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こんな日がいつか来ると思ってた

 いよいよ、皆が僕の両親に挨拶に来る日。  昨夜はソワソワして眠れず、結局寝たのは朝方だった。なのに、予定よりも早く目が覚めてしまい、頭が変に冴えている。  八千代と啓吾の家には勢いで行ってしまったし、こうして待ち構えるのは初めてだ。今にも心臓が飛び出してしまいそうなくらい緊張している。この僕が、朝食も昼食も喉を通らなかった。  約束の時間は14時。あと20分足らずで皆が来る。僕が落ち着かない所為で、父さんと母さんも緊張しているようだ。 「ねぇ、結人。今日は何のお話なの?」 「えっとね、えーっと、凄く大事な話なの。何の話かはまだ言えないんだけど····」 「そう····。ちょっと落ち着きましょ。ホットミルクでも入れてこようかしら」 「あ、僕が入れるよ。母さんはゆっくりしてて」  僕は、ボーッとしながらホットミルクを入れる。まさに、心ここに在らずだ。 「はい、母さん。父さんもどうぞ」  僕たちは、心を落ち着かせるためにホットミルクを啜った。 「結人、これ····お塩入れたんじゃない?」 「あれ? 砂糖って書いてるほう入れたよ」 「母さん、また砂糖と塩を詰め間違えたんじゃないかい?」 「あらやだ。またやっちゃったかな? ごめんね」 「あはは。母さん、ホントおっちょこちょいだねぇ」  いつも通りの我が家で、少し落ち着きを取り戻した。が、それはほんの一瞬だけだった。  ──ピンポーン  来た。来てしまった。さぁ、いよいよラスボス戦が始まる。僕は、そんな心持ちで皆を迎え入れ、リビングへと通した。 「えーっと、とりあえず飲み物ね。皆、コーヒーでいいかしら?」  たぶん、皆が“大人っぽいから”的な理由でコーヒーと言ったのだろう。皆、同級生だと伝えてあったのだけれど。早くも、母さんが落ち着けていない。 「はい、ありがとうございます」  啓吾がちゃんとしている。ピアスも全部外してきているじゃないか。流石の啓吾も、緊張しているようだ。 「あ、俺手伝います」 「あらりっくん、ありがとう」  りっくんはいつも通り、母さんに取り入るように率先して手伝いを申し出る。これは昔から変わらない。 (皆も、凄く緊張してるなぁ····。ちゃんと話できるのかな····) 「おばさん、俺が持ってくよ」  りっくんはスマートに母さんを手伝い、慣れた様子でキッチンから出てくる。 「ありがとう。これ、ミルクと砂糖はお好みでどうぞ」 「うん、ありがとう」  りっくんがコーヒーを配り終えると、漸く全員が席に着いた。  まずは、僕が皆を紹介する。母さんは、イケメン揃いで少しウキウキしている。そして、一瞬の沈黙を置いて、父さんが口火を切った。 「それで、今日は何の話かな」  誰が返すのだろう。 「今日は、時間を作って頂いてありがとうございます。結人と俺たちの事について、大切な話をしに来ました」  朔が凛とした姿勢で話し始めた。恋人フィルターがかかっているからだろうか、とってもカッコいい。  けど、朔の詰め込み方式の説明で大丈夫だろうか。不安が過ぎる。 「俺たち、去年の夏くらいから将来を見据えた交際をしています。高校を卒業したら、一緒に暮らすつもりです。今日は、ご挨拶とその許可を頂きにきました」 「······えーっと、ん?」  やはり一気にいった。母さんが完全に取り残されている。今日は、情報量の多い一日になるだろうから心配はしていたのだけれど、初っ端からこれか。一筋縄ではいきそうにない。 「あのね、色々と思う所はあるだろうけど、もうちょっと噛み砕いて説明するね」  僕は、八千代に告白されたところから、朔と付き合うまでをざっと説明した。勿論、淫らな行為についてはトップシークレットだ。  いつも皆が僕を助けてくれる事、どれだけ僕を想ってくれているかという事、僕がどれだけ皆を想っているかという事。ゆっくりと言葉を選びながら、丁寧に語っていった。  父さんも母さんも、最後まで静かに話を聞いてくれた。 「そう。あなた達の事はよくわかったわ。とりあえず、コーヒー冷めちゃうから飲んでね」  おそらく、半分くらいしかわかっていないだろう。理解がまるで追いついていないって顔をしている。 「いただきます····ぐふっ」  コーヒーを啜った啓吾が噎せた。それに続いて、りっくんもカップを置いた。 「あー····、おばさん。これ多分、砂糖じゃなくて塩だよ」 「え? ····やだぁ。さっき結人がホットミルク作った時に言ってたのに····。入れ替えるの忘れてたわ。ごめんなさいね。すぐ入れなおしてくるわね」  母さんは慌てて、コーヒーを入れなおしにキッチンへ行った。そして、父さんが重い口を開いた。 「君たちが、結人の大切な人だということはわかった。私は随分長いこと、この子を放ったらかしにしていたものだから、実質育てたのは母親でね。私からとやかく言える事はないのだけど、まず····」  僕たちは、固唾を呑んで父さんの言葉を待つ。 「結人が優柔不断で君たちを振り回しているのじゃないかと心配で····」 「いや、それはまぁ、そうなんだけど、そうじゃなくってね····」  真っ先にそれか。どこかで突っ込まれるだろうと覚悟はしていたけれど····。 「それについては、俺たちが選ばせませんでした。俺も最初は結人に選ばせようとしました。けど、莉久に万が一を考えろって言われたんです。万が一にも選ばれなかった事を考えると、どうしても答えを出させる事ができませんでした。結人が選べなかったのは、俺たちの我儘の所為です」  八千代は包み隠さず真実を述べた。けれど、選べなかったのは、皆が悪いわけじゃないのに····。 「そう····か。君たちがどれほど結人を想ってくれているのかはわかったよ。えっと、場野くん····。失礼な事を聞くけど──」  父さんが聞き辛そうに言葉を選ぶ。 「はい。俺の実家は、千流鶴慈會(ちりゅうかくじかい)という暴力団です」 「やはりそうなんだね····。結人は知ってるのかい?」 「うん。八千代はね、僕と居る為に家を継ぐのをやめてくれたの。家を捨てるとか言い出したから、僕が止めたんだ。あのね、八千代のご両親もお姉さんとお兄さんもね、凄く良い人たちだったよ。ヤクザ屋さんだなんて思えなかったくらいなの」 「あはは。結人がそう思ったんならそうなんだろうね。私は結人を、場野くんの誠実さを信じるよ。けど、母さんは何て言うか····」  父さんは、キッチンから戻った母さんをチラッと見て言った。 「私は····、反対よ。結人を信じないわけじゃないの。けど、いくら良い人でも暴力団なんて····」  母さんは震える手で、入れなおしたコーヒーを配る。りっくんがそっと母さんの手を止めて、代わりに配る。 「いいよ、おばさん。俺がやるから座ってて」 「りっくん····ありがとう······」  母さんが席に着くと、八千代は母さんを真っ直ぐに見て話し始めた。 「わかってます。反対される事も覚悟してました。······結人に親と縁を切らせるわけにはいかないと思って、俺は骨肉を裂くつもりで身を引こうと思ってました」  骨肉を裂くって何だ。痛そう····。けど、それくらいの覚悟で身を引こうとしてたんだ。 「それを僕が止めたんだ。僕が、一緒に住むなら八千代も居なきゃ嫌だって····我儘言ったの」 「あ、あなた達は、それで満足してるのかも知れないけどね。まずね、私はまだ、あなた達の関係を受け入れられてないの。普通じゃないでしょ? 結人1人に4人も、それもこんなにカッコイイ子ばっかり····。新手の詐欺とかじゃないの? それにね、まさか結人が、そんなに早く家を出るなんて思ってなかったから····」 「母さん、落ち着きなさい。彼らだって、結人だって、よく考えた上で私達に話してるはずだよ? それと、詐欺ではないと思うよ」 「そう····よね。結人には、ずっと私の所為で自由にさせてあげられなかったから、これからは沢山楽しんでほしいと思ってるのよ。けど、こういう形で、それも危険が伴うなんて、私はどうしても認められない····」 「母さん····。僕は、それでも皆と居たいんだ。母さんが許してくれなくても、卒業したら一緒に住むつもりでいるよ」 「結人、それはダメだって言っただろ。俺ん時、結人がずっと気にしてくれてた事じゃん。俺らだって、まんま同じ事思ってるよ」  事情を知らない父さんと母さんの頭上には、疑問符が浮かんでいる。 「あの、俺この間家出たんです。俺ん家、ちょっと面倒くさくて····」  啓吾が大雑把ではあるが説明してくれた。それを聞き終えた父さんは、母さんの肩に優しく手を添え諭すように話し始めた。 「凄いね。しっかりした子たちじゃないか。母さん、結人ももう子供じゃないんだよ。自分で大切な人を見初めて、誰と生きるか考えてるんだ。私達が想定していたよりも、少し時期が早いだけでね。私達が応援してあげなくちゃ、彼らの味方が居なくなってしまうよ」 「だけど····こんな関係普通じゃないわ。どうかしてるわよ····。結人には普通に幸せになってほしいの! 一緒に暮らすだなんて、結人を連れていくなんて····許しません!」 「母さん。彼らにとっての幸せが、私たちの普通じゃないからと否定してはいけないよ。それに、結人が家を出てしまっても、これからは私が居るから、ね。少し落ち着こうか」  取り乱した母さんを、父さんが制してくれる。 「····母さん。僕ね、今すっごく幸せなの。僕だって、女の子と結婚して子供ができて温かい家庭を、ってずっと思ってた。それが普通なんだって。けど、僕が見つけた幸せはね、皆と一緒に居ることだったんだ。まだ、信じてもらえないかもしれないけど、一時の感情で言ってるんじゃないよ」 「ダメ。今は周りが見えなくなってるだけなの。絶対に辛い思いするわよ? 周りからの視線に押し潰される時が来るかもしれないのよ? それにね、結人が考えてるほど世の中甘くないの。バイトもした事のない結人が、どうやって生活していくの?」 「僕より皆がね、凄く周りに注意して僕を守ってくれてるの。僕だって、それに頼りきりにならないように頑張ってるよ。それにね、学校にはね、僕たちの味方になってくれる人もいるの。僕たちの関係を知って、守ろうとしてくれてる人達がいるんだよ。それに、バイトだってこれから──」  僕だって働くと言おうとした矢先、朔が割って入った。 「お母さん、それに関しては俺らが結人を養います。バイトなんて、不安しかないのでさせないつもりです。どうしても働きたいとゴネたら、俺の会社で働かせます。結人には一切危険が無いよう、俺たちが全力で守ります」  ここまでせっかくシリアスだったのに、朔が真面目に天然を炸裂してくれた。絶対に今言う事じゃないだろう。 「あなたの会社って····、あなた社長さんなの?」  母さんも、気になるのそこなんだ。僕が養われるとか、働きたいとゴネるとか、気にすべき所は他にもあったはずなのに。 「まだ社長じゃありません。まずは、大学在学中に子会社の管理からという話ですが、いずれは父の会社を継ぐ手筈になっています。あと、家はセキュリティを万全に備えた一軒家を購入する予定です。できれば、この家から遠くない所でと考えてます。資金は場野と2人で準備していて、目処も立っています」 「朔、ちょっ、待っ──」  りっくんが何かを察し、朔を止めに入った。けれど、朔は止まらない。 「生半可な気持ちでここまで来たわけじゃありません。結人と、一生添い遂げる覚悟と計画があります。俺たちが責任を持って、結人を幸せにします。結人が泣く事のないように、今以上に、生涯全力を尽くします。だから──」 「朔待て!」 「朔ストップ!!」  八千代と啓吾も必死に止めようとするが、朔の口を塞ぐものはなかった。そして、ついに言い放ったのだ。 「結人を俺たちにください」  朔は、父さんと母さんをまっすぐ見て言った。言い切った朔は、深々と頭を下げた。 「「「あーぁ······」」」  りっくんと啓吾、それに八千代は揃って項垂れた。 「待ってね。待って。ごめんなさい。ついていけなかった」  母さんだけでなく、父さんまでポカンとしている。無理もない。どれだけの情報量を叩き込めば気が済むのだろうか。僕の親を舐めてもらっては困る。僕以上におっとりしているのだから。 「父さん、母さん。あのね、朔が今言った通りなんだけど、僕が安心して暮らせるように家を買う予定らしいんだ。で、えっとね、朔のお父さんが大きい会社の社長さんでね、朔は後継ぎなんだって」 「へぇ····。お金持ちって事なのかしら? 凄いわねぇ」  ダメだ。母さんが、考えるのを諦め始めている。 「あのね、養うとか言われてるけど、僕だって働くよ。けど皆にね、僕がぽやんとしてるとか言われててね、外で働くのが心配だって言われちゃったんだ····。だから、朔の会社が軌道に乗ったらね、そこで働けばいいって言われてるの。あと八千代も、投資? とかでお金稼いでるの。2人とも凄いんだよ。ホントに呆れるくらい、僕の為だけに頑張ってくれてるの」  あれ? これって、説明になっているのだろうか。 「えぇ····、それで、家? ん?」 「ほら、朔がいっぺんに言うから、母さんフリーズしちゃったよ····。父さん、どうにかして?」 「えっ、私が? えぇ〜····無理だよ。まぁ、君たちが安易に考えてるわけじゃないのはよく分かったよ。えぇっと······あぁ····そうか、瀬古くんだね。私がこの家に帰れたのは、君のおかげなんだろう?」 「え····っと、ご存知だったんですか?」 「なんとなくね。専務からそれとなく君と結人の話をされて、おやっと思ってたんだ。ただの友達だと思っていたから、妙な縁があるものだと思っていてね。そういう事だったんだね。私がヘッドハンティングされるなんて、奇跡みたいな事があったもんだと思ってたんだよ。はははっ」 「あの、出過ぎた真似をしてすみませんでした。結人から事情を聞いて、衝動的に動いてしまいました····」 「いや。初めは衝動的だったとしても、簡単にできることじゃないよね。君の力添えがなかったら、こうして家に帰ることもままならなかったんだ。感謝こそすれ、責める義理はないよ。本当にありがとう」 「いえ、俺は何も····。父の力に頼っただけなんで」  朔は謙虚に徹した。と言うか、本当に自分は何もしていないと思っているようだ。 「父さんは、僕たちのこと反対しないの?」 「反対はしないよ。ただ周囲とは違うってだけの事だからね。母さんが言った通り、苦労する事も多いかもしれないし、辛い思いだってするかもしれないね。けど、それでも一緒に居たいと思えたんだろう? 素敵じゃないか」  父さんが、こんなに前向きに受け止めてくれるとは思っていなかった。 「さっき、瀬古くんも言ったよね。軽い気持ちでここまでは来れないだろう? その誠実さは信用するよ。問題があるとすれば、結人だね」 「え、僕?」 「結人は皆に守られっぱなしじゃないかい?」 「う、えっ、なんでわかるの?」 「やっぱり····」  父さんが、ガクンと肩を落としてしまった。情けない息子だと思われたのだろうか。何の否定もできないのが、僕自身情けない。 「なんの問題もないですよ。俺はゆいぴを守る為に生きてますし、ゆいぴに頼られるのが俺の最高の喜びなんで。むしろ、もっと頼ってほしいくらいです。ゆいぴは1人で頑張りすぎちゃうから」 「うふふ。りっくんは昔から変わらないわねぇ。かなり悪化してるみたいだけど」  少し気が緩んだのか、母さんが笑ってくれた。りっくん、グッジョブだ。 「わかったわ。色々と理解が追いついてない事もあるけど、それは少しずつって事で。けど、卒業したら家を出るっていうのは考えさせて。もう少し、心の準備をさせてください。それに、あなた達が本当に信頼できるか判断したいの。それから返事をしてもいいかしら?」 「わかりました。安心してもらえるよう、これからの行動で示します。あと、俺の家の事ですけど····」  八千代が話をぶり返す。誤魔化したままにはできないけれど、母さんから許しを得るのは難しいと思う。 「そうそう。“場野組”じゃなかったのねぇ」 「····あぁ、はい。ここら辺ではそれで通ってるんですね。結人から聞いて笑いました。正確には、千流鶴慈會っていいます。まぁ、その、世間からは暴力団と認識されてます」  八千代は静かに語り始めた。母さんが置いてきぼりにならないよう、ゆっくりと話してくれている。 「父の希望で、俺が組を継ぐはずだったんです。けど、それだと結人に危険が及ぶ可能性が否めないと判断して、勘当されていた兄を呼び戻して継がせることにしました。それで話は通してあります」  結局、あの後の事は何も聞いていなかったから、話が纏まっていたなんて知らなかった。 「俺は今後、極力実家とは関わらないつもりです。けど結人が、縁を切るのは絶対に許してくれないんで、家族としての繋がりは保つ方向で話をつけてきました。家の事もそうですけど、不良やってた俺をまともな道に進ませてくれたのは結人です。一生を賭けて、その恩に報いたいと思ってます。お母さんが心配されてるような、危険な目には絶対に遭わせません」 「場野、お前もかよ。待てって」 「俺もまだ言ってないんだけど。ホント待って」  啓吾とりっくんが、八千代の話に割って入ろうとする。しかし、八千代の勢いは止まらない。そして、八千代は頭を下げて言い放った。 「結人の事、俺たちに任せてください」  「八千代····」  朔に続いて、八千代の一世一代的なアレだ。どうしよう、トキメキが止まらない。 「母さん。彼らになら結人を任せてもいいと、私は思うんだけど。どうかな」 「······私は、まだこれからです。卒業するまでに見定めます。だから、たまにうちにいらっしゃい。皆でご飯を食べて、沢山お話して、もっとあなた達の事を知りたいわ」  母さんが、精一杯歩み寄ろうとしてくれている。僕たちは、その事実に喜びを隠せず笑みが零れてしまった。 「そうだね。それがいいね。君たちも知っての通りだと思うけど、結人は本当にぽやぽやしてるから、よく見てあげてください」  父さんと母さんが、皆に頭を下げてそう言った。皆は慌てて『勿論です』と、2人の頭を上げさせた。 「それじゃ早速だけど、夕飯食べていかないかい?」  と、何故だか突然、話がとんとんと進んだ。まさか夕飯に誘われるなんて、上手く行きすぎじゃないだろうか。皆も『いただきます』だなんて即答するから吃驚した。  最後は、僕が置いてけぼりをくらったようだった。豆鉄砲を喰らった気分で、夕飯まで僕の部屋で時間を潰す。  漸く緊張感から開放されて、皆は部屋に入るなり脱力した。そして、母さんの話題に····。 「結人のお母さんさ、キョトンの仕方と考えんの諦めるタイミング、まんま結人だったな。正直さ、何回か笑いそうになって焦った」 「「俺も····」」  八千代と朔が、一連の流れを思い出して笑う。なんだ、案外余裕があるじゃないか。 「俺はアレがやばかった。砂糖と塩。マジで吹くかと思ったぞ」 「それもさ、俺らが来る前に気づいてたのにだろ? お母さん可愛すぎかよぉって、内心悶えてた」 「おばさん、昔からあんな感じだよ。めっちゃ可愛いの。流石ゆいぴのお母さんだよね」 「「「だなぁ」」」  精魂尽きたように、みんな虚ろな目をして喋っている。やはり、精神的に疲れているのだろう。 「だなぁって何? 僕、あそこまでおっちょこちょいじゃないよ」 「いや、変わんねぇよ。······なぁ。俺さ、結人の部屋初めてなんだけど」  そう言って、八千代が迫ってくる。 「俺もだな」  あれよあれよと、八千代と朔に挟まれてしまった。 「ちょっとくらいイチャついてもいいよな?」  八千代が腰に手を回して言う。 「場野さぁ、お前マジで嫉妬深いよな」  啓吾が、八千代を揶揄うように言った。 「うるせぇな。抜け駆けした奴がごちゃごちゃ言うなや」 「そうだ。大畠と莉久は抜け駆けしたんだよな。俺らにだってイチャつく権利はあるだろ? 心配すんな。結人が声我慢してたら大丈夫だ」 「権利って····。あんまりトロトロにしないでね?」 「約束はできねぇな」  八千代の膝に乗せられて、後ろから耳を食べられる。前からは、朔がえっちなキスをしてくる。声を我慢させる気があるのだろうか。 「て言うかさぁ、場野も朔もズルくない? 俺らも、ゆいぴくださいって言いたかったんだけど」 「言えばよかっただろ。俺は、タイミングと勢いで言っちまっただけだ」 「俺も。あぁいうのはタイミングだろ。言い損ねたお前らが間抜けなんだよ」 「もう、八千代はすぐそういう風に言うの良くないよ? んぁ····耳、ぴちゃぴちゃしないでぇ」 「まぁ、まだ晩飯ん時にチャンス狙えんじゃん? 俺も絶対言うかんな」 「俺だって言うし」  何を張り合っているのだろうか。僕はもう、朔と八千代のを聞いただけで胸がいっぱいなのだが····。  えっちこそしないものの、身体中を好き放題に弄られ、結局ヘロヘロになってしまった。そんななか夕飯に呼ばれ、僕たちはリビングに向かう。僕はなんとか、必死で平常心を保つ。トイレに寄って顔を洗い、蕩けた顔とはおさらばだ。  父さんも母さんも前向きに考えてくれて、夕飯にまで誘ってくれたのはありがたいのだが、俄然躍起になっている2人が心配だ。  バカな事を口走らなければいいのだが······。

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