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旅の終わり

 帰りのバスの中。隣に座った啓吾はずっと、ズボン越しに僕のおちんちんを揉んでいる。  少し冷えるからとブランケットを掛けてくれたのはいいが、それに手を突っ込んで悪さを働いているのだ。 「啓吾····あの、ね、手····」 「ん? なぁに?」  わかっているくせに。僕の顔を覗き込み、意地の悪い顔で微笑む。 「手ぇ····だめぇ」  啓吾の耳に口を寄せ、極々小さな声で訴える。車のエンジン音に紛れさせようと、吐息のような声になってしまった。僕の息がかかり、啓吾がゾワッとしたのがわかった。 「····気持ちイィ?」  啓吾も小さな声で聞いてくる。耳に啓吾の息がかかり、身体が小さく跳ねる。 「いぃ、けど····イけないの、辛い······」 「イきたい?」 「····イきたい」  啓吾は、ブランケットの中で僕のおちんちんを取り出した。全部、片手で器用にするんだ。  先走ったお汁で充分滑るのに、啓吾は自分の指先を舐め、わざわざ唾液をつけて弄る。凄くやらしくて興奮してしまう。 「イク時、声出しちゃダメだよ? 今、口塞いであげらんないかんね」 「ふぅ····ん、頑張る」  僕は啓吾に、熱くなってしまった身体を預ける。眠ったフリをして寄り掛かっているのだが、周囲のザワつきが気になって仕方ない。  それから暫く、亀頭を刺激されて気持ち良いのになかなかイけない。周りが気になって集中できないからだろうか。 「結人、イけない?」 「うん····。ずっと、軽イキしてるみたい····ちゃんとイきたい······」 「お尻、弄ってあげよっか」 「んぇ?」 「前だけじゃイけないんだろ?」 「うん······ん? 待っ····ドコに出すの? ねぇ、臭いでバレない? やだ、だめ、やっぱりイかない」  軽くパニックになった僕を宥め、啓吾は優しく囁いた。 「大丈夫。もうシないから。そんじゃ、向こう帰ったら場野ん家行こうな。周り気にしないでいっぱい出せるもんな」 「····うん」  と言ったのに、僕のおちんちんを触るのはやめなかった。それどころか、啓吾のおちんちんを揉ませたり、さり気なく頭にキスしたり、やりたい放題だったのだ。  身体の疼きに悶えていると、通路を挟んだ隣の席から、朔と八千代がずっと啓吾を睨んでいる事に気がついた。それが物凄く怖くて、一瞬で冷静になれた。  サービスエリアに着くなり、朔と八千代のお説教が始まった。りっくんと共に僕のおやつを買い漁りながら、グチグチとお小言を言われている。  まったく、この旅の間に何度お説教されたことだろう。少しハメを外しすぎてしまったようだ。 「ねぇ、買い物しながら話すのもマズくない? いくら内容ボカしても、冬真みたいに敏い人にはバレちゃうよ」 「······そうだな。続きは帰ってからだ」 「えぇ〜、まだお説教されんの〜? マジでごめんって。ホントにもうしないからお説教やめてよぉ····」 「啓吾····。はい、これ食べてお説教の続き頑張ってね」  僕は、本当に励ますつもりで、きなこ味のソフトクリームをあげた。 「めっちゃいい匂い····あんがとね。でも説教はやだよ〜。結人ぉ、バスで朔煽ってくんない? 俺の事言えないくらい朔が手ぇ出したらさ、俺怒られなくない?」 「あはは。啓吾、バカじゃないの? 煽るわけないでしょ」  まったく、啓吾のおバカには呆れてしまう。そこがまた可愛い、とは言ってあげないけれど。 「ねぇ、そろそろバスに戻んないとだよ。りっくん、また後でね」 「うん。それじゃゆいぴ、これバスで食べて。好きだよね? んで、俺の事思い出してね」  そう言って、りっくんは僕にごま団子を持たせてくれた。いや、好きだけど。  惜別と言うには、離れている時間があまりに短いと思う。あと2時間足らずで学校に着くのだから。 「あーあ。行っちゃった····。バスでゴマ団子····しかも15個入り。お腹いっぱいになりそう」 「莉久さぁ、たまにチョイス渋いよな」 「だねぇ。て言うか····思い出すも何も、忘れる前にまた会えるよね····」  たかだか2時間で忘れるほど、りっくんへの想いが薄弱な筈はないのに。 「とりあえずバスに乗んぞ。荷物持ってやるから貸せ。先に行って、荷物片してくる。慌ててコケねぇように気をつけろよ」  朔が僕のおやつを奪って行ってしまった。ソフトを食べながらのんびり歩いている啓吾と、悠長にカップコーヒーを買っている八千代を急かして朔を追う。  バスに乗ると、冬真が声を掛けてきた。   「お前ら、15分でどんだけ買ってんだよ。瀬古、食いもんばっかすんげぇ持ってたじゃん」 「みんなが僕のおやつにって買ってくれたの。冬真は何か買わなかったの?」   「アイスと飲み物だけだよ。お、ゴマ団子美味そうだな」 「これね、りっくんがくれたんだ。1個食べる?」 「やった〜。ありがとう」 「おい、さっさと座れよ。後ろつっかえてんぞ」 「あぁ、ごめんね。って、後ろ啓吾だけでしょ」 「コイツ、前見ねぇからぶつかんだよ。俺の服にアイスつくだろうが」 「えー····。それは啓吾に言ってよ」  僕は、八千代に背中を押され席に着いた。何かと理由をつけて、冬真から離したかっただけなのだろう。 「朔、お団子食べる? 美味しいよ」 「····甘そうだな。中にあんこ詰まってんだろ?」 「ぎっしり詰まってるよ。すっごく甘い」 「要らねぇ」 「はい、あーん」 「うっ····。ずりぃぞ······んぁー····甘ぇ」 「えへへ。でも、美味しいでしょ?」 「あぁ、美味いな。····甘ったるくてお前みたいだ」  朔が耳元で囁いた。どんなに甘いおやつよりも、皆の方が甘くて胸焼けがしそうだ。   「ん····朔ぅ······」  僕は、耳を隠し朔を見上げた。その時、前の席から谷川さんが身を乗り出してきた。 「ねぇ、一昨日はありがとうね。これ、さっき買ったんだけど美味しいからお裾分け。皆で食べて」  と、みたらし団子をくれた。タレが中に入っていて食べやすいタイプのやつだ。 「わぁ! ありがと。って、僕何もしてないんだけど····」 「気ぃ遣わなくていいぞ。たかが虫1匹駆除したくらいで」 「だって、瀬古くん絶叫してたじゃない? 普段聞かないような声あげさせて、皆で申し訳なかったねって言ってたのよ」 「いや、あれは····忘れてくれ」  朔は、少し照れて顔を伏せた。確かに、あんなに絶叫する朔はレアだ。今思えば、あれだって旅のいい思い出だ。 「あ、それジンベエザメ? 可愛い〜。瀬古くんが着けてるの意外だねぇ」  朔のスマホにぶら下がっているのを見て、谷川さんがニンマリとして言った。   「谷川さん、谷川さん。ほら」  僕は、自分のスマホにつけていたお揃いのキーホルダーを見せた。 「え!? お揃い!? やだぁ、予想以上の仲良し······」 「八千代と啓吾もつけてるよ。あと、りっくんも。水族館に行った記念にって買ったんだ」 「あぁ〜、思い出にね。って、なんで鬼頭くんも? 一緒だったの?」 「迷子だったから引き取っちゃった」 「へぇ〜····。なんか、武居くん楽しかったんだね。良かったぁ」  何故だか、谷川さんが凄く嬉しそうだ。 「え、なんで?」 「文化祭でほら····トラブったって聞いてさ、今回は虫退治に巻き込んでさ、迷惑掛け通しだったなぁって思ってたのよ」 「あははっ。そんなの気にしないでよ。谷川さんは? 楽しかった?」 「そりゃもう! 武居くんのおかげで凄く楽しめたよ。ホント、ありがとうね」 「ん? 僕、何かしたっけ?」 「何って言うワケじゃないんだけどね。武居くん達が仲良いの見てると癒されるって言うか····」 「谷川ぁ。前向いて座れぇ。バス止める気か」 「わっ、すいませーん。じゃ武居くん、お団子皆で分けてね」  先生に注意され、谷川さんは席に座った。僕のおかげでって、どういう事なんだろう。虫退治の話なのだろうか。本当に、何もしていないのだけど。 「ねぇ、朔。谷川さんが言ってたのって······朔?」  朔は窓の外を見て、何かを考え込んでいる様子だ。 「朔? どうしたの?」 「あぁ、いや。なんでもない。団子、場野と大畠にやらなくていいのか?」 「あっ、そうだね」  僕は、八千代と啓吾に団子を回した。事情を説明すると、啓吾が八千代越しに谷川さんにお礼を言う。  元気だなぁなんて思っていたら、谷川さんが『服、大丈夫だった?』と聞いた。何かを勘違いした周囲の男子が事情を聞き、啓吾は暫く『ホイホイ』と呼ばれる事になった。  啓吾は笑顔でやり過ごしたが、八千代にしっかりと文句を垂れているのが聞こえてしまった。   「場野、お前の所為だかんな。改めて何か詫びろよ」 「ぶはっ····。いいぜ、ホイホイ。団子買ってやろっか? ホウ酸の」 「おっまえ! 全然悪いと思ってねぇだろ!?」 「ははっ。思ってるって。マジで。今度なんか美味いもん食わしたるわ」 「やったー! んじゃさ、場野の母ちゃんがやってる焼肉屋行きたい。結人がめちゃくちゃ美味ぇって言ってたからさぁ、1回行ってみたかったんだよ」 「いいぜ。飯だったら結人も行くだろ?」 「行くぅ! いいの?」 「そんじゃ、この後行くか」 「「行く〜!」」 「大畠! 武居! うるせぇぞ! お前ら小学生か!」 「「すみませーん」」  僕と啓吾は先生に怒られて、クラスメイト達には笑われてしまった。凄く恥ずかしい。けど、この後の焼肉を思えば、そんなのは瑣末な事だ。  この3日間で、たくさんの思い出ができた。良くない事もあったけれど。結果的に楽しく修学旅行を終えて、さらに帰る楽しみまでできてしまった。  今、こうして幸せいっぱいでいられるのは皆のおかげだ。皆も、同じように思ってくれていたら嬉しいな。  と思っていたのだが、やはり朔の様子がおかしい。外を眺めたまま、ずっと何かを考えているようだ。さっきの谷川さんの一言からのようだが、何か思い当たる事でもあるのだろうか。  地元に帰ってきた僕たちは、解散の儀もそこそこに学校を後にした。りっくんを捕まえ、家には連絡を入れ、いざ焼肉へ。  お店には八千代のお母さんが居て、好きなだけ食べなさいと言ってくれた。お母さん、僕が大食漢だって知っているのだろうか。  なんて心配は無用だったようで、僕の好きな物ばかりがどんどん運ばれてくる。きっと八千代がお母さんに言ったのだろう。 「ほら、どんどん食えよ。お袋に、お前がすげぇ食えるつっといたからアホみたいに持ってくんぞ」 「そんな、申し訳ないよ····」 「って、もうめっちゃ食ってんじゃん。俺カルビ食いてぇ。骨付きのやつ」 「遠慮もなんもねぇな····待ってろ。次来たら言ってやるから」  八千代は、なんだかんだ啓吾と朔の面倒見が良い。で、問題は朔だが、まだ何か思い詰めているようだ。 「朔、何考えてるの? 谷川さんのあの一言から変だよ?」 「何? 谷川さんの一言って」  啓吾が肉を詰め込みながら聞いた。まったく、お行儀が悪い。  僕は、谷川さんとの会話を皆に話した。すると、りっくんが言った。 「どこまでかはわかんないけど、バレてるんじゃない?」 「え?」 「たぶんな」  啓吾がご飯を詰め込みながら言った。 「啓吾、飲み込んでからしゃべりなよ。汚い。····あのさ、多分だよ。女子ってほら、そういうの好きな子いるでしょ? BLとか」 「あぁ。····あぁ······ん?」  と言うことはつまり、僕たちが付き合っていると知ったBL好きの谷川さんが、どういう訳か僕たちをネタに楽しんでいたと。そういう事なのだろうか。 「多分、かなり前から知ってたんじゃないか? あの口振りだと、昨日今日で知った感じじゃなかったぞ」 「えー、それちょっとヤバくない? 他にも知ってる奴いんのかな」 「いや、噂になってねぇっつぅ事は、委員長が言いふらしてねぇって事だろ」 「そういう事だと思う。で、考えてたんだけどな。多分、俺らに協力的なんだと思うんだ」 「ぽいよね。ゆいぴのおかげで楽しめたって事は、陰から俺ら見て楽しんでたって事でしょ? 害がないなら放っておいていいんじゃない?」 「協力者は多くていいからな。それよりも神谷だ。アイツ、そのうち結人に仕掛けてくるぞ」  どうやら朔は、僕の代わりに沢山悩んでくれていたらしい。 「だろうね。どうすんの? 本気で好きだつってきたら」   「もう、ゆいぴ次第とは言ってらんないしねぇ」 「俺は入れる気ねぇぞ。アイツ、なんか軽いって言うより、胡散臭ぇ気がして好きじゃねぇ」 「俺も。アイツの無骨な感じが好きじゃねぇ」 「無骨····難しい言葉使うなよなぁ」 「別に難しくねぇだろ····。お前、仮にも高校生だろ。語彙力無さすぎんだよ。なんでもかんでもヤベェヤベェばっか言いやがって」 「んな事ねぇよ! 俺だって頭良さそうな言葉知ってるし。······今は出てこねぇけど」 「あははっ。啓吾、可愛いなぁ。啓吾はそのままでいいと思うよ。無骨なんてあんまり言わないしねぇ」 「そうなの? えー、でも可愛いはどうだろうなぁ。アホっぽく見えてるって事じゃねぇの?」 「違うよぉ。なんかねぇ、ギューッてしたくなる。ほら、アレだよ。母性本能、今擽られてる」 「結人、大畠は可愛くないぞ。ただのアホだ。そんな事より神谷だろ? もし、アイツが本気でお前を好きだって言ってきたら、結人はどうするんだ?」 「朔ひど〜。俺だって傷つくんだけど」 「勿論、お断りします。友達としては良い人だと思うけどね、恋人としてはちょっと違うかなって。啓吾のチャラさとは違う感じがするの」 「そうか。でも両手放しに安心はできねぇな。なんつっても、結人はすぐに流されるからな····」 「「「それなぁ······」」」 「流されないよ。大丈夫だもん。あっ、ほら、お肉焦げちゃうよ。······ねぇ。僕の事、もうちょっと信用してほしいな」 「信用してないわけじゃないよ。けどね、ゆいぴの流されやすさを知ってるだけにね。それに、神谷には手の内バレてるでしょ? 気持ち良い事に流されやすいって」 「当面、結人と神谷を2人きりにさせねぇように気をつけねぇとだなぁ」 「だな。よし、話纏まっただろ。いい加減さっさと食え。まだまだ来んぞ」  八千代が話を締め、焼肉に集中させる。言った通り、お母さんがどんどん持ってきてくれて、全員お腹がはち切れそうなくらい食べた。   「もう食えねぇ。あーっ、マジで美味かったな。場野、ご馳走様ぁ」 「おう。お前らも、金はいいからな」 「えっ、なんで? 僕なんて、あんなに食べたのに····」 「お袋が勝手に出してきたんだぞ。それに、俺のツレから金取らねぇよ」 「何それ。カッコ良すぎだろ」 「文句あんならお前だけ払ってくるか?」 「文句じゃねぇよ。良いなぁって思ったんだよ。カッコイイ母ちゃんで」  啓吾の言葉の重みに、僕たちは言葉を出せなかった。事情をよく知らない八千代とりっくんでさえ、言葉の真意を察したかのように黙ってしまった。 「んで、この後どうすんの? 場野ん家行く? 結人、時間どう?」 「もうすぐ9時だし、今日は帰るよ。明日は?」 「特に予定もねぇし、好きな時に連絡しろ。迎えに行くから」 「わかった」  りっくんと朔は疲れたからたっぷり寝たいらしく、お昼頃に行くと言っていた。啓吾は起きたら、だそうだ。  何はともあれ、最高に楽しい修学旅行が終わった。りっくんに送ってもらい「また明日ね」といつもの挨拶で締め括る。おやすみのキスも忘れずに。  母さんたちにお土産を渡し、思い出話をしている最中に限界がきてしまった。おばあちゃんたちへのお土産は、明日母さんが行くついでに渡してくれるらしい。  直接渡したかったが、またすぐに会いに行けばいいやと、この時は思ってしまった。眠くて考えが纏まらなくなって、この3日でクタクタになった身体を休ませる事しか頭になかったのだ。

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