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バカなことばかり言ってる

 八千代と一緒に迎えに来た啓吾が、朝っぱらからアホな事を言い出した。    「俺、昨日やべぇ夢見てさ。寝起きからめっちゃ結人に会いたかったんだよね」 「それで一緒に来たんだ。どんな夢だったの?」 「結人が俺に跨ってて『僕、今日排卵日なの』って耳元で言われてさ、誤射する夢見た」 「そそっ、そんな事あるワケないでしょぉ!!?」 「はぁ~····そうだよな。俺らが結人の排卵日把握してねぇわけねぇもんな」 「そこじゃないよ。僕、男だからそんな日ないの! 啓吾のばぁーか」  僕は真っ赤になってそっぽを向いた。 「それ今度、ヤッてる時に言えよ。誤射したるわ」 「ごっ、誤射じゃないでしょ。いつも出してるクセに····」  朝からなんて会話だ。登校中の高校生の会話とは思えない。  教室に着くと、八千代が朔にさっきの話をした。教室でなんて話をするんだ。八千代は、恥じらいという感情を何処かに捨ててきてしまったのだろうか。  そして案の定、ワクワクした顔で朔が言う。 「俺も言ってほしい」 「言わないからね」  すると、朔は僕の耳元で囁いた。 「孕ませてぇ」  僕は顔がボンッと熱くなり、大慌てで耳を塞いだ。今、一瞬イッたかと思った。何この破壊力!? 「なっ、ばっ、さ、朔のばぁーか。絶対言ってあげないんだからぁ!」 「おい、教室でイチャついてんなよな」  背後から、冬真の不機嫌そうな声が聞こえて驚いた。昨日やりかけだった書類を持ってきてくれたらしい。 「これ、こっちのクラスの分な。全部綴じといたから、このまま先生に渡したらいいよ」 「あ、ありがとう。昨日はごめんね。その、色々と····」  八千代と朔も、昨日の出来事を啓吾たちから聞いている。雰囲気が悪くなるかもしれない。僕が1人でわたわたしていると、八千代が揶揄うように言った。 「お前、昨日結人にフラれたんだってな。ざまぁ」 「うるせぇよ。諦めてねぇからな。隙があったらツツきまくってやる。好きなだけ痴話喧嘩やってろよ」 「さっきのは痴話喧嘩じゃねぇ。結人が照れてただけだ」 「あーそーですか。朝からうぜぇな」  冬真は悪態をついて自分のクラスに戻り、入れ替わりに啓吾とりっくんが来た。  冬真が堂々と手を出し始めたので、対策を練ろうという事らしい。昨日、一時的に解決したんじゃなかったのかな。僕が冬真を好きな素振りを見せなければ、事は動かないはずなんだけど。 「ゆいぴの言動じゃ、多感な男子高校生は好かれてるって勘違いしちゃうからね」  りっくんの言葉に仰天した。そんなつもりは一切ないのだけど、皆も同意見のようだ。  HRが始まるまで、皆は真面目に冬真対策に頭を捻っていた。どうも、宿泊研修までの約1ヶ月、僕は狙われ続けるという予想らしい。なんなら、宿泊研修の最中に仕掛けてくるんじゃないかと言い出した。 「えっと····でもね、冬真、今彼女いるらしいよ?」 「アイツそういうの関係ねぇんだよ。彼女なんていっつも同時に何人もいるから。ほんっと器用なんだよなぁ」 「え、最低だね····」 「アイツはそういう奴なの。なんつぅか····悪気はないんだけどな、とりあえず軽いんだよ」 「だったら、僕の事も揶揄って遊んでるだけじゃないの?」 「あれは違う。冬真ってさ、絶対女の子に執着しないんだよ。別れた女の子なんて、名前も忘れてっからね」 「うわぁ····ホントに最低だぁ。冬真ってそんな人だったの?」 「まぁな。けど、絶対女の子とは揉めねぇの。俺とは違うタイプだけど、遊び人って認識されてんだよね」 「んで、結人は本命ってか? ふざけんじゃねぇぞあの野郎····」  八千代が早くもキレかかっている。まだ、僕たちの想像の範疇を出てもいないのに。 「僕、そういう感じの人ヤダ。絶対に好きになったりしないよ」 「わかってるけど、ゆいぴの問題は流されちゃうトコね。キスでイかされて言わされるパターンが濃厚だよね。1番簡単だし手っ取り早いもん」 「だな。アイツ、結人の弱いトコ知ってるかんなぁ····。結人、マスクしとく?」 「それじゃ、皆ともできないね」 「「「「あー····」」」」  なんて残念そうな顔をするのだろう。揃いも揃っておバカ過ぎないだろうか。そんなの、ズラせばすぐにできるのに。冬真も然りだけど。  要するに何の対策にもなっていないわけで、話が進展しないままチャイムが鳴り響いた。  昼休みにまた会議が開かれるらしいが、僕は委員の仕事で冬真と一緒に職員室へ行かなければならない。先生が居るから大丈夫だと言ったら、道中が危ないと言って啓吾が同行することになった。  そして、昼休み。急いで昼食を済ませ、啓吾と冬真と一緒に職員室へ向かう。 「なんで啓吾が居んの?」 「姫を盗賊から守る為?」 「誰が盗賊だよ。俺は野蛮な賊共から姫を救い出す騎士になんの」 「····お前それ言ってて恥ずかしくねぇの?」 「うるさい、バカ啓吾」 「ねぇ、僕を挟んで恥ずかしい会話するの、ホントやめてよ····」 「結人、なんか俺に怒ってる?」  冬真が僕を覗き込んで聞く。怒ってるわけではないが、想像以上に女性関係がだらしない事にモヤモヤしていた。  モヤモヤする····のは何故だろう。冬真がどう遊んでいようと、僕には関係ないのに。 「別に。冬真さ、彼女いるんでしょ?」 「一応」 「何人もいるの?」 「今は······3人?」  把握していないのか。本当に最低な男だ。イケメンは何をしても許されると思っているのだろうか。いや、これではただの僻みになってしまう。  違う。そうじゃない。人として、不誠実なお付き合いをしているなんて許せないんだ。 「最低だ····。それで僕に本気だとか言ってたの? 女の子たち可哀想じゃない」 「えー····。みんなわかって付き合ってんだし良くない? いつでも別れるよ。結人が俺のコト好きになってくれるんだったら、女の子全部切って結人一筋になる」 「お前が一筋とかできんのかよ。つぅか、結人はそういうの嫌いなんです~」  啓吾が僕の肩に腕を乗っけて言う。まったく、マウントの取り方が子供じみている。 「啓吾だって俺と変わんなかったじゃん」 「俺は好きじゃない子と付き合ってないし。好きになって付き合ったの結人だけだもーん」 「何が違うんだよ。つぅか結人のそれってさ、ヤキモチじゃねぇの?」 「······はぁ!? ちっ、違うよ。違うもん! なんで僕がヤキモチ妬くの!? 意味わかんないでしょ!」 「結人は俺に彼女居たら嫌なんだ。妬いちゃうんだ~。なーんだ、可能性ゼロじゃなさそうじゃん」 「ゼロだよ! 絶対好きになんないもん」 「結人さん、大丈夫? 俺も心配になってきたんだけど」 「啓吾まで何言ってんの!? 僕が好きなのは──」 「お前らなぁ、職員室の前で叫んでんじゃないよ。····なんで大畠も居るんだ?」  危なかった。とんでもない所で恥ずかしい事を叫ぶところだった。沢先生に声を掛けられて、心臓が飛び出してしまうかと思った。 「沢っち、俺も委員代表やりたい」 「は? お前そもそも委員ですらないだろ。何が代表だよ」 「やっぱダメ? んじゃいいや。結人、俺その辺に居るから終わったら連絡して」 「う、うん。わかった····」  何を言い出すのかと思えば、そんな事を考えていたのか。啓吾の頭の中は全く読めない。  僕たちは、委員の仕事を終え職員室を出る。僕が一生懸命スマホを操作していると、冬真がさり気なく僕の腰に手を回そうとした。  それを阻止すべく、啓吾が冬真の背後から腰に前蹴りを入れた。ポケットに手を突っ込んでのそれは、八千代並に柄が悪い。 「誰のモンに触ろうとしてんだよ」 「いってぇ····。お前、加減しろよな」 「ごめ~ん。俺、悪い奴には加減できねぇの」 「なんか啓吾、八千代に似てきた····?」 「ちょ、俺あんなに柄悪くないよ?」 「今ね、そっくりだったよ。ポケットに手入れたまま蹴るのとか、まんま八千代だった。あ··冬真、大丈夫?」 「ついでかよ!? もう何なのお前ら。俺の扱い酷すぎねぇ?」 「「自業自得····」」 「あーっそ。んじゃ、結人来い」  冬真は僕を担いで走り出した。忘れていたけど、冬真は足が速い。八千代と朔ほどではないが、確実に啓吾よりは速い。僕を抱えても、啓吾に差をつけるくらいの事はできる。  軽快に階段を駆け下り、啓吾の手が届く前に空き部屋へ駆け込み鍵をかけてしまった。  啓吾がめちゃくちゃキレながら、激しく扉を叩いている。けれど、そんなのお構いなしに冬真は僕の頬に手を添えた。

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