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冬真の結論
彼女を全て切ってから猪瀬くんを抱いたと言う冬真。皆の“意外だ”と言いたげな目に対し、いい加減な気持ちで猪瀬くんを抱けないと釈明した。
それを聞いた八千代が、だったら腹を括って付き合えと言う。冬真は、その言葉に真っ直ぐな気持ちを返す。
「俺、浮気しない約束できない」
「··んわぁ····最低だぁ」
僕は、思わず率直な感想を漏らした。
「ねぇ、なんで浮気するの? 僕が言うのもアレだけどさ、そういうのダメだよ?」
「ははっ、マジで説得力ねぇ〜」
軽く僕をディスった所為で、冬真は皆から睨まれた。さらに、八千代からはそれだけで済まない。
「コイツのは浮気じゃねぇんだよ。テメェ、テキトーな事言ってっと絞めんぞ」
凄む八千代の圧に慣れない冬真は、普通にビビってしまう。まぁ、これが普通の反応だよね。
「あ〜··ごめんて。っのさ····俺、自分で言うのもあれだけど、愛情に飢えてんだよね。誰か1人の愛情で満足できる気しないんだよ」
冬真の言葉を聞いて、僕たちは顔を見合せて言った。
「あのね、それなら大丈夫だと思うよ。猪瀬くん、りっくん並に拗らせてて重いだろうから」
「むしろさ、重すぎて冬真が耐えらんないかもよ? 駿哉、かなりキテるぜ?」
「俺のゆいぴへの愛情に勝てるとは思わないけど、猪瀬もまぁまぁ重めに神谷の事想ってるみたいだよ」
「待って待って。あのさ、俺がヤバい奴みたいに言うのやめて?」
「お前、そこそこヤバイよ?」
啓吾が真面目な顔で猪瀬くんに言う。僕も同感だ。りっくんを重ねてしまった時点で、盲目的に恋に落ちている人だと認識している。
「駿、そんなに俺の事好きなの?」
「ははっ····。自分で思ってるより、そうみたい」
猪瀬くんはポリポリと頬を掻きながら、照れくさそうに答えた。かく言う冬真だって、心のどこかでは猪瀬くんを好きなんじゃないかと思う。
「神谷は、本当に誰かを愛して愛された事がないんじゃないか? 満足できないと言うか不安なんだろう」
「はぁ〜····お前らめんどくせぇな。ンなら試しに付き合ってみりゃいいだろ。俺と結人もお試しから始まったんだし。可能性ゼロじゃねぇんなら試してみる価値はあると思うぜ」
八千代が、さっさと話を終わらせたがっている。もうじきピザを食べ終わるし、2巡目へといきたいのだろう。僕は満腹で眠いのだが。
「お試しか····。駿がそれでもいいんなら、俺はやってみてもいいよ」
なんだか順番があべこべだ。お試しで付き合ってからセックスを試みるほうが良かったのではないだろうか。
しかし、当人同士が気にしないのに、僕がモヤモヤしても仕方がない。進展するのなら、このまま流れに任せてしまおう。
「俺はお試しでもなんでも····。ホントに、こんな事になるなんて思ってなかったからさ、ビックリして正直ついていけてないんだけど」
「俺もまさかだよ。駿を可愛いと思う日がくるなんて思わなかったっつぅの」
「よし、おめでとう。そんじゃ、早速デートでもしてきたらどうだ?」
お試しにおめでとうはないと思うのだが。どう考えても、あからさまに追い出そうとしている。朔の魂胆が見え見えだ。
「「デート····」」
「どうしたの? デート、ダメなの?」
「ダメじゃないけど、冬真ってデートってなると即ホテルだったからなぁ····」
「あぁ····、そういやそうだったな。どこ行っても2軒目にはホテルだったよな。マジですぐ消えんの」
猪瀬くんと啓吾が、ゲンナリした顔で言う。朔は『猿かよ』と冷ややかな視線を送る。
「いやだってさぁ、本心がどうあれヤッてる時が1番愛情感じんだろ? それに、デートって疲れるし」
「お前、よくそんなんで結人狙ってたな。コイツ、そこいらの女より厄介だぞ」
なんだと。それは聞き捨てならない。
「僕、厄介なの?」
「あ? 厄介だろ。デートだつったらはしゃぐし、女の店員にまで妬くし、コンビニに買い物行くだけで嬉しそうにするし。んな可愛い事されっと、こっちは手ぇ抜けねぇだろ」
「ゆいぴとのデートで手ぇ抜く気なんてさらっさらないけどね」
「俺らが気を抜けないって意味で厄介っつぅ事だな。結人がめんどくせぇとかじゃないから大丈夫だぞ」
なるほど····?
朔はニコッと微笑んで頭を撫でてくれたが、それは大丈夫と言っていいのだろうか。
「つぅか冬真は冬真でめんどくせぇのな。どんだけ愛されたいんだよ」
「冬真は寂しいんだよね。ずっと誰かに構っててもらいたいって言うか····な?」
猪瀬くんが前に言っていた、放置されがちだった末っ子ゆえの寂しん坊か。けれど、それなら猪瀬くんひとりでカバーできそうな気がする。りっくん並に重いんだもの。リミッターが外れれば、鬱陶しいくらいに構ってくれるだろう。
冬真は、猪瀬くんに『余計な事言うなよ』と、照れた様子で軽い肩パンをした。猪瀬くんはへらっと笑って謝る。
そして、痺れを切らした八千代が、本格的に2人を追い出す。
「お前らさっさとデートしてこいや。ホテルなしでな。神谷ぁ、お試しでも何でも今はお前の嫁なんだろ。ちゃんとしてやれよ」
「わ、わかってるよ」
「冬真····、無理しなくていいよ。とりあえず俺ら邪魔だろうからさ、もう行こうよ」
猪瀬くんが冬真の袖をキュッと握って言う。猪瀬くんはサッカー部のキャプテンで、女の子にもモテるしカッコ良いイメージしかなかった。まさか、こんなに可愛いとは····。
「····だな。そんじゃ、お邪魔しました〜」
付き合っていなくても、2人の仲がいい事は分かる。きっと、パワーバランスはそうそう変わらないのだろうけど。それでも、互いに歩み寄っているはずだ。
お試し期間を経て、この2人がどういう結論を出すのか。僕たちはできるだけ関わらないように見守ろうと思った。
2人を見送った啓吾が戻ってきて、僕たちはようやく一息つく。
「猪瀬くんって、冬真相手だと可愛いよね」
僕がポソッと漏らした言葉に皆が固まった。
「······どこが?」
啓吾が不思議そうな顔をして聞く。
「冬真に意地悪言われて照れてる所とか、一喜一憂してる所とかね、恋してるんだなぁって······え、見てて思わなかった?」
僕は自分の感性に不安を覚え、飲んでいたココアのマグをキュッと抱き締める。
「本当に神谷の事が好きなんだとは思ったけど、可愛いとは思わなかったな」
「俺、ゆいぴ以外に可愛いって感情を向けたことないよ····。だいたい、ゆいぴ以外に可愛い生き物なんて存在しないよ?」
「りっくんだって、僕で一喜一憂してるの可愛いくせに」
「か··わいい? 俺が?」
「ぶはっ····莉久が可愛いとかないわ〜」
「結人、目が悪いのか? 莉久は可愛くないぞ?」
「いっくら童顔でも可愛くはねぇな。アレか。キモかわってやつじゃねぇの?」
皆、言いたい放題だ。八千代は、キモかわだなんて酷すぎる。そりゃ、中身はちょっとアレだけども。
「見た目の話じゃないよ! 見た目も可愛いなって思う事あるけど····。膨れた時とかさ? そうじゃなくってね、僕の事好きなんだなぁって思うような態度が可愛いって事だよ」
「まぁ、わかってるけどね。俺らずっと結人に思ってる事だからさ」
「は、はぁ〜!? なにそれ、啓吾の意地悪····。八千代と朔も、僕のこと揶揄ったの?」
2人とも顔が正直だ。ふいっと目を逸らしてコーヒーを啜る。そして、厄介なのがりっくんだ。
「ねぇ、俺のコト可愛いって思ってくれてるの?」
「僕が意地悪言うと泣きそうになってるのとか、僕から抱きついた時にすっごく嬉しそうな顔するのとか····可愛いなって思うよ」
自分で言い出しておいて恥ずかしくなってきた。
「けどね、りっくんだけじゃないからね! 皆の事も可愛いって思う瞬間とかあるんだから」
こうして、僕の皆語りが始まった。
「啓吾はね、いつも元気なのとかニコニコしてる所とか、僕に抱きついて寝てる時とか、とにかく子供っぽい所が可愛いの」
「へぇ〜。まぁ、言われたことなくもないけどね」
言葉とは裏腹に照れくさそうだ。誰に言われたのかはもう聞かないでおく。絶対に妬くもんね。
「朔はキョトンってするのがホントに可愛いよね。ぽやっと王子が出る時ね、心臓がギュンってなるの」
「心臓······大丈夫か? 検査····」
「大丈夫だよぉ!」
これだもん。本当に心臓が握られているかの如く締めつけられる。
「えっと、八千代はねぇ····、照れてる時が可愛い」
僕の事でしか照れない八千代。それも、結構レアなのだ。こんな事を言って、見られなくなったら嫌だな。
「照れてねぇわ」
八千代は額に青筋を浮かべながら迫ってきた。怒らせてしまったのだろうか。
「ご、ごめんね?」
「怒ってねぇよ」
「図星なだけだよね〜」
りっくんは、八千代に『黙れ』と枕を投げつけられた。なんだ、照れ隠しだったのか。
僕は八千代に押し倒され、少し苦いキスを受け入れる。タバコとは違う、良い香りの苦さだ。
するっと服を脱がせると、緩んだままのアナルにおちんちんを押し当てる。そして、くぷっとナカに入ってしまった。
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