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記念日なんてなくても
この1年の、皆との思い出に想いを馳せた僕は、啓吾にギュッと抱きつき心の声を漏らしてしまった。
僕が『帰りたくないなぁ····』と言うと、皆の小さな溜め息が聞こえた。困らせてしまうのは分かっているけれど、込み上げた気持ちは飲み込めるようなものではなかったのだ。
啓吾は『帰したくない』と言って、僕をギュッと抱き返した。そして、これまで誰も触れてこなかった話題を持ち出す。
「なぁ、ちょっと思ってたんだけどさ、俺らの記念日っていつになんの?」
それぞれ付き合った日はバラバラだし、この日って言うのはプロポーズをされた日くらいだ。けど、それだと付き合い始めてからは随分と経ってしまう。
「この時期ってコトでいいんじゃないか? はっきりこの日って言うのは、俺らの場合難しいだろ」
「そうだよね。じゃぁさ、毎年その祭りがある日ってコトでいいんじゃない?」
朔とりっくんは相変わらず大雑把だ。しかし、意外にも細かい八千代と、イベント大好きな啓吾がなんと言うか····。
「「だな」」
「え、テキトー過ぎない? 皆、記念日とか好きそうだなって思ってたんだけど」
「今まで記念日とかそういうの全く気にしなかったからなぁ····。俺、女の子と付き合ってるわけじゃないから、あんまイベントって関係なかったし」
少しモヤッとした僕は、啓吾の腕の中で半回転した。それを察した啓吾は、僕が逃げないよう後ろからギュッと抱き締める。
逃げるつもりなどなかったので、僕は啓吾のその腕に手を添え、頬擦りをしながらりっくんの話を聞く。
「俺も。どうせ長続きしないから記念日とかどうでもよかったしなぁ····あっ、いや、違うんだよ? 記念日がめんどくさいとかじゃないからね? ゆいぴとの事は俺の中でひとつひとつ大切な記念日になってるから。初めてキスした日とかえっちした日とか、俺との色々だったら全部メモってるんだけどなぁ····」
何を焦っているのか、ペラペラとヤバめな発言をかましてくる。安定のりっくんだ。
おそらく啓吾もりっくんも、未経験と慣れ故の無関心なのだろう。
「キモさ全開だな。あー····俺も特に気にしてなかったわ。んなもん、結婚記念日くらいでいいと思ってたからな」
「俺もだ。結人の誕生日と結婚記念日だけ祝えばいいと思ってた」
案外、そういう所に執着や拘りはないようだ。かくいう僕も、言われるまであまり考えた事がなかったのだけれど。両親の結婚記念日にふと気になった事はあったが、それもその瞬間だけのものだった。
「記念日ってさ、別に要らなくね? 毎日全力でイチャついてたら関係ねぇじゃん」
「あはは。そうだね、啓吾らしいや。でもね、結婚記念日くらいは何かしてもいいかなって思うんだ。て言うか、何かそれっぽい事してみたいなって思っただけなんだけどね」
「ゆいぴ····。結婚記念日は毎年盛大に祝うよ! そんな大事な日、死んでも這って帰ってくるから!!」
「りっくん、それホラーだよ····。ちゃんと元気に帰ってきてね?」
りっくんは顔を覆って俯き『わかったぁ····』と声を絞り出した。一喜一憂するりっくんは、本当におもしろ可愛い。
「結人は何か、やってみたい事とか行きたい所とかあんのか? できる事なら何でもするぞ」
「えーっと····別にこれと言って····」
そう言えば、それっぽい事って何をすればいいのだろう。
「そうだ。こないだ父さんと母さんがね、結婚記念日にデートしてディナーに行ってたよ! でね、ケーキ買って帰ってきたから一緒に食べたの。ケーキ選んでたら僕の分も買っちゃったんだって。2人で食べればいいのに、ホントぽやっとしてるよねぇ。····ぇーっと、そんな感じ?」
「お前、すげぇ愛されてんのな。1回くらい、結婚記念日に結人ん家で過ごすんも良いかもな」
八千代が僕の頭を撫でながら言った。愛されてるって言うけど、父さん達がドジっただけじゃないのだろうか。
「だね。ご両親に、“毎秒大切にしてます”って報告したい。あと、ゆいぴを産んでくれてありがとうも言いたい。毎日でも言いたいけど」
「りっくん重いよ····」
「気持ちは分かるけど、絶対重いと思われるぞ。けど結人の誕生日は、間違いなく結人の両親に感謝する日だな」
朔が照れくさくなるような事を言う。それを言うなら僕だって、皆のご両親に物凄く感謝している。とは、とてもじゃないが言えず、啓吾の腕で顔を隠した。
結婚記念日はまだ少し先の話だが、とりあえず付き合って1年の記念に何かしたくなってきた。さて、何をすればいいのだろう。
皆に『何かしたい』と言うと、八千代が『祭りに行けばいいんじゃねぇか』と返した。それならばと、僕は我儘で面倒な提案をしてみた。
「毎年、一緒に花火見たいなぁ」
「見ればいいじゃん」
啓吾がサラッと言う。そして、僕の耳元に口を寄せ、甘い声で続けた。
「結人の我儘全部叶えてやっからさ、やりたい事とかやってほしい事あったら今みたいに言えよ?」
「ひぁぁ····あぃ、言う。言うからぁ····」
僕が耳を塞ごうとすると、啓吾が僕の手を捕まえてしまった。さらに、ねっとりと絡みつくような声を流し込む。
「約束な? 結人の我儘もっと聞きてぇ。今シてほしい事ないの?」
今····シてほしい事····。後ろから抱き締められて耳を犯されて、これ以上なんて何を望めばいいのだろう。
「み、耳ッ····啓吾の声聴いてるだけで満足だよぉ····」
啓吾は、飽きたのか意地悪をやめてくれたのか、耳から離れていつもの調子で言う。
「えぇ〜? こんなんでいいの? もっとさぁ、キスしてほしいとか触ってほしいとかは?」
「それは啓吾が触りたいだけでしょ? ゆいぴ、耳だけでいっぱいいっぱいじゃん」
りっくんの言う通り、どうしようもないほど耳が熱い。温かい蜂蜜を飲まされているような、胸焼けがしそうなほどの甘ったるさで脳が溶かされていく。
そして、りっくんの言葉を確認するかのように、啓吾は僕の耳を唇で食む。
「あっはは、マジだ。耳あっつ····。なぁ、耳だけでイクってどんな感じなの?」
説明の難しい事を聞いてくるなぁ。と、顔に書いてしまったようでりっくんがクスッと笑う。
なんとか言葉をかき集め、感じるままに説明したのだが全く理解してもらえなかった。啓吾は『わかんねぇ』と唸りながら僕の乳首を弄り始めた。手持ち無沙汰だったのだろう。
「結人が耳元で声抑えながら喘いでんの聞いた時な、耳でイッたわけじゃねぇけどゾクゾクしたぞ。結人はそれが、それだけでイクくらい気持ち良いって事じゃねぇか?」
朔がそう言うと啓吾は納得したようで、僕を抱き締める腕に力がこもった。
「確かにアレいいな。俺も前にすげぇゾクゾクした」
「「俺も」」
八千代とりっくんまで便乗してきた。僕がゾクゾクさせただなんて、そんなの全く記憶に無いのだが。
耳元で大きな声を出さないように気をつけてはいるが、皆はそれにゾクゾクしているという事なのだろうか。僕には、皆が僕の何に興奮するのかイマイチ分からない。
とにかく、これ以上乳首を弄らないでほしい。またシたくなってしまう。
「啓吾、チクビやだぁ····」
「シたくなった?」
「ふぁぁっ····耳もやらぁ」
「んはっ♡ アナルひくひくしてるぅ」
啓吾は乳首から指を撤退させると、僕の片脚を持ち上げてお尻におちんちんを宛てがい、僕がそれを欲している事を確認する。
もうすぐ帰らなくちゃいけないのに、啓吾もそれをわかっていて意地悪を言う。
「結人がすっげぇ煽ってくれたらすぐイケそうなんだけどな〜」
「煽っ··煽れって言われて煽るの難しいんだよ?」
僕が困っていると、りっくんが耳打ちしてくれた。だが、これまた意味のわからない事を言わされるようだ。
「ぇ··っと····、啓吾のビッグマグナム? で、がんぼり? して啓吾のおすじる? で僕のナカいっぱいにしてください」
「ふ··ははっ····。ビ、ビッグマグナム····萎えるってぇ。全然意味わかってないし····めっちゃ言わされてんじゃん····」
啓吾が笑って動けなくなってしまった。八千代と朔も、肩を震わせている。言わせたりっくんまで薄らと笑っているじゃないか。
りっくんを問い詰めて、意味の分からない単語を説明してもらう。僕は、恥ずかしさのあまり毛布に包まって身を隠した。本当にもう、何を言わせてくれているんだ。
「んふっ····結人、意味わかったんだったらさ、改めて言ってよ。結人の言葉でいいからさ」
「やだっ! もう言わないもん! それにこれって、ただのお強請りでしょ!?」
啓吾は、毛布ごと僕を抱き締めてお強請りしてくる。
「今のさぁ、結人がちゃんと意味わかって言ってくれたら、俺すんっげぇ興奮すんだけどなぁ。俺の雄汁、欲しくない?」
甘えた声で言われて、無視できるほど僕は強くない。観念してひょこっと顔だけを出し、目は少し逸らしたままだが言ってみた。
「け··啓吾のおっきいおちんちんでガン掘りして、雄汁で僕のお腹いっぱいに、して··くらしゃい····」
後半、チラッと啓吾を見ると、啓吾の啓吾がギンギンに滾っていて怖かった。アレが入ってくるのかと思うと、動揺して最後は噛んでしまった。
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