったんじゃなくて、女の子のトコなんだろうなって確信したの。したから妬いたの! ····満足した?」
「んはぁ〜、可愛いなぁ」
と、啓吾は僕を抱きしめてオジサンみたいなことを言いながら、僕を半回転させてお尻を自分の方に向けた。啓吾の舌が入ってきたのだが、声を出すわけにはいかないと思い、自分で口を塞いだ。
「旅行中は声我慢だな。させてやんねぇけど」
「ばっ、バカなの? 声は、絶対ダメぇん····ダメでしょ」
「あはは。んじゃ、頑張って耐えてね〜」
啓吾は指で前立腺をコリコリ弄ぶ。同時におちんちんを扱き、前でも後ろでもイカされる。
この調子で、声を我慢しながら朝までコースなのかと思うと、本気で先が思いやられる。
「んっ、ふぅっ····ん゙っ」
「頑張るねぇ。んじゃ、そろそろ挿れるよ」
「待って、待って啓吾! 今ダメっ! イッてぅ゙んんっ····」
「あっはは。こっち向いてみ」
啓吾は、キスで口を塞ぐと突くペースを上げた。声は出ないが、息もできない。
「んぅ····ふっ····はぁ····ぁ·····」
「結人、顔とろっとろ。声出せないの興奮する?」
「す、するぅ····。声、じぇったい出しゃないから、今日も朝まで、いっぱい繋がってたい····」
「煽ってくれんねぇ····。良いよ。明日、抱っこされて京都まわる覚悟あんなら、朝まで犯し潰してあげる」
耳元でえっちな事を言われると、僕はもう簡単にイッてしまようになっていた。
「んっふぅ····きょーと····抱っこは、やだぁ····」
「ははっ。そんじゃ、明日歩ける程度にしてぇ、朝までギューって抱き合って寝ような」
「うん。ギューって、して、んぅぅ····寝るぅ」
「俺も、結人と抱き合って寝てぇな」
朔が浴室の扉にもたれ掛かり、こちらをじっと見て言った。いつから居たのだろう。
「おわっ!! ビックリしたぁ····。朔、おかえり。場野は?」
「あー····ちょっと、な」
「八千代、どうかしたの?」
「飲み物買ってくるって言うから階段の下で待ってたんだ。そしたら、自販機の前で莉久と鉢合わせて、そこに来た女子に捕まってた」
「で、朔は1人で戻ったの? 場野と莉久置いて? あっはは、マジか」
「巻き込まれんの嫌だったから····。だから、代わりに呼びに行ってもらおうと思って大畠呼びに来たんだけど、忙しそうだからもういい。そのうち帰ってくるだろ」
「え····、りっくんと八千代、大丈夫なの? 女の子に連れてかれない?」
「行かれるわけないだろ。場野が居んのに、拉致られるわけねぇじゃん。····心配なの?」
「うん。だって、りっくんは女の子に甘いし、八千代も圧倒されてたりするし、心配だよ····」
「大丈夫だよ。アイツらが結人放って女のトコ行くはずねぇから。でもま、心配なら迎えに行こっか」
そう言うと、啓吾はラストスパートをかけた。僕が声を出さないよう奥には挿れずに、押し上げて少しだけ奥を開いて射精した。
「まて。結人、その顔で出んのか?」
「あー····だね。んじゃ、俺が迎えに行ってくるから、結人は朔と留守番ね」
啓吾はジャージを着崩して、いつも通りのチャラ男になって部屋を出て行ってしまった。あんなの、混じりに行ったようなものじゃないか。
残された僕たちは、のんびりとお茶を啜りながら、お茶菓子を食べて3人の帰りを待った。だが、15分経っても戻ってこない。
僕も落ち着いたので、朔と一緒に迎えに行くことにした。
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