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ヒーローなんかじゃないんだから
朔とりっくんは進路相談に、啓吾は家の事で呼び出し。八千代は啓吾と一緒に呼ばれた。僕は、1人になるからと理科準備室に軟禁されている。
退屈しのぎに窓からグラウンドを見ていると、校舎の影に人影がチラついた。目を凝らしてみると、1人の男の子が3人の男子に囲まれている。
言い争っているのかと思っていたが、3人のうちの1人が男の子を突き飛ばし転ばせた。僕は居ても立ってもいられず、後先も考えないで準備室を飛び出した。
全速力で向かい、息が上がりまくりながらも辿り着いた。一呼吸整え、詰め寄られていた男の子と感じの悪い男子達の間に立ちはだかった。
そして、またドジのせいでピンチに陥った事を悟る。りっくんに持たされた防犯ブザーを忘れてきてしまったのだ。さっき、非常事態が起きたら瞬時に対応できるよう机の上で転がしていて、そのまま置いてきたようだ。
しかし、だからと言って今更逃げる訳にもいかない。
「や、やめてください。暴力はダメですよ」
まずは男の子が無事か、少し振り返って見る。
(わぁ、おっきいな····1年生だよね····? あれ? 昂平くん····じゃないよね。て言うかヤバいなぁ。相手3年生だ······)
「なにお前。邪魔すんじゃねぇよ。俺らコイツと話してんだけど」
(うわわわわっ!! 八千代たち居ないのにどうしよう······けど、言ってる場合じゃないよね)
「さっき、突き飛ばしてるの見ました。1年生相手に、何してるんですか」
口は一端に立ち向かうが、四肢の震えが激しくなってゆく。
「ちょっと金借りようとしただけなんだけど〜。お前も貸してくれんの?」
「かっ、カツアゲ!?」
「デケェ声出してんじゃねぇよっ」
「んくっ····」
襟を掴まれ、壁に押し付けられて頭を打った。少し持ち上げられるだけで体が浮いてしまう。
「やめっ····」
精一杯大きい声を出そうとした時、ガラガラッパーンッと窓が勢いよく開く音が反響した。
驚いて音のした方を見ると、八千代が窓から飛び降りるのが見えた。壁伝いにあるパイプを利用し勢いを殺したとて、準備室があるのは3階なんだけど!?
「やっ··ちぉ····」
「おいゴラァ!! テメェその手ぇ離せっ!!」
「うわっ····場野!?」
俊足で駆けて来た八千代は、先輩の顔面に飛び膝蹴りを見舞った。その勢いのまま、あとの2人も顔面を蹴られて倒れた。見事な瞬殺だ。
「八千代··ゲホッ····加減····」
「できるかっ!! お前、怪我は? つーか何やってんだよ。なんでこんなトコに居んだよ。防犯ブザーは!?」
僕は、非常事態であった事を説明した。防犯ブザーは忘れたと、正直に言って謝った。
「お前なぁ····、あーっ、どっから言やいいんだ····とにかく戻んぞ。頭打ったんだろ? 見せろ」
「待って。1年生の子が····」
「そうだ。テメェの所為で結人が危ねぇ目にあったんだぞ。詫びか礼のひとつも言えねぇんか」
ぽけっと僕たちのやり取りを見ていた彼は、飄々とした様子で答えた。
「やだなぁ。助けてなんて言ってないし、俺別にイジメられてないもん。ちっこい先輩が勝手に飛び込んできたんだよ? 暇だったからさぁ、ボコる相手誘ってただけなんだけど。ナヨってたらアホが群がってくんじゃん? んー····だから、むしろ邪魔された感じ?」
「テンメェ····」
八千代は、血管がブチ切れそうなほど怒っている。この手を離したら、きっとあの子は病院送りになるのだろう。
「あはは。怖い怖い。事実なんだからしょうがないでしょ。つぅか場野くん、俺のこと覚えてないの?」
「あ? テメェみてぇなイカれたクソ野郎、知るわけねぇだろ」
「えー? 昔よく遊んでくれたじゃん。俺の事ボッコボコにしてさぁ」
「知らねぇ」
おそらく、八千代は思い出す気が無いのだろう。被せるように即答した。
「八千代、ちゃんと思い出してあげなよ····」
「別にいいよ。俺、場野くん嫌いだし。そっちの先輩は可愛いね。男····だよね? 名前は?」
「えっと、武居··むぐっ」
八千代は手で僕の口を塞いだ。
「お前は····ホイホイ名乗んなつってんだろうが」
「タケイ先輩?」
「ん?」
「返事してんじゃねぇよ······」
八千代は呆れて、僕の頬を片手で挟んで掴んだ。口がクチバシみたいになってしまう。下級生の前で恥ずかしいのだが····。
「アンタら友達なの? 真逆過ぎない? んねぇ、タケイ先輩さ、俺と友達になってよ」
「ふぇ? ほほはひ?」
「なるわけねぇだろ。つーかテメェ、結局誰なんだよ」
「オレオレ〜」
(詐欺····?)
「浦沢 純平 。場野くんの舎弟だったの、マジで覚えてないの?」
「舎弟····ジュンペイ······知らねぇ」
「マジか。傷つくわ〜」
「ねぇ、ホントに覚えてないの? ジュンペイくん、八千代の事ちゃんと知ってるみたいだよ?」
「知らねぇもんは知らねぇ。俺が舎弟なんか面倒くせぇもんとるわけねぇだろ。つーかこんな奴どうでもいいわ。さっさと戻んぞ。打ったとこ見せろ」
八千代は僕の手を引いて、強引に準備室へ向かおうとした。その時、後ろからふわっとジュンペイくんが僕に抱きついた。
「ひゃぁっ」
そして、それと同時に後頭部の髪を掻き上げられる。
「タンコブできてる。痛そー」
と言って、ジュンペイくんがタンコブにキスをした。
「ひあぁっ」
背筋がゾワッとして声をあげてしまった。そして、八千代が僕の頭上で、ジュンペイくんの左顔面へ右フックを入れた。
背後で『ぐぁっ』と聞こえ、地面に倒れる音がした。僕はそのフックの威力と、間近で見た八千代のキレた顔のカッコ良さに固まってしまった。
「来い」
今度こそ、八千代は僕の手を引いてその場を離れた。ノビている4人を放置したまま。
準備室に戻り、僕のタンコブを確認する八千代。ジュンペイくんにキスされたからか、必要以上に念入りな消毒をする。
「なんでお前は俺らが居ねぇのに助けに行くんだよ。よりによってあんなヤツ····。お前が行って何ができんだ。よく考えてから動け。お前の正義感はすげぇし良いとこだけどな、1人で行くのはマジでやめろ」
「ごめんなさい····」
「たまたま俺が戻って見つけたからあれで済んだんだぞ。俺が行かなかったら、お前今頃どうなってたか····」
「ホントにごめんなさい····」
「お前、マジでわかってんのか? 1人になるからここに閉じ込めてったんだろうが。全く意味ねぇじゃねぇか」
八千代のネチネチしたお小言が止まらない。
「仰る通りです····。いたっ」
八千代は、タンコブをピッと指で押した。
「結構強く打ってんな。よし、病院行くぞ」
「エッ····。大丈夫だよ。これくらい平気だよ」
「ダメだ。今は大丈夫でも、時間経ってからっつー事もあんだよ。お前に何かあったらどうすんだ」
「えー····。ホントに大丈夫だよぉ」
「うるせぇ。お前に拒否権はねぇんだよ」
僕は八千代に引っ張られ、強制的に病院へ連れて行かれた。検査が終わって待合室に戻ると、皆が揃って待っていた。結果を待つ間、皆からまた怒られるのだろうか。
「ゆいぴ! 大丈夫? 打ったとこ見せて」
「皆来てくれてたんだ。ありがと、大丈夫だよ。八千代が大袈裟に····」
「大袈裟じゃないでしょ。救急車呼ばれなかっただけ良かったと思ってね。あぁ、あーあー····たんこぶできてる····」
タンコブで救急車····。大袈裟と言うか、過保護が過ぎるのもここまで来ると面白い。
「場野から聞いたぞ。お前、人助けはいいけどな、俺らの寿命が縮むようなことだけはやめてくれよ」
修学旅行の時にも、迷子になりかけて同じ注意をされた記憶がある。本当に申し訳ない。
「ごめんなさい····」
「気分悪かったり、目眩とかはないの? あっ! 首ンとこアザできてんじゃん」
啓吾がその箇所をさする。硝子に映して見ると、うっすらと赤くなっていた。おそらく、襟を掴まれた時にできたのだろう。
「ホントだ。気づかなかった····。痛くないし大丈夫だよ」
「痛い痛くないじゃねぇだろうが。はぁぁぁ······。お前、喧嘩したこともねぇのによく飛び込んでったな」
「だって、皆が来るの待ってから行ってたら、あの子がボコボコにされちゃうと思って····。あっ、あの子も一緒に放置してきたけど、大丈夫かなぁ」
「あんなクソ野郎がどうなろうと、知ったこっちゃねぇわ」
「僕、あの子近くで見た時ね、昂平くんだと思ったんだ。そっくりなの。同じくらい大きかったし」
「へぇ〜。も1人デッカイの居たんだな。見た覚えねぇなぁ。そいつも学校来てねぇのかな」
「どうなんだろうね。なんかね、気弱そうなのに言ってることは不良っぽかったよ」
「場野、本当に知らない奴なのか。そいつ、お前の事知ってたんだろ? 頑張って思い出せ」
「頑張れつったって、マジで全く記憶にねぇんだよ。基本的にザコは憶えてねぇ。舎弟もとった憶えねぇわ。朔は知らねぇの? 俺の子分だつってたんだけど。噂とか聞いた事ねぇか?」
「俺らと同じ中学のジュンペイ····で、場野の舎弟······。はっ······そう言えば俺、場野以外の奴って記憶にないな。友達も居なかったから」
「朔、なんかこっちが辛くなるからやめて。場野とも関わってはなかったんだろ? マジで1人じゃんか····」
「あぁ。特に困った事はなかったから大丈夫だぞ」
朔にとっては、本当に問題はなかったのだろう。けれど、朔が1人で居るところを想像して、僕の方が寂しい気持ちになってしまった。きっと、啓吾も同じなのだろう。
「朔、ずっと一緒に居ようね。もう、1人で平気だなんて言えなくしちゃうからね····」
朔の手をキュッと握った。それに応えて、朔が握り返してくれる。
「ははっ、なんだそれ。それは困るな」
朔がこんなに笑うだなんて、きっと同じ小中出身の人でも知らないだろう。僕たちが朔を笑顔にしてるんだ。そう思うと、なんだか誇らしい気持ちになった。
「結人はさ、変わった角度から俺らの事追い詰めてくんね。おかげで飽きねぇんだけど」
「何が? 何か変な事言った? 僕、皆の事追い詰めてるの?」
「そうじゃないよ。ゆいぴは俺らの弱いトコをね、無理矢理にでも守ってくれようとするねって事。嬉しいよ」
「······んぇ? 喜んでくれてるんならいいんだけど、よくわかんないや。僕、何もやらかしてない?」
「大丈夫だよ。ゆいぴはそのままでいてくれたらいいの。それより、結果遅いね」
「そうだな。結人に何かあったらどうしてくれんだろうな」
りっくんも朔も、突然スイッチが入ったかのように感情を露わにする。一瞬前まで甘かった空気は何処へやらだ。
暫くすると呼ばれ、八千代に付き添われて結果を聞く。骨にも脳にも、全く問題は無いらしい。けれど、明日までは安静にするように言われた。
僕はタクシーに押し込まれ、八千代の家に向かう。八千代に『今日は帰れ』と言われたが、『まだ一緒に居たい』と我儘を押し通した。
乗車人数の都合で、ジャンケンで負けたりっくんと朔は電車で向かう。僕は八千代と啓吾に挟まれ、ぎゅうぎゅう詰めにされている。大きいんだから、どっちかが前に乗ればいいのに····。
「帰りもタクって帰れよ」
「えぇ····。大丈夫だよ」
「ダメだ。言う事聞けねぇんなら、このまま帰すぞ」
「やだ。まだ一緒に居たい」
「······ハァァァ。またそれかよ」
「な、なんでそんな大っきい溜め息つくの?」
「お前がんな事言ったら帰せねぇだろ」
「えぇ····。だって、もっと欲張りになっていいって言ったでしょ?」
「おま····、お前の身体の事考えて帰れつったんだろうが。ったく、お前と居たくねぇわけねぇだろ。どんだけ我慢して帰れつったと思ってんだ、アホ」
「····えへへ。アホでいいもーん」
「なぁ。こっちが恥ずかしいからさ、タクん中でイチャつくのやめてくんないかなぁ」
「そう言う啓吾だって、ずっと手繋いでるくせにぃ····」
「だって、結人に何もなくて良かったって思ったら安心したんだもん。そしたら触りたくなんじゃん」
八千代の家に着くまで、ずっとこの調子だった。僕の軽率な行動の所為で、皆にどれほど心配させてしまったのかがわかる。
「ココア飲むか? 腹は?」
「飲む。お腹····空いたぁ」
「腹減んのはいい事だねぇ。んじゃ、場野がココアいれてる間に、俺が何か作ってきてやるよ」
「ありがと。僕も何か手伝うよ」
「「安静」」
「······はい」
2人に気圧され、僕は部屋で座って待つ。すぐにりっくんと朔が来て、座るや否や会議を始めた。議題はジュンペイくんについて。
「さっき朔と話してて思い出したんだけどね、そのジュンペイってさ、昂平の双子のお兄さんかもしれないなって」
「昂平くんって双子なの!?」
「確かね。小学生の頃に聞いた話だから、ハッキリとは憶えてないんだけどね。双子の片割れが、お母さんについてったって言ってたような気がするんだ」
「そうだったんだ。それだったら、昂平くんに似てたのも辻褄が合うね」
「でしょ? 明日、昂平に聞いてみようかなと思ってんの」
「なら僕も──」
「結人は行かなくていい。もし仮定通りだったとして、ジュンペイがまたちょっかい出してきたらどうすんだ。タンコブにキスされたんだろ? 絶対にロクでもない奴に決まってる」
「朔、それね。八千代に必要以上に消毒されたよ」
「当然だ。場野がしてなかったら俺がしてたぞ」
「あはは····。わっ、何?」
朔が僕の背後に回り、膝に乗せたと思ったらタンコブにキスをした。しつこく何度も、まるでキスを上塗りするように。
「結人、簡単にキスされないように気をつけてくれよ。俺、自分で思ってる以上に嫉妬深いみたいだ。そのジュンペイってヤツ、今すぐ殴りてぇ」
「んっ····ごめんね。朔が妬かないように気をつけぅから····ひぅっ」
タンコブだけに留まらず、首筋や耳の裏にもキスをする。背面が弱いと知っての意地悪だ。余程妬かせてしまったのだろう。
朔のキス責めにあっているところに、啓吾が軽食を携えて戻った。
「おーい、朔ぅ。あんまやりすぎんなよ? 今日は安静にさせねぇとだろ」
「あぁ、わかってる。ん····いい匂いだな」
「何? 美味しそうな匂い····」
「コンビーフとキャベツのホットサンドだよ。美味いから食ってみて」
「わぁーい! いただきまぁす」
「お前らも食う? 具余ったからいっぱい作った」
「食う。けど、コンビーフってなんだ。牛肉か?」
「えっと····、牛肉の塩漬けだっけ? なんかそんなん」
「知らないで作ってんの? なんか不安なんだけど」
「んじゃ食うなよ。ってもう食ってるし。どう?」
「····悔しいけど、めちゃくちゃ美味しい。啓吾、ホントに料理できるんだね」
「ね、料理上手だよね。これ凄く美味しい。僕、これすっごい好きぃ」
「そかそか、良かった。あーとね、場野が今ココア買いに行ってるわ」
「え、なかったの? だったらいいのに····」
「もう帰ってくんじゃないかな。結人がさ、場野のいれたココア好きって言ってたじゃん。だからじゃね? 毎日でもいれたいんだろうね、たぶん」
「場野、単純だもんねぇ。ゆいぴが喜んだらそればっか」
「なんかあれっぽいな。ほら、不器用な親父みてぇなだ」
「だーれが不器用な親父だよっ」
八千代が朔の後ろから、ココアの入った買い物袋を背中に当てた。
「いたっ。何すんだ」
「人のこと親父呼ばわりすっからだ」
「八千代、おかえり。わざわざ買いに行ってくれてたんでしょ? ありがとう」
「別に大した事ねぇよ。すぐいれっから待ってろ。····なんだそれ、美味そうだな」
「啓吾が作ってくれた、コンビーフとキャベツのホットサンドだよ。凄く美味しいの。はい、あーん」
「ん····。おぉ、美味ぇな」
「えへへぇ。でしょ?」
「なんでお前がドヤ顔なんだよ。作ったん大畠だろ」
「だって、なんか嬉しかったんだもん」
「はは、何がだよ。それ食って待ってろな。入れてくるわ」
「俺らのコーヒーも〜」
「うるせぇな。全員ブラックにすっから、ミルクと砂糖は自分で入れろよ」
啓吾がついでにと頼む。少し前の八千代なら、僕以外の為に動かないと返しただろう。
「なんだかんだ言ってやってくれんだよなぁ。アイツ、ホント丸くなったよなぁ」
「だねぇ。俺、実は最初めっちゃ怖かったんだよね。ゆいぴへの執念だけで闘ってたわ」
「八千代にビビらないで向かってくりっくん、凄いなぁって思ってたんだよね。啓吾も、あんまり怖がってる様子なかったよね」
「だって、別に刃物振り回してるわけでもねぇし、同い年のヤンキーってだけじゃん? まぁ、威圧感凄かったから、ちょいちょいビビったけど」
「高校に上がってからは、すげぇ大人しくなってて逆に驚いたな。中学の頃のアイツ見たら、お前らもっとビビってたと思うぞ」
「どんなだったの?」
「チラッと見たことあんのは、角材持った上級生を、場野が素手で殴り倒してた。あと、20人くらいに囲まれて、自分より背の高い相手に飛び膝蹴り入れててな。あん時の場野、すげぇ良い顔してたぞ」
「それ、今日見た。3階からパイプ伝いに飛び降りて、3年の人の顔面に躊躇いなく飛び膝蹴りしたの。一瞬過ぎて、何が起こったのかよくわかんなかったよ」
「場野、マジでヤバい奴だったんだな。俺ら、そんなん相手によくアホだなんだって言ってるよな。俺らのが凄くない?」
「傍から見たらそうかもね。けど、今の場野知ってたら、昔の場野の方が想像できないよ」
「だね。喧嘩慣れはしてるんだなぁって思ってたけど、普段の八千代からは想像できないや。なんだろうね。····反抗期だったのかな」
「「「ぶはっ····」」」
3人が吹き出した。何故だろう。
「反抗期っつーか、単にグレてたんじゃねぇの? それこそ昂平みたいな? んで、強かったから調子に乗った····みたいな」
「あー····啓吾、後ろ。て言うか上」
「八千代、コーヒーかけちゃダメだよ」
「す、すんませんでしたぁ〜」
縮こまった啓吾が小さな声で謝る。
「結人が止めなかったらコーヒーぶっかけてたわ。お前ら、言いたい放題言ってんじゃねぇぞ」
「あ、聞こえてたんだ。なんで中学ん時は喧嘩に明け暮れてたの? イキってたの?」
りっくんは出会った当初から変わらず、怖いくせに煽っていくスタイルだ。いい度胸をしていると思う。
「イキって····たんかもな。毎日つまんねぇし、喧嘩ふっかけてくる奴ボコんのはストレス発散になってたし、負けねぇし。周りがなんもかんもクソみてぇだって思ってたわ」
「お前も典型的なグレ方してたんだな。昂平と一緒じゃん」
「昂平は喧嘩そこまで強くなかっ····違うな。多分、場野が相手だったからだろうね。負けて改心した的な?」
「まぁ、八千代が相手じゃ大抵の人は勝てないと思うよ。そう言えば、朔も喧嘩強いよね。格闘技とかやってたの?」
「小さい頃から色々やらされたけど、空手と弓道は結構真剣にやってたな」
「それでかな。朔の所作が綺麗なの」
「そうなのか? もっとガツガツしてるほうが男らしいか? 好きか?」
「んー····男らしいかもしれないけどね。朔の所作、見惚れちゃうくらい好きだよ。見てて落ち着くの」
「それはなんとなくわかるわ。大畠なんかずっとうるせぇもんな」
「なんだとー」
「啓吾はそれが可愛いからいいの。大人しい啓吾なんて心配になっちゃうよ」
「確かにね。そう言うゆいぴは、ちょこちょこしてて可愛いんだよ」
「嬉しくないよ····。僕、男らしくなるの諦めてないからね」
「そうなんだ。んじゃ、筋トレ再開する?」
「ゆいぴ、筋肉付きにくいみたいだし難しそうだよね。ランニングで体力つける方がいいんじゃない?」
「体力の方がいいな。ヤッてる最中に気絶しなくなるまでは頑張ろうな、結人」
「あれは体力とかの問題なの?」
「さぁ? けどまぁ、体力があるに越したことはねぇだろ。お前、3階からあそこまで走って行くん必死だったんだろ?」
「うん。あっ、僕も八千代みたいにパイプ伝いに──」
「できるわけないでしょ。場野は野生児だからできたの。ゆいぴは真似しちゃダメだよ」
「誰が野生児だコラ」
りっくんがいつも通りデコピンをくらった。悶えるりっくんを見て皆で笑う。いつも通りの僕たちだ。
こんな日常が崩されないように、僕は言動に気をつけなくてはいけないと改めて思う。
明日、昂平くんから色々聞き出すために、りっくんと啓吾はまた1年生のクラスに向かうらしい。2人で行かせるの、正直嫌だな。
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