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真尋って子は····

 呆気にとられている皆に、はちゃめちゃな登場をした親子を紹介する。  迷子になっていた子が、真尋(まひろ)の弟の匠真(たくま)くん。もうすぐ5歳になる。  その匠真くんを抱いているのが2人の父親で、僕の叔父さんでもある雄人(ゆうと)さん。父さんの弟だ。  かなりフランクな人で、“(ゆう)くん”と呼ばないと寂しがる変な人。一度“叔父さん”と呼んで拗ねられた事がある。なかなかに面倒臭い人だ。 「雄くん、ご無沙汰してます。匠真くん、無事でよかったぁ」 「結人くん、久しぶりだねぇ。いつもゴメンね。兄さんたちは?」 「あっちで挨拶とかしてるよ」 「そっか····。そちらは、お友達かな?」  雄くんが、視線を八千代たちに向ける。迅速に八千代が挨拶をしようとしたが、僕はそれを遮った。 「友達じゃないよ。皆の事は葬儀が終わったら話すから」 「······そうか。おっけ。んじゃ真尋、行くぞ」 「はぁぁぁ!!? ちょっ、ねぇ結にぃ! 友達じゃないって何!? そいつら結にぃの何なの!?」 「うーっるさい! 葬儀場で騒ぐな!」  騒々しく去ってゆく。それを見送る僕に、啓吾が心配そうに言う。 「やっぱさ、俺ら来んのマズかったんじゃね?」 「大丈夫だよ。もう、何も隠す事なんてないでしょ」 「結人、なんか逞しくなったな。てっきり、あの場は場野がどうにかすんのかと思った」 「俺も。まさか、ゆいぴが出てくれるなんて思わなかったからさ、俺感動しちゃった」 「つぅか、なんだアレ。真尋? アイツお前の何?」 「え? だから、従兄弟だってば。真尋のアレはいつもの事だから気にしなくていいよ。小さい時からずっとなんだ」 「あー··そういう····ね。莉久と同じ状態だ。現状付き合ってる分、莉久のが上かぁ。え〜····身内にまで居んの?」 「まんま俺すぎてビビったんだけど。もういいい加減驚かないけどね。て言うか、ゆいぴに従兄弟が居るのは知ってたけど、や〜っと会えたよ。なんかさぁ、可愛いよね」  一体、何の話だろうか。何故だか、りっくんは勝ち誇った顔で余裕の笑みを浮かべて言った。 「お前、マジで性格悪ぃな。わかっててンな事言ってんのが最悪だわ」 「えー? なんの事ぉ? 俺わかんなーい」 「莉久らしいじゃねぇか。捻くれてるっつぅか、悪辣だよな。俺でもわかるぞ。あの子、結人の事好きなんだな」  朔は、りっくんをディスっているのかと思えば、サラッと爽やかに恥ずかしい事を言い出した。 「ま、まぁね。小さい時から凄く懐いてくれててね、遊びに行ったらずーっと僕について回って、帰るって言うと泣いて引き止められてたんだ。大変だったけど、可愛かったなぁ」 「······結人。あの子のは、その好きじゃねぇだろ」 「んぇ? どの好き?」 「マジでか。アレどう見ても、俺らとおんなじ“恋愛感情(好き)”じゃん」  また啓吾が訳の分からない事を言っている。と思ったのだが、みんな同意見のようだ。  従兄弟だし、手はかかるが僕にとっては弟みたいなものだ。真尋だって、僕の事を兄のように慕っているだけだろう。確かに、少しブラコンみたいなところはあるけれど。 「そんなわけないでしょ〜。真尋は僕以外に反抗期なだけだよ。なんか、態度悪いもんね····。ごめんね?」 「「「「······はぁぁ」」」」  皆が大きな溜め息を漏らす。また、何かに呆れているようだ。 「え、どうしたの?」 「結人はさ、なんでアレで気づかねぇの?」 「鈍感ってレベルの話じゃねぇな。俺でもわかったぞ」 「いくらなんでもだね。あそこまで態度に出てて気づいてもらえないなんて、流石に不憫だよ。隠してた俺とは違うじゃん?」 「ここまで来ると、もうアホだな」  なんだか、めちゃくちゃ失礼な事を言われている気がする。  僕が何度『そんなわけない』と言っても信じてくれないし、葬儀中も真尋が皆を睨んだりするから空気が悪かった。仲良くしてほしいんだけどな····。真尋の反抗期をどうにかしないと、それは難しそうだ。  葬儀を終え、火葬場から帰る最中の事。マイクロバスで真尋が僕の隣の席を奪いにやってきた。 「結にぃ、俺が隣に座ってもいい?」 「えー····なんで?」 「なんでって、こういう時いつも俺が隣だったじゃん」  隣に座るはずだった八千代が、凄い威圧感で真尋を見下ろしている。怯まない真尋の所為で一触即発だ。 「そうだっけ? ······あっ! 僕、匠真くんと座るよ。そのほうが、つむちゃんも少し休めるでしょ」 「は? おい──」  “つむちゃん”こと、(つむぎ)さんは雄くんの奥さん。つまり、真尋と匠真くんのお母さんであり、僕の叔母さんにあたる人だ。 「あら、結人くんいいの? 助かるわ〜」 「ごめんね、八千代。今日だけだから····。匠真くん、僕の隣においで」 「うん! 結にぃのお隣座る〜」  小さい子は可愛いな。手も僕よりとっても小さくて、ほっぺがふにふにしている。一生懸命、幼稚園の事や最近ハマっている戦隊ヒーローの話をしてくれるんだ。  こんなに癒されれば、態度の悪い真尋と勝者の余裕をかましている皆との、バカみたいな睨み合いだって気にならない。  大きな問題もなく、おばあちゃんを見送ることができた。不思議と泣かなかったのは、あの日沢山泣かせてもらったのと、今日の騒々しさのおかげだろう。  そして、僕の家で夕飯を食べる事になったのだが、ゆうくん一家だけでなく、おじいちゃんまで居る。  いよいよ、僕たちの事を話すんだ。父さんと母さんに話した時ほどではないが、やはり凄く緊張する。    代表して、父さんが一通り説明してくれた。  どうやら、おじいちゃんとおばあちゃんには、かなり前に話していたらしい。プロポーズの後くらいには伝えていて、あっさりと認めてくれていたのだとか。おっとりし過ぎじゃないかな?  問題は、やはり真尋だ。真尋以外には、驚きつつも反対はされなかった。父さんの説明に加え、皆の紳士な態度のおかげだろう。  啓吾なんて、既に“雄くん”と呼んでタメ口で喋っている。火葬場で雄くんに絡まれているのは知っていたが、まさかここまで打ち解けているとは思わなかった。  さて、問題の真尋だが、断固として反対すると主張し続けている。理由は頑なに言わない。  そして、皆は気を使って早々に帰ってしまった。真尋のドヤ顔に顔を引き攣らせ、よからぬ心配をしつつ····。  真尋が盛大に我儘を放ち、今日はお泊まりする事になった。当然の様に、僕の部屋で寝ようとする。  客間を進めたが、これまた断固として拒否された。昔から、上手く甘えて押し切ってくるのが手に負えない。 「結にぃ····俺のコト嫌いになった?」 「そ、そうじゃないけど····」 「良かった。ならいいよね。一緒に寝ようね」  こんな調子だ。自分のチョロさに嫌気がさす。これじゃ、夜に皆と電話もできないじゃないか。  ベッドに入りスマホを開くと、真尋が背中に乗ってきた。重い。 「結にぃ、スマホ変えたんだ」 「うん。こないだ壊れちゃったから」  とてもじゃないが、壊れた経緯は話せない。  海で落としたと言って、新しいのを買ってもらったのだ。母さんに嘘をついて頼むのは、本当に心苦しかった。 「って····え、何この待ち受け。て言うか結にぃ、待ち受け変えれるようになったの?」 「そんなわけないでしょ。朔にやってもらったんだよ」  一生待ち受けにすると言っていた、指輪とネックレスの写真。スマホが壊れて消えてしまったと思っていた。  だが、何故か皆も持っていたので送ってもらったのだ。心底安堵する僕を見た皆に、頭をわしゃわしゃと掻き乱されたっけ。 「ほら、これの写真だよ」  僕は寝返りをうって仰向けになり、首元から取り出したネックレスと指輪を見せた。すると、真尋はそれを、引き千切りそうな勢いで引っ張る。 「ひゃっ····真尋!? やだ、やめて! 千切れちゃうでしょ!?」 「千切りたいんだけど。結にぃの首に傷がついたらダメだから我慢してるんだよ」  伏し目がちで、僕の事を睨むように見てくる。こんな真尋は初めてだ。 「ねぇ真尋、いつもより変だよ? なんか近いし····」 「結にぃこそさ、俺の事バカにしてんの? なんで今まで散々アピってきたのに、あっさり他の男のモノになってんの?」 「······アピ?」 「え····? え? 嘘でしょ? マジで気づいてなかったの!?」 「ごめん····何に?」 「うっそだろぉ······」  真尋は、僕の上で(うずくま)って項垂れた。もしかして、皆が言っていたやつだろうか。 「えっと··ね、皆に言われて『そんなはずないよ』って言ったんだけど······。変なこと聞いていい?」 「····何?」  真尋は僕に顔を(うず)めたまま聞く。こもった声が可愛い。 「皆がね、真尋は僕のこと好きだって言うんだ。その····恋愛的な意味で····。ち、違うよね?」  真尋はガバッと体を起こし、四つ這いで僕に覆い被さる。そして、僕の顎をクッと持ち上げると、甘い声で聞き返してきた。

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