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事件だ

 一緒にシャワーを浴びるんだと言って、個室に押し入ってきた啓吾。ダメだと言う僕の言葉なんて、聞こえないフリをしてカーテンを閉めてしまった。  勿論やる気満々の啓吾は、僕の身体を洗いながらお尻をまさぐる。 「バレたらまた朔に怒られっからさ、すぐ終わらせんね」  とか言いつつ、ちゃんと解してくれるんだよね。 「朝ヤッたからまだ緩いな。もう挿れるよ? ほら、自分でケツ開いて」  言われるがまま、僕は壁に手をつき片手でアナルを拡げて啓吾を迎える。そして、シャワーの音にかき消されそうなほど小さな声で言う。 「啓吾のぷりぷりで肉厚なおちんちん、僕のナカにくらしゃい」 「んはっ♡ えっろ。まだ酔ってんの?」 「僕、酔ってないもん」  朔は、頑なに僕が酔っていると言っていた。けれど、舌が回らないのも少しくらっとしたのも、疲れと暑さの所為だと思うのだが。  だって、お酒を飲んだわけでも、気化したアルコールを直接吸ったわけでもないのだ。いくら僕だって、他人の酒気で酔う事はないだろう。  啓吾は僕の主張など聞き流し、興奮しながらナカを押し拡げて入ってくる。 「啓吾、待って····あのね、お、おしっこ出そう····」 「ここでしたらいいじゃん。ほら、漏らしちゃえよ」  前立腺を潰しながら、下腹部を指で押して膀胱を刺激する。もう、どっちが出そうなのか分からない。   「んふぅぅっ····らめぇ······」  耐えられるわけなどなく、僕はお漏らしをしてしまった。そして、啓吾が耳を食べながらこう言うんだ。 「泣きながら漏らしてる結人、すっげぇ可愛い。もっと泣かせたくなんだけど」 「ひぁあっ··アッ、らめ、イッちゃ····やぁ、ん····」  僕が1度イクと、啓吾は耳を舐めたり噛んだり好き放題にシてイカせ続ける。しまいには僕の口を手で塞ぎ、肩に噛み痕をつけてしまった。 「やーっべ。これバレないかな····。ま、いっか。もうつけちゃったし、も1個くらいつけちゃお」  そう言って、さっきよりも強く口を塞いで、さっきよりも強く背中を噛んだ。今日まで我慢してきたものを発散しているのだろう。 「ん゙ん゙ん゙ーっっ」  悲鳴に近い声が出てしまった。他にシャワーの音がしないから誰も居ないとは思うけれど、それでも気をつけなければ。  それなのに啓吾は、容赦なく奥を貫き結腸へ沢山射精した。声を我慢させる気なんてないじゃないか。  しかし、悪いのは啓吾ばかりではない。こんなのバレちゃいけないのに、僕は熱くなってゆく胎内(おなか)を抱え、幸せに満たされていた。  ヘロヘロになった僕を洗って拭いて、服を着せてくれる啓吾。献身的だなぁなんて思いながら、濡れたままの頭を撫でた。 「ん? どったの?」 「えへへ。僕ね、髪下ろしてる啓吾も好きだよ。セットしてるとすっごくカッコイイのにね、今はなんか可愛いの」 「マジで? んへへっ、嬉しいな。俺ねぇ、結人の髪セットしてみたい。絶対カッコよくなるよ。今度やっていい?」 「うん!」  新学期の朝、髪をセットしてもらう約束をして、僕たちは皆のもとへと戻った。 「遅せぇ。お前らまさか····」  察しの良い朔が、啓吾をジトッと見て言う。 「いやいやいや。なぁ、それよかさ。結人たぶんまだちょっと酔ってるよ」 「まだ抜けてねぇんかよ」  八千代が僕の頬を両手で挟み、顔色を見ながら言う。キスされるのかと思って、少しだけ焦った。いや、期待したのかもしれない。 「武居、大丈夫? しんどくないの?」 「大丈夫だよ。だからね、僕酔ってないんだってば····」 「啓吾が言うんだから間違いないだろ。そういうの敏感だし。特に、結人に関してはなぁ」  冬真が啓吾を信用しているのはわかった。けど、もうふわふわもしていないし、呂律も回っている。本当に酔ってなんかいないのだけど····。  帰り支度が整い、僕たちはバス停に向かう。  僕は、皆がベッタリ張りついているものだから、安心して余裕をぶっこいていた。皆も、離れなければ大丈夫だと踏んでいたのだろう。この後、僕が消えるまでは。  帰りのバスを待っていた時の事だ。例の集団がぞろぞろとバス停へやってきた。人数は半分くらいになっていたが、それでも10人以上は居る。僕とぶつかったあの人もその中に居て、僕をチラッと見て手を振ってきた。  それに気づいた皆は警戒心を剥き出しにして、僕を囲うようにして距離をとる。いくらなんでも失礼な態度ではないだろうか。あからさまに、敵視している感じがしてならない。そんなに悪い人だとは思わなかったんだけどな····。  僕が頬を膨らませていると、八千代が『お前、いつの間にアイツと手ぇ振る仲になったんだよ』と言った。なんだ、またヤキモチを妬いてたのか。  まぁ、本気で心配してくれているのだろうけど、嫉妬とそれはいつだって紙一重だ。  バスは満員で、皆が僕を庇うように立つ。あの集団は1日中飲んでいたようで、酒気が車内に充満する。  次の停留所で降りるのだが、疲れの所為か酒気の所為なのか、少し気分が悪い。けれど、あと少しだけ我慢すれば降りられる。大丈夫だ。もう少しくらい我慢できる。 「ゆいぴ、大丈夫? 気分悪い?」  りっくんが心配してくれているが、これ以上迷惑を掛けたくない。僕は『大丈夫だよ』と笑って誤魔化した。  吐かないように、そして皆にバレないように、なんとか乗り切る事ができた。外の空気を吸えば、きっとすぐに落ち着くだろう。  僕は、皆に誘導されながら降車する。他の乗客に加え、例の人達もここで降りるらしく降車口が詰まっている。  そして、早く外の空気を吸おうと焦り、1歩踏み出した時だった。バスを降りる人混みの中、グッと手を引かれた。  誰かは分からないが、この人混みから引っ張りだそうとしてくれているのだろう。そう思った。  バスに酔った所為か、少しフラついていたのでありがたい。けれど、人を掻き分けて出た先に居たのは、あの人だった。 「はぇ····? お兄さん····なんで?」  お兄さんは何も言わず、バス停の傍にあったビルの影へと引っ張って行く。振り返ると、皆はお兄さんのお連れさんに邪魔されて進めないでいる。 「待って····やだ、離して!」  強引に掴まれ、強引に引っ張られて手首が痛い。違和感のあった肩にも痛みが走る。 「いーじゃん。ちょっとだけ遊ぼーよ」  訳の分からないまま手を引かれてゆく。僕はもう、吐きそうなのを我慢するだけで精一杯だった。  そして、お兄さんは振り向き、やらしい笑みを浮かべてこう続ける。 「君さ、さっきシャワールームでえっちしてたでしょ。金髪の子と。君らどういう関係? ま、なんでもいいけどさ〜」  気分が悪い中かなりのハイペースで歩かされ、そろそろ限界が近かった。  引っ張りこまれたビルの間を抜けると、廃ビルがあった。お兄さんは1人で喋りながら、僕を担いで階段を昇る。  何階かわからないが、何度もぐるぐる回って目も回ってきた。 「ねぇ、なんも喋んないけど怖い?」  ビルの一室に入り、僕を降ろすと扉に鍵を掛けた。そして、お兄さんが僕に壁ドンをして覗き込む。お酒臭いから、あまり近づかないでほしいのだが。 「怖い····より、気持ち悪い····」  僕は両手で口と鼻を塞ぐ。 「あぁ、バス酔ったの? 大丈夫?」  大丈夫ではない。けど、吐くわけにもいかない。  それよりも、啓吾とえっちしていたのを知られている。これはきっと、相当マズいやつだ。 「君の連れにヤバそうなの2人居たでしょ。デッカイさぁ····。あれ絶対厄介だろうから、君だけ連れてきちゃった」  そう言いながら、お兄さんは背負っていた鞄を漁り始めた。  酔った勢いというやつなのだろうか。悪い人に思えなかったなんて、今すぐ撤回してやる。  と、思ったのだけれど、お兄さんは持っていた水を飲ませてくれた。なんだ、やっぱり悪い人じゃないのかな。  しかし、それを少し飲んだら目が回り、立っていられなくなってしまった。まさか、水に何か入っていたのだろうか。 「ちょろ〜。君大丈夫? ねぇ、名前教えて?」 「にゃまえ····結人····」 「ゆいとくん、可愛いね。俺ね、大地」 「らいち、さん?」  ダメだ。頭がふわふわして、何も考えられない。逃げなきゃいけないはずなのに、身体が言う事を聞かない。 「そ。とろっとろだねぇ〜。つぅかこれ、短パンとか完全に誘ってんじゃん。マジで可愛いな」  ポソッと言葉を漏らすと、お兄さんは僕を布張りの硬いソファに座らせた。そして、向かい合って片膝をソファにつき、僕の顔を持ち上げる。 「んっ····」 「すご。めちゃくちゃ敏感なんだ。乳首立ってんの、シャツ越しでもわかるよ」 「や····らめ····シ、ない····」 「シないって何を?」 「えっち··な、ことぉ」 「んゎー····かーわい」  大地さんは、僕の後頭部の髪を鷲掴み、強引に上を向かせるとキスで口を塞いだ。抵抗しようものなら後頭部に痛みが走る。  こんなに手荒なキスを受けるのは初めてで、流石の僕でも快感より恐怖が勝っている。どうにかして逃げないと。だけど、やっぱり身体に力が入らない。 「んぅ····ふぇ····は、ァ····」  大粒の涙が溢れてくる。恐怖が心臓を握り潰してしまいそうだ。 「ゆいとくん、肌すげぇ気持ちイイね。ぬぎぬぎしよっか。ほーら、ズボンも脱がしちゃうよ〜」  怯える僕になど構わず、大地さんは僕の服を手際よく脱がせる。僕は、あっという間に裸にされてしまった。  大地さんの指が僕のナカに入る。慣れているのだろうか。容易く前立腺を見つけ、遠慮もなくコリコリと潰される。  僕がイクと、大地さんは自分のモノを取り出して穴にあてがう。その瞬間、僕のスマホの着信音が鳴り響いた。 「は? ぅるっせ····」  驚いた大地さんは、僕のポケットからスマホを取り出すと、画面を見て言った。 「八千代くんから電話だよ。八千代····って······あぁ、ぶつかった時一緒に居た奴だっけ?」 「や··ちぉ····たしゅけて····やちぉ····」 「あらら〜。ね、泣かないで〜。ごめんね? 無理矢理こんな事してさ」  大地さんは謝りながら僕のおっぱいを揉んでいる。絶対に悪いと思っていないだろ。 「シャワールームでさ、結人くん達のえっち覗いちゃってさぁ。もう犯したくて堪んなかったんだよ。後で俺の友達も来るから、い〜っぱい可愛がってあげるよ」  あぁ、しまった。めちゃくちゃダメな人だった。これじゃ、また啓吾が怒られちゃうし、責任を感じてしまう。どうにかしないと····。 「らいちしゃん、も、やめて。すぐに皆来るから····」 「どうやって? 残念だけどねぇ、ここに入るの見られてないよ」 「らいじょうぶらもん。スマホのGPSでわかるんらもん····」 「マジで!?」  大地さんは、慌てた様子で僕のスマホを踏み潰した。なんて事だ。これじゃ、皆が助けに来れないじゃないか。  それに、待ち受けの画像が····。  絶望感に打ちひしがれた僕は、己の無力さを痛感して溢れ出る涙を抑えられなかった。

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