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思わぬ手応え

 夕飯に呼ばれたので、トイレに寄って顔を洗い、蕩けた顔とはおさらばしてリビングに集まる。  なんだか躍起になっている2人が、バカな事を口走らなければいいのだが····。 「簡単な物しかできなかったけど、沢山食べてね」 「お、ハンバーグ····ふふっ······」 「啓吾、笑わないでよ」  テーブルに並べられたハンバーグを見て、啓吾が笑いだした。きっと、母さんが作っているところを、僕と重ねて想像したのだろう。 「あら、どうしたの?」 「こないだ啓吾にね、料理教えてもらったんだ。でね、八千代の家でハンバーグ作ったんだけど、なんかいっぱい笑われたの」 「えぇ〜····。結人に料理させようとしたの? 無謀ねぇ」 「ぶはっ····。あっ、すみません。ホント、結人に料理させんのマジで怖かったです」 「そうでしょ? 昔、包丁持たせたら、握ったまま振り返られてねぇ。危うく刺されちゃうとこだったのよ」 「ひぇ····二度と結人に包丁持たせません」  啓吾は、血の気が引いたような顔をして、ぽそっと呟いた。  皆は笑っていたが、内心では僕に危険な事をさせないと誓ったことだろう。僕だって、慣れればできるはずなのに。    良い雰囲気で食卓を囲み、啓吾を中心に随分と慣れ親しんだようだ。おばあちゃんの時といい希乃ちゃんの時といい、啓吾の人懐っこさには感服する。  しかし、そんな啓吾でさえたじろがせてしまうのが、母さんの凄いところなのだ。 「ねぇ結人。啓吾くんって普段もあんな感じの服なの? この間来た時と、随分雰囲気が違うなぁって····」  母さんが、僕にこそっと聞く。これは、挨拶だから気合い入れて来ましたって言っていいのかな。 「普段····、普段はねぇ······。こないだ来た時のが普段着かな」  答えが出なくて、啓吾を見ながら正直に言ってしまった。 「ん? 何が」  やばい。啓吾に聞こえてしまったようだ。 「啓吾くん、この間来た時の服装も素敵だったねぇって。なんだかね、啓吾くんの雰囲気と服装がちぐはぐな気がして、結人に聞いたのよ。服装だけだと····りっくんって感じねぇ」 「あはは。おばさん、大正解だよ。これ、俺の服だから」 「やっぱりぃ! なんかね、りっくんっぽいなぁって思ってたのよ。挨拶だから?」  こういうデリカシーの無さは、母さんの悪い所だ。啓吾が気恥しそうにしているじゃないか。 「え、まぁ、はい。俺、チャラチャラした服しか持ってなくて····」 「あらぁ、カッコイイなぁって思ってたのよ。凄く素敵だったわよ」 「マジっすか。ありがとうございます」 「今度からは、いつも通りのあなたでいらっしゃいね。場野くんも」 「え、俺もですか? 俺は自分の服ですけど」 「ん〜····何か違うのよねぇ。結人に修学旅行の写真見せてもらったんだけど、もっとこう····派手な感じ? だったような····」 「お前、何見せたんだよ」  八千代に問われ、一日目のホテルの部屋で撮った写真を見せた。ジャージを着崩した啓吾とりっくん、ヤンキーが着てそうなジャージを来た八千代、学校のジャージかってくらい地味な僕と朔が写った写真だ。見せる写真を選ぼうにも、八千代が写真を嫌がるから揃って写っている写真が数枚しかないのだ。 「これだよ。八千代、ほとんど写真撮ってくれないんだもん」 「確かにそれ、場野はチンピラみたいだよな。背中のデッカイ犬やばくねぇ? それ、チンピラ御用達のブランドだろ?」 「啓吾、それはブランドに対して失礼だよ。八千代だって、学校のジャージ着てたらチンピラには見えないよね?」 「んー······ギリ?」  啓吾は悩んだ末に、首を傾げて八千代に忖度した。 「お前ら、マジで俺がチンピラに見えてんのか?」 「「「「見えてる····」」」」  僕たちが声を揃えて言うと、父さんと母さんが笑った。なんだろう、この幸せな空間は。大切な家族と、大好きな彼氏たちが笑って食卓を囲んでいる。これ以上ないくらいの幸せじゃないか。  僕は恵まれ過ぎているんだと、ひしひし感じる。そして同時に、笑顔の裏で少しずつ不安が堆積してゆく。  食後のお茶を啜りながら、父さんがタブー的な質問を投げた。 「ところで莉久くんは、よくこの関係を受け入れたね。君の性格的に····というかまぁ、昔からアレみたいだし、下世話だけど取り合ったりはしなかったのかい?」 「ははは、まぁ····。ゆいぴを、俺だけのものにできたら良かったんですけど、それはゆいぴにとっては最善じゃなかったんです。俺は、ゆいぴが1番幸せだと思う形で、死ぬまでゆいぴの傍に居られたら、それだけでいいんです」 「君たちは····、結人と同い年とは思えない懐の深さだねぇ。私が言うのもなんだけど、それでいいのかい? 君たちなら、女性からも引く手数多だろうに····」 「俺は、ゆいぴが好きです。誰に何と言われても、俺が愛せるのはゆいぴだけなんです。他の誰かじゃ誤魔化せませんでした」  なんて恥ずかしい事を言うんだ。聞いているほうが、顔から火を吹いてしまいそうだ。 「そうか····。君も、色々抗ったんだね。その結果、と言われちゃ反対のしようがないよ」 「実は、俺がゆいぴを想うのは、ゆいぴにとって迷惑だろうと決めつけて、一度は想いを断ち切ろうとしました。でも、どう頑張ってもできなくて。そしたら、ひょんな事から付き合えてしまって」  りっくんは、僕への積年の想いを込めて静かに語る。飲みかけのお茶を見つめ、湯呑みを持つ手にグッと力がこもっている。 「このチャンスだけは手放せないと、本当に必死でした。今でもです。これを逃したら二度とチャンスは来ないだろうから····。おじさん達にとっては、本当に色々と申し訳ない道を選んでしまうんですけど、どうか、俺たちがゆいぴと生きることを許してください」  りっくんは、深々と頭を下げた。 「莉久くん、頭を上げてくれないかい。許すも何も私達は、今のところ反対できる要素が思い当たらなくてね。心の整理に少し時間はかかるかもしれないけど、君たちを受け入れようと思っているよ。それに、結人の人生なんだ。共に生きる人を決めるのは結人だからね」 「りっくんは、昔から結人が何より大好きだったものねぇ。中学に上がって、少し距離ができたのかなって思ってたんだけど、そういう事だったのね。やっぱりあなたは、何を置いても結人が1番なのね」 「そこは一生変わりません」  りっくんは、何を自信満々に言っているんだ。恥ずかしくて、僕が顔を上げられない。 「莉久くんはアレだね。重いね。いやぁ〜、若い頃は私もそうだったねぇ、母さん」 「そうだったわね。りっくん程じゃなかったと思うけど、なんだか既視感があるのよねぇ」 「そうなの? え、父さんってそんな感じだったの?」 「そりゃぁ、親になってからは控えてるけどね、元々は莉久くんに近いものがあったね。だから、気持ちはわかるんだよ」 「莉久が行き過ぎた時は、俺たちが責任を持って止めます。時々、結人の事になるとぶっ壊れるんで」  八千代が偉そうな事を言っている。が、八千代だって人の事を言えないと思うのだけれど。 「ははは。荒事は、全て君たちが引き受けてくれているんだろうね。結人は守られてばかりじゃないのかな?」 「いえ、結人は俺たちを支えてくれてます。表に立つのは俺たちですけど、結人は俺たちの心の拠り所になってくれてます。役割分担って感じですね」  朔が即答する。僕が皆を支えている? そんな事、できた試しがないと思うのだけど。心の拠り所なんて、それこそ逆だ。皆が居てくれるから、これまでだって立ち直れたのだ。 「結人は、俺たちの弱い部分を直感で気づいて守ってくれるんです。多分、本人も自覚のないまま。俺たちは何度もそれに救われてます」 「朔····。僕、そんな大それた事できてないよ? 助けてもらってばっかりで、何も返せてないのが心苦しいくらいなのに」 「ゆいぴはね、居てくれるだけで俺らの支えになってるよ。だいたいね、俺らがしたくてしてる事に、ゆいぴが負い目とか引け目を感じる事ないの。いつも言ってるでしょ?」 「ぅ····そうでした。ねぇ、親の前でそれやめてよ。恥ずかしいんだけど」  触れ合いこそしないものの、イチャついてる感が否めない。親が目の前で見て聞いているのに、本当に恥ずかしい。 「あはは、ごめんね。でも、本当にゆいぴは俺らの支えになってるんだよ」 「そうなの? ん〜····ホントに思い当たることがないんだけどなぁ」 「母ちゃんに心無い事言われてさ、結人が連れ出すために俺の手引いてくれたじゃん。それにほら、朔が1人で居られないようにしてやるとか言ってただろ? そういうトコだよ」 「······んぇ?」 「あははっ。なんでわかんねぇの? 結人にとっては何でもない事かもしんないけどさ、俺らにはそれをしてくれる人がいなかったんだよ。結人はさ、自分でも気づかないうちに、俺らの心のほうを救ってくれてんの。わかった?」 「わ、わかった。から、もうやめてぇ····」 「やだぁ、私達まで恥ずかしくなっちゃったわ」  僕につられて、父さんと母さんも顔を赤らめて俯いてしまった。 「ははっ、すんません。けど俺ら、ホント上手い具合に支え合えてて、誰かが欠けるとバランス悪くなっちゃうんです。結人をきっかけに、すげぇ良い関係築けてるなぁって思うんです」  啓吾が真面目な顔をして、まだまだこっ恥ずかしい事を喋っている。そろそろ口を塞いでしまいたいが、今は黙って聞く他ない。 「特に、俺と場野は人生変えてもらいました。たぶん、結人が居なかったら、俺らはまともに前向けてませんでした。場野は不良のままだっただろうし、俺は家で殴られ続けてました」 「啓吾くん····。やだ、ごめんなさい····」  母さんが泣き出してしまった。啓吾のもしもの話が耐えられなかったのだろう。 「や、俺のほうこそすいません。ホントに、結人には感謝してるって言いたかっただけで····。俺ら、結人の前ではカッコつけてばっかなんですけど、結人が居ないとホントダメなんです。だから、結人に一緒に居てほしいんです。あー····れ? 頼んなくてすいません」  こんなはずじゃなかったのに····。そんな顔で照れて笑う啓吾が可愛い。けど、僕も母さんも涙が溢れていて、気づけば父さんまで涙ぐんでいた。 「え、なんで泣くんすか? ちょ、結人まで? なんで?」 「啓吾が悪いんだよ····。僕、そんな感謝されるような事してないのに。啓吾は正直すぎるんだよぉ」 「啓吾くん、いつでもうちにいらっしゃいね。やだぁ、抱き締めたくなっちゃうじゃない····」  母さんの母性本能が大変だ。啓吾の特技が暴走している。 「母さん、ダメだよ。僕の彼氏なんだから····。ティッシュ取って」  僕と母さんは、暫くグズグズになっていた。それを見て、皆と父さんは呆れて笑っているようだった。  それぞれに言いたい事を言えたようで、有意義な時間を過ごせたのではないだろうか。結果オーライと言ってしまうと軽いかもしれないが、最難関と思われた説得が済んで一安心だ。  あと、残すところと言えば、りっくんの家とストーカー問題だ。りっくんは、挨拶のほうは難しくないだろうと言っていた。が、ストーカーは気掛かりなようだ。  どうにか解決策はないものだろうか。  挨拶から数日後、春休みの最終日。  皆でショッピングモールにデートに来ている。今日の目的は、お揃いの物を買う事だ。 「お揃いつったってよぉ、修学旅行ん時にキーホルダー買っただろ」 「お揃いはいくつあっても、僕は嬉しいけどなぁ」 「んじゃ、ペアリングにしねぇ?」  啓吾の提案に、全員が乗った。そして、朔が僕に聞く。 「けど、なんで急にお揃いの物なんだ?」 「だって、これから僕たちの事を広めるんでしょ? お揃いの物とか持ってたら、少しでも信憑性があるかなぁって。キーホルダーはね、旅の思い出って感じだからさ」 「なるほどな。それは一理あるかもしれねぇな。俺も、結人とお揃いはいくつあってもいいと思う」  そう言って、朔は僕の腰を抱いて歩き始めた。 「あ、朔ズルい」  啓吾が、朔と反対側の手を繋ぐ。僕はそれを拒まない。  僕の家に挨拶に来たあとから、僕たちは外でも男女のカップルのように接する事にしたからだ。もう、こそこそと隠れる必要もなくなったのだから、この際と思って解禁した。  するとどうだろう。外でもお構い無しに僕の取り合いだ。ひとつ失念していたのだが、多対一なのだった。僕は早くも、解禁してしまった事を後悔している。  けど、今更ダメとは言えないのだ。解禁だと言った瞬間の、皆の嬉々とした顔を見てしまったら、やはりやめようとは言えない。 「ねぇ、ペアリングって······僕、4つも指輪着けるの?」 「それちょっとねぇ。どうしよっか····」  りっくんが唸っていると、朔が不思議そうに言った。 「全員で同じの着けたらいいんじゃないのか?」 「うーん。それだとなぁ····」  さらに、りっくんが唸る。意味が分からないという顔の朔に、啓吾が言う。 「俺らと結人の繋がりって感じしなくない? 俺ら全員って感じじゃん?」 「ん? 全員じゃダメなのか?」 「僕以外も、好き合ってるって思われるって事じゃない?」 「それ! それは違うだろ?」 「なるほどな。そうか····。難しいな」  りっくんと啓吾、朔が立ち止まって悩み始めた。それに痺れを切らしたのか、八千代が提案した。 「俺らが同じので、結人だけ色違い着けたらいいんじゃねぇ?」 「なるほどな。それいいんじゃね? 俺らが同じのっつぅのが引っかかるけど」 「それなら、俺らと結人のがペアだって、一目でわかるようなのにしたいな」 「そうだね。とりあえず、見に行ってみよっか」  そう言って、今度はりっくんが僕の手を引いて歩き出した。こんなに嬉しそうに触れられると、ダメだなんて言えないや。周囲の視線なんて、気にならないくらいに ドキドキしているし、触れているのはやはり心地良い。  お店で指輪を見ている間も、皆が好き放題に触れてくる。気に入る物は見つからなかったが、それぞれのサイズがわかっただけでも良しとしよう。  僕たちは休憩がてら、フードコートでおやつを食べることにした。クレープが美味しそうで、お腹が鳴ってしまったのだ。 「りっくんと啓吾は、今まで女の子とペアリングとか、そういうのしなかったの?」 「俺、付き合ってねぇのにペアとかしないよ? そういうのが面倒だから付き合わなかったんだし」 「お前、なかなか最低な事言ってんぞ。女の敵じゃねぇか」  朔が、啓吾に冷たい視線を向けて言った。 「え、なんかごめん。でもさぁ、好きでもないのに付き合うほうがヤじゃね?」 「ちょ、啓吾、なんで俺のほう見んの?」 「だって、莉久はちゃんと付き合ってただろ? 1ヶ月もったことなかったけどさ。ペアとか持ったことねぇの?」 「ないよ。そういうのは一切しなかった。勝手に贈ってきた事はあったけど、受け取らなかったし」 「なんでだよ。女の子可哀想じゃん」 「なんでって····。ゆいぴが好きだったからだよ」 「りっくん····。ホント酷いよね」  僕は頬を染めながらも、すぐに女の子に対しての不誠実さ責めた。それが、りっくんなりの僕への誠実さだったのだとしてもだ。結果としてストーカーまで生み出しているのだから、決して褒められたものではない。 「そういやさ、お前のストーカーどうなの?」 「あぁ····。それが昨日ねぇ、やっばい手紙届いた。あれはダメなやつだったから、早めに対処しようと思ってるよ」 「どんなん来たんだよ。またカッターの刃か?」 「いや、写真。俺らとゆいぴの隠し撮り。完全にイチャついてるやつ。あればら撒かれたら、片想いって設定通んない」 「マジか。お前それ持ってきてねぇの?」 「持ってきたよ。見たいだろうと思って」 「「「見たい」」」 「お〜、よく撮れてんじゃん。これ、俺とのツーショだ。結人の顔バッチリ撮れてんね」 「これ俺と結人だ。真正面から撮ってるな。全然気づかなかったけど、これ良いな。貰うぞ」 「俺と結人のは全部貰うぞ。つぅかこれ、何枚あんだよ」 「100枚近くあったよ。俺とゆいぴのでアルバム作った」 「ねぇ、皆それ盗撮されたやつだよね。なに普通に、思い出の写真選んでるみたいになってんの?」 「だってさ、こんな写真普段撮んねぇだろ? めっちゃレアじゃん? 俺もアルバム作れそうなくらいあんだけど」 「こりゃすげぇな····。お、これ年末のじゃねぇ? カウントダウンの時の。つけられてたんじゃねぇかよ」 「マジでやべぇな。全然気づかなかったぞ。こいつ、特殊な訓練とか受けてるんじゃねぇか?」 「たぶんね、僕らが浮かれすぎて周り見てなかっただけだと思うよ。けどこれ、ストーカーさんは何がしたいんだろう····」 「だよなぁ。こんだけ証拠あったら、バラすなり脅すなりできんだろうし。わざわざ莉久に送りつけてくる意味がわかんねぇ」 「俺も意味わかんないけど、ここまでされちゃ放っておけないでしょ。手は打つよ」 「どうすんだ? 女絞めるワケにもいかねぇだろ」 「だよねぇ····。どーしよっかな〜」 「ん? これ、結人ん家じゃねぇか?」 「え、どれ? 昨日こんなの無かったと思うけど····」 「これの裏に貼りついてたぞ。隠されてた····って事だよな?」 「これって、こないだの挨拶ん時の帰りじゃねぇ?」  皆は、気取られないように一斉に周囲を見回した。 「居た。三本目の柱んトコ。白いワンピの子じゃね? 怪しすぎ」  啓吾に言われて、僕たちは気づかれないように目標を確認する。 「何持ってんだアレ····。あぁ、カメラか。こっち見過ぎだろ。俺ら、よくあれで気づかなかったな」 「つかマジで結人に似てんのな。たぶん、結人が着てても違和感ねぇぞ。今度着せてみねぇか?」 「いいね。ゆいぴは白映えるからいいよね。夏なんか、大きい麦わら帽子もいいんじゃない?」 「そうだな。色々と見繕ってみるか。今度着せ替えしてみよう」 「何言ってんの!? そういう話じゃないでしょ? だいたい、女装とかしないからね」 「女物のサンタの服着てたじゃねぇか。今更だろ。遊びだ、遊び。ちょっとくらい付き合えよ」 「なら、八千代も着てね」 「アホか。着ねぇわ。キモイだけだろ」 「確かにキモすぎな。よし、んじゃ行ってくるわ」 「え、啓吾どこ行くの?」 「“智香(ちか)ちゃん”のトコ」 「は? 行ってどうすんのさ」 「お話? 俺以外で、話ややこしくしねぇで戻ってこれるヤツいんの?」  なんて言って、啓吾はトイレに立ったふりをして、ストーカー先輩の所へ行ってしまった。 「啓吾、どうするつもりなんだろうね」 「消去法で啓吾しかいないけど、啓吾も充分ややこしくしてきそうなんだけどなぁ····」 「なぁ、それはそうと明日からどうするんだ? 噂広めるつっても、何をどうやって広めていくんだ?」  突如として、朔が作戦会議のような雰囲気で話し始めた。真面目なのか、ふざけているのか分からない。 「いつも通りでいいんじゃない? ゆいぴがしれっとしてたら」 「えっ、僕!? しれっと····って何?」 「俺らはゆいぴにベタベタするけど、ゆいぴは迷惑そうにしてくれてたらいいよ。いかにも、拒否ってます〜って感じで」 「で、できるかな?」 「なるほどな。結人を感じさせなかったらいけるんじゃないか?」 「そうだな。結局、俺ら次第っつぅ事だな」 「やっぱりヤだ」 「「「え?」」」  3人が僕の膨れた頬を見て和んでいるように見えるが、僕は至って真剣に拒んでいるのだ。 「皆の事拒否するの、ヤだ」 「ゆいぴ、気持ちは嬉しいんだけどね。ここは我儘言われると困るんだけどなぁ·····」 「でもヤだ。僕、ビッチでもいい」 「ビッチで良いわけねぇだろ。また狙われるかもしれねぇんだぞ」  朔が少し怒っているようだ。 「でも····。ん? ペアリングって学校では着けないの?」 「つけねぇわ。すぐ取り上げられんぞ」 「はっ····そうだよね······。だったら別のお揃いも買わなきゃだね」 「そうだね。指輪はネックレスに通しとくのも良いんじゃない? それだったら隠せるし。っと、それは置いといてさ。ゆいぴが拒否ってくれないと、ホントにビッチだと思われるよ?」  ネックレスか。学校ではそれでいこう。できれば、肌身離さず持っていたいんだもの。 「あながち間違いじゃないでしょ。そこは別にいいよ。皆を拒否る方が嫌だもん」 「お揃い持ってる時点でわかるだろうけどな。まぁ、押し付けたって言えなくもねぇけど。俺も、結人が拒否るってのがそもそも難しいと思うぞ」 「やっぱそうか······。じゃ、プラン2だね。普通に付き合ってる感じでいこっか」  作戦も何もあったものじゃない。りっくんが投げやりになっている気がする。 「お前、なんでここにきてテキトーになってんだよ。真剣に考えろや」 「テキトーじゃねぇよ。めっちゃ考えたよ。ゆいぴが嫌がんなかったらラッキーくらいに思ってたけど、気づいた時点で嫌だって言い出すとは思ってたし。そうなったら、これしかないでしょ。ゆいぴがアレコレ言われんの嫌だったから、できたらプラン1でいきたかったんだけどなぁ」 「えっと、ごめんね?」 「いいよ。ゆいぴの気持ちが1番だからね。それに、イチャつけるのは俺も嬉しいもん」 「問題はあれだな。限度だな。俺ら、人前だからって加減できねぇのマズイだろ。先生に問い詰められんのが1番めんどくせぇぞ」  朔が言うと、八千代とりっくんが唸った。 「そうだな。つーか限度ってドコだよ。その辺、俺ら経験ねぇからわかんねぇな」 「俺も、元カノとイチャついた事なんかないからなぁ····どの辺からアウトなんだろ」 「あのね、僕が感じちゃうのがダメなんじゃない? そこはプラン1のままで良くない?」 「なるほどな。そうか。それじゃ、それでいこう」  ······僕たち、大丈夫かな?  不安は拭いきれないが、なるようになるだろうという事で朔が話を締めた。行き当たりばったり感が凄いが、僕たちらしいと言えばそうなのかもしれない。  僕がクレープを食べ終わった頃、啓吾が戻ってきた。何を企んでいるのか、したり顔で僕とりっくんにミッションを下す。

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