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ラスボス戦
ハイになって八千代に勝利宣言をした純平くんは、フラフラしながら八千代に角材を向ける。
「お前、クスリでもキメてんのか? 目やべぇぞ」
「そんなのやんないよバーカ。アンタに復讐できるんだって思ったらさ、めっちゃ気分いいだけ。大人しく殴られてくんないと、アンタらの大事なビッチが酷い目に遭うよ?」
そう言って、純平くんは角材をブンブン振り回しながら八千代に近づく。これから人を痛めつけようとしているのに、純平くんは嬉々としている。どんな精神状態なんだ。
「やだっ、やめてぇっ!! 昂平くん、やめさせて。あんなので殴ったら八千代が死んじゃう····。お願い。何でもするから、もう皆に酷い事しないで····」
ついに耐えきれなくなって、大粒の涙が溢れてしまった。
「結人くんさ、そんなコト簡単に言っちゃダメだよ。ホントに何でもさせちゃうよ?」
「結人ぉ、余計な事言ってねぇで目ぇ瞑ってろ。すぐ取り返してやっからな」
八千代は僕を見て、ニコッと笑って言った。角材を持った純平くん相手に、一瞬でケリが着くと言うのだろうか。
「場野くんさぁ、あんま舐めないでよ? 俺だって、中坊ん時とは違うからね」
「へぇ。んなら、さっさとかかって来いよ。人質とかザコい真似してねぇでよぉ」
「場野、煽んなって。結人に何かされたらどうすんだよ」
「いや、場野に意識を集中させんのは悪くねぇ。俺は昂平の方に行くぞ。持っててもナイフくらいだろうし、俺が結人を取り返してくる」
「お。そっち任せるわ。万が一····結人盾にしたら、昂平落としていいからな」
「盾にしなくても落とす。任せろ」
「俺らは? 俺らにできる事ねぇの?」
「お前と莉久は朔に加勢しろ」
「大畠は結人受け止めてくれ。引き剥がしたら、結人投げるから」
「「「······は?」」」
「ん? 昂平絞めんのに、結人が近くに居たら危ねぇだろ」
「投げる方が危ないだろ!? 朔の後ろについてくから、俺の方に押すくらいにして? 投げられたら流石に受け止める自信ないって」
「そうか、わかった。確かに、結人投げんのは危ねぇな。軽いからいけるかと思った」
「朔は頭に血ぃ登るとガサツ過ぎんだよ。んじゃ、俺は純平ぶっ殺す。朔と大畠は結人の奪還。莉久は大畠の補助。けど、莉久はもうあんま動くな」
「ねぇ~、作戦会議終わったぁ? そろそろ初めていーい?」
角材を肩に乗せ、純平くんが怠そうに聞く。
「お前、角材1本で俺に勝てる気なんかよ。舐めてんのぁどっちだァ。日本刀くらい持って来ねぇと止めらんねぇぞ」
「あのねぇ、一介の高校生に日本刀なんて準備出来るわけないでしょ? ヤクザじゃないんだから」
「ヤクザだからって何でも手に入るわけじゃねぇんだわ。ほら、喋ってねぇでかかって来いよ」
「なんかムカつくなぁ····。ま、いいや。ぶっ殺してやるから。そんじゃ、いくよ」
純平くんが八千代に向かって走り出した。角材を振り回し、確実に八千代の頭を狙っていく。
「純平くん!やめて!! そんなので殴ったら死んじゃうよぉ!!」
「結人くん、泣かないで。こっちも面倒なのが来た。俺から離れないでね」
僕を締める腕に力が入る。
「結人を離して後ろに下がれ。そしたら、一瞬で落としてやる。従わねぇなら、この間みたいな容赦はしねぇ」
「こないだも容赦なしだったでしょ。悪いけど、結人くんは絶対に渡さないよ。俺には結人くんが必要なんだ」
そう言えば、何故ここまで僕に固執しているのだろう。
「僕が必要って何?」
「結人、聞かなくていい。聞いたらお前、昂平の事庇っちまうだろ」
「ゆいぴ、こんな時にお人好し発動しないの。黙って助けられてて、ね?」
「で、でも、昂平くんにだって理由があるんでしょ? だったら聞いてあげなくちゃ」
「結人くんは昔から変わらないね。そういう存在が欲しいんだよ。じゃないと、どこまでも堕ちてくんだ」
「昂平くんには純平くんが居るでしょ?」
「あーあ、話し始めたよ」
啓吾が項垂れてしまった。本当に申し訳ないけれど、少しだけ、理由を聞く時間だけ欲しい。
「純平じゃダメ。アイツ、マジでイカレてるもん。母親がクソだったみたいでさ、アイツも腐ってったんだよ。でも、俺には可愛い弟だから、一緒に居てやりたい」
かなり複雑な家庭環境のようだ。けれど、だからってこれまでの行いが許されるわけではない。
「なんかさ、俺も純平も悪い事ばっかしてきてさ、ちょっと疲れちゃったんだよねぇ。結人くんみたいな綺麗な人が傍に居てくれたらさ、俺らも変われんのかなって思っちゃったんだよ」
「だったら、昔みたいに友達として一緒に居たらよかったじゃない」
「それもできなかったんだよ。俺、マジで結人くんの事好きだから。俺の欲しいものってさ、純平と結人くんだけなの。たった2つだよ。それくらい手に入れたいじゃん」
「ダメだ、結人。そいつも相当イカレてるぞ。もういいだろ。そのまま動くなよ」
朔はそう言うと、一瞬で間合いを詰めた。そして、昂平くんの腕を捩じ上げ、引き離した僕を啓吾に押し飛ばした。僕は啓吾に受け止めてもらい、慌てて振り返る。
朔は昂平くんを殴り飛ばし、その上に跨って何度も殴打する。昂平くんは体を捩 り、強引に朔のマウントから逃れた。そして、すかさず反撃するが、朔は全て避けてカウンターを食らわせる。力の差は歴然としていた。
朔の跳び回し蹴りが、見事に昂平くんの顔面を捕らえた。倒れこんだ昂平くんは起き上がらない。完全にノビてしまったようだ。朔が昂平くんを拘束して、こちらはケリがついた。
八千代のほうは苦戦しているようだった。純平くんの武器が増えている。サバイバルナイフみたいな、ゴツイ刃物を持っているじゃないか。八千代は腕を切りつけられたようで、上腕から出血している。それも、なかなかの量だ。
「八千代、怪我してる····。血、いっぱい出てる。どうしよう朔、八千代が死んじゃう!」
「ゴリラはあの程度じゃ死なねぇよ。大丈夫だ。場野は強ぇから見てろ」
僕とは正反対に落ち着き払っている朔。あの状態を見て、どうして落ち着いていられるのだろう。
「でも、純平くんナイフ持ってるんだよ? あんなの刺されたら、いくら八千代がゴリラでも死んじゃうよ····」
「おい! お前も俺の事ゴリラだと思ってたんか」
八千代が僕たちの話に入ってきた。
「え、やってる事いつもゴリラみたいだよ。人並外れた強さって意味だから! それより前見て! 僕と喋ってる場合じゃないでしょ!?」
「ハンッ、余裕だわ。トドメさすトコお前に見せようと思って引き延ばしてたんだよ!」
どんだけ余裕なんだ。ナイフと角材振り回してるヤバいの相手に、何を言っているのか理解が追いつかない。
「バカな事言ってないで、早くどうにかしてよ! いっぱい血出てるんだよ!?」
「そのまま血ぃ垂れ流して死ねよ! 強がりばっか言ってさ、ホントはパイプ持ってんのも必死なんじゃないの!?」
純平くんが角材で八千代の首を狙う。八千代は鉄パイプでそれを受け止めた。しかし、純平くんが反対側からナイフでわき腹を狙う。
八千代は鉄パイプを押し込み、角材ごと純平くんのバランスを前傾に崩させる。その隙に、純平くんの後頭部を目がけて踵落としをキメた。
どしゃっと落ちた純平くんは、気を失ったようで起き上がることはなかった。僕は急いで八千代に駆け寄り、その胸に飛び込んだ。
「八千代のばかっ! 殺されちゃうかと思ったでしょ!!」
八千代をキツく抱き締め、心臓の音や温もり、僕を抱き返す力強さで生きていることを実感する。
「アホか。こんなザコに殺られるかよ」
八千代は、泣きながら怒る僕の頭を抱き締めた。
「そうだ、手! 怪我見せて!」
スパっと切れた傷口からは、ドクドクと血が流れている。ハンカチでは足りないので、僕のシャツとベルトで縛って止血した。
「なんでお前が脱ぐんだ····。結人、俺の着とけ。風邪ひくだろ」
朔がシャツを着せてくれた。それから、純平くんも縛り上げてナイフなどから八千代の血を拭き取り、流石の僕も承諾の上で警察に連絡した。僕たちは、このタイミングで問題を起こしたくないので、そそくさとお暇する。きっと、不良グループ内の喧嘩として片づけられるだろうと、八千代が言っていた。
こうして、双子との決戦は幕を閉じた。昂平くんを助けてあげられなかったのだけが、僕としては心残りだ。
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