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絡まれちゃった
りっくんの甘いお強請りに負けてしまった僕。お強請りを遂行する為に、りっくんと啓吾を打ち上げ会場へ連れて行った。
クラス、違うんだけどなぁ····。
「あーっ! 武居くん達遅··い····あれ? なんで鬼頭くんと大畠くんも来たの? クラス違うでしょ」
少し遅れて会場入りした僕たちは、クラス委員の谷川さんに角 を立てられた。谷川さんは、普段から思った事をハッキリ言うタイプで、怒ったらズバッと切り込んでくるのが少し怖い。
「って、野暮な事は言わないけどさ。鬼頭くん、外で肩抱いて歩くのはどうなの? あと、クラスにちゃんと連絡した? そっちのクラスの友達から鬼電来てたんだけど」
「あ、してねぇわ。ごめんね、谷川さん。ははっ、俺んとこにも冬真から鬼電きてる。うぜぇ〜」
去年はクラスの打ち上げなんてなかったから、実は結構楽しみにしていたのだ。僕が参加してみたいと言うと、八千代と朔も参加すると言い出した。
そこへ、りっくんと啓吾まで来たものだから、クラスの女子からはとても感謝されている。けれど、僕としては色めき立った女子を見ると複雑な気分だ。
クラスメイトたちは、今年も大活躍だった八千代と朔、それに猪瀬くんをそれぞれに讃える。そして、クラス委員長の谷川さんが音頭をとり、乾杯して打ち上げが始まった。
僕はこういうのに参加した事がないので、ガヤガヤした雰囲気に慣れない。りっくんの事もあるし、なんだか落ち着かずソワソワしてしまう。
なんて、緊張していたのは束の間。りっくんたちがどんどん食べ物を取り分けてくれるから、周囲に驚かれつつもお腹いっぱい食べてしまった。そして、少し気が緩んでウトウトしていた時、それは起きたのだ。
クラスの派手目な女子が3人、りっくんと啓吾の隣に座った。あまり話したことのない人達だ。どうやら、僕の存在を知ってなおアプローチをかけに来たらしい。僕が隣に居るにも関わらず。凄い度胸だ。
初めは、普通に話す程度だった。りっくんも啓吾も、軽く躱 す。それよりも、僕が寝ないように構い続けてくれているが、そろそろ限界だ。
僕が眠りに落ちていくのに比例し、次第に女子の圧力が増してゆく。1人が啓吾の肩に触れた時、ムッとして少し目が覚めた。
続けて、他の子がりっくんの腕に擦り寄る。と言うより、腕を抱き締めているようだ。僕は重い瞼を擦り、りっくんの反対側の腕をグイッと抱き寄せて言った。
「あのね、僕のだから触らないでね」
言葉を放った直後、ハッとして目が開いた。僕、今なんて言った? りっくんが涙目で僕を見ている。
りっくんにお強請りされたアレを、殆ど無意識で遂行してしまったようだ。素で言ってしまったなんて恥ずかしすぎる。
僕の心臓が激しく脈打つ中、りっくんの反応を待たずして女子から歓声が上がる。てっきり、怒らせてしまったかと思ったのだが。
「武居くん、ごめんね。ワンチャンあるかな〜って思ってたんだけど、マジで諦めるから! ていうか武居くん可愛い〜」
どういう事だろう。今度は、僕を挟んで座っていたりっくんと八千代を押し退けて、僕が女子に囲まれてしまった。
物凄い勢いで喋ってくるし、オススメのデザートをどんどん分けてくれる。圧倒されて何も話せない。
「あれぇ? 武居くん眠いの?」
「ん····ちょっとだけ。でも大丈夫だよ。ね、八千代が怒っちゃうから席戻してほしいな〜··なんて····」
「え〜? 場野くんいっつも武居くんにベタベタしてんじゃん。たまにはウチらと絡もうよ」
「ざけんな。絡ませっかよ。テメェらさっさと席戻れや。つぅか結人返せ」
女子達は、くすくすと笑い『はーい』と良い返事をして戻っていった。何だったのかよく分からないけど、こんなのは初めてで凄く新鮮な気分だった。
「女子に囲まれて楽しそうだったな」
向かいで見ていた朔に嫌味を投げられる。ムスッとしていて可愛い。
「えへへ。初めて話す人達だったからビックリしたよ。凄い勢いだったね」
「俺もアイツらにやってやろうか? キスして『俺のだから触るな』って」
「僕、キスはしてないんだけど····。あのね、そんな事されたら心臓爆発しちゃうよ。さっき、八千代が『返せ』って言っただけでも危なかったんだから」
実は、結構照れくさかったのだ。朔は不服そうな顔をしているが、僕は皆が妬いてくれているのが少し嬉しかったりする。いつもとは逆だもんね。
帰り際、お店の前で僕は再び女子に囲まれた。今度遊びに行こうだか、学校でもっと絡もうだとか言っている。なぜか、女子会にまで誘われた。
(皆、僕のこと女子だと思ってるのかな····)
なんてバカな事を考えていると、痺れを切らせた八千代がツカツカ歩み寄って来るではないか。そして、後頭部を持って胸に抱き寄せられてしまった。
僕が誰のモノか、知らしめているんだ。それはいいとして、八千代の胸に顔が埋もれて息もできない。
「お前らいい加減にしろよ。俺らのだつってんだろ。いちいち構うな」
女子から歓声が上がる。そして、口々に反論し始めた。
「場野くんてさぁ、独占欲強すぎだよね」
「なんかぁ、オラついてる割にちっさいね」
「武居くん大変そー」
「他の彼氏に煙たがられてそうじゃない?」
「「あははっ、ぽい〜」」
「つぅかさ、場野くんらだけの武居くんじゃないっしょ」
「そーそー。他の人と喋ったりすんじゃん? アタシらも武居くんと仲良くしたいしぃ。余裕なさすぎ〜」
皆、言いたい放題だ。僕は埋もれたまま、八千代がキレないかヒヤヒヤしていた。
けれど、予想外に八千代は落ち着いて切り返す。
「余裕なんかねぇわ。コイツがどんだけやべぇか知らねぇくせに勝手言ってんじゃねぇ。こんな危なっかしいヤツ、目ぇ離せっかよ」
僕の髪をクシャッと、力強くも優しい手つきで撫で上げる。ちょっとえっちな撫で方に焦った。
それよりも、クラスメイト相手に何を言っているんだか。僕は、文句を言ってやるつもりで顔を出す。が、とても言える雰囲気ではなかった。
女子達は顔を赤くしている。これは、八千代のほうがやべぇんじゃないのかな。皆が八千代に惚れちゃったらどうする気なのだろう。
「や、八千代のばかぁ····」
言葉とは裏腹に、堂々とした彼氏面にキュンとしてしまった。
「ひゃ〜····武居くん愛されてんね〜」
「羨まだわ。マジでこんな彼氏欲しい」
「でも場野くんみたいなのヤダわ。束縛ヤバそう」
「「それな〜」」
「テメェら····」
「はーい、ストップな。場野は女の子にテメェって言わないの」
お会計を済ませた啓吾が止めに入る。御手洗に行っていた朔とりっくんも一緒に戻った。
「出たよモテ男。私さぁ、啓吾が付き合ってるってのが1番ビックリなんだけど」
「それ思った。どんだけ遊んでも絶対彼女作んなかったのにね〜」
「アタシ何回スルーされたと思ってんの? けどまぁ、武居くんじゃ敵わないわ。可愛すぎんもんね」
どうやら皆、啓吾と随分仲が良かったらしい。けど、女子に認められる可愛さって何だ。例え褒められていたって不本意だ。
「ちょ〜とさぁ····結人の前でやめて?」
「あっ!! ごめんね、武居くん。マジでデリカシーなかったわ。もう全然何とも思ってないから! アタシ今彼氏居るし」
僕にだけか。啓吾には謝らないんだ。余程、眼中にないのだと分かる。
「えっ····うん、大丈夫だよ。えっと····啓吾はもう僕のだもん」
圧倒されて焦ったとはいえ、僕は何を言っているのだ。恥ずかしい事を口走ってしまったと後悔しながら、僕は八千代の腕で顔を隠す。
女子達は、目をキュッと瞑って空を仰いだ。
「「「「っか〜〜〜····」」」」
「可愛すぎか。啓吾テレんな、キモい」
「アンタら武居くん寄越せよ。アタシらが面倒見るわ」
「もうクラスで可愛がろ。つか武居くんは全人類で愛でるべきじゃね?」
「これもう天使じゃん。こんなん存在したんだ。マジで泣かせんなよ」
女子の口が悪い。そして、何を言っているのかよく分からない。
「僕の面倒って何? クラスで僕のお世話するの? 僕、そんなに心配されてるの? 頼りないから?」
こそっとりっくんに聞くと、よく分からない言葉が返ってきた。
「ゆいぴは気にしなくていいよ。全人類が認めるくらい可愛いって事だから」
「お前らなぁ、結人が理解できないような事言うなよな。困ってんじゃん」
「武居くんバカ可愛いんだけど。やばー」
「僕、バカじゃない····」
成績は悪くないはずなのに、どうにも皆の会話についていけない。コミュニケーション能力の問題だろうか。
女子の話すスピードが早いんだけど、啓吾たちはちゃんと対応できている。僕だけが取り残されているようで、なんだか胸がキュッとしてしまう。
「結人はバカじゃねぇぞ。コイツらの会話がイカレてるんだろ。俺もついていけねぇ」
「あ〜! そういや瀬古くんと喋んのも初めてだ」
「アタシも〜」
「話す事ねぇだろ。なぁ、もういいだろ。早く場野ん家行くぞ」
「「「や〜らしぃ〜」」」
「うるっせぇ。朔はテメェ何時だと思ってんだ。もう送ってくわ」
「まだ8時じゃん。場野くんマジメかよ」
「どんだけ過保護なの?」
「朝まで連れ回してそうなのに」
「「「ね〜」」」
女子達は、八千代の意外な一面に笑っていた。終始失礼な態度のまま、僕たちは一足先に帰路につく。
道中ずっと、皆は女子への不満を溢れさせていた。そして、啓吾は自ら放った一言で、可哀想な方向へ落とされてゆく。
「つぅか結人さ、予想外な方向で可愛がられてんな。なーんか複雑なんだけど〜」
「複雑ってお前····。アイツら、大畠と遊んでたんだろ。んな奴らに結人は貸せねぇ」
「さっくん、その話もういいから」
「お前、めちゃくちゃ焦ってたな。ウケたわ。アレ全部か?」
「場野もマジでやめろって。なんで結人の前でンな話すんの?」
「え、3人ともなの?」
「なーんで結人まで聞いてくんのぉ?」
「全員だよ」
「なんっで莉久が答えんだよ!! つぅか言うなよ!」
「あははっ。大丈夫だよ、啓吾。啓吾はもう僕のだもんね」
僕は啓吾の腕に抱きつき、ニッと笑って言った。怒っていた啓吾だが、気を鎮めてくれたようだ。むしろ、嬉しそうにニヤけている。
あの子達が気さくだったからか、それほどモヤモヤした気持ちは残っていない。それに、僕のだってちゃんと言えたから大丈夫だ。
新しい交流もあって、皆が居なければ得られなかった経験ができた。僕的には、とても楽しい打ち上げだった。
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